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”メタル”と”ラウドロック”の分岐点 〜ざっくりメタル史〜

先日の記事の補足。「メタル」と「ラウドロック」について書いてみます。

「ラウドロック」というのは和製英語です。こちらの記事で「ラウドロックのフェス」として例示されているDownload UK(UK、キャッスルドニントンで行われるフェス、元モンスターズオブロック)やLouder Than Life(US、ケンタッキーのフェス)なんかは日本の感覚で言う「ラウドロック系のフェス」となると思います。Download UKKerrang!(UKのハードロック・ヘヴィメタルマガジンで、日本のBurrn!が創刊当初目指していた雑誌)が関わっており、今のKerrang!のキャッチコピーは「The world's greatest metal / punk / hardcore / rock music publication.」です。なので、「メタル、パンク、ハードコア、ロック」を混在したものを扱っている。こうしたものを総称して「ラウドロック」と日本では命名しているわけですね。メタラーからすると「ラウドロック」って今一つ曖昧な用語ですが、Download UKのラインナップを見てもらうと分かりやすいかと。

IRON MAIDENKISSは分かりますが、3日目のヘッドライナーの「Biffy Clyro」はメタルじゃないですからね。こういうのも含めたものがラウドロックという括り。そのラウドロックの中で、Encyclopedia Metallum(メタルの百科事典)の定義で言えば「ギターリフが主体の音楽」がメタルとされています。まぁ確かにそう言われてみたらそうかも。「ラウドロック」に広がると、ギターリフがないもの(ビート主体だったり、ギターよりシンセがメロディを奏でたり、ボーカル主体だったりする)も多くなってきます。リンキンパークとかいわゆるNuMetalも「ギターリフ」って概念は希薄ですよね。

他に例示されているラウドロックのフェスの中でフランスのHellfestはドイツのWacken(ヴァッケンオープンエア)と並ぶ欧州メタルフェスなので「ラウドロックフェス」と言われるとちょっと違和感がありますが、ラウドロックとは「メタル、パンク、ハードコア、(その他激しめの)ロック」の総称と考えると理解しやすいかと思います。欧州のフェスは「メタルアーティスト」だけに限らず「その他周辺ジャンル」も含めたアーティストを集めたフェスが多いですね。なお、今回のHellfestは中堅中心の前半3日、ベテラン中心の後半4日と分かれていて画期的かも。ただ、前半もセカンドステージはベテランが固めているし(プリーストやパープル)バランスがいい。ラインナップとしては今年のメタルフェスの最高峰な気がします。


「メタル」と「ラウドロック」の分岐点

メタルシーンには大きくいくつかの転換点があり、それぞれでファン層が異なる印象を持っています。もちろんこのうち複数を聴くメタルファンも多数いますが、このうち「どれかだけ」が好きなファンも多い。音楽としての快楽構造(聴き処やノリ方)がけっこう変化してきています。これは「どこまでがメタルか」論争の原因でもあります。ざっくりメタル史を概観すると下記の6つに分けられると僕は思っています。

1.プレメタル期 1970年代
2.N.W.O.B.H.M. 1980年代前半
3.ヘアメタル/スラッシュメタル 1980年代後半~1991年
4.グランジメタル/プログレッシブメタル 1990年代前半
5.Nu Metal/エクストリームメタル 1990年代後半~2000年代前半
6.メタルコア/グローバルメタル 2000年代後半~

1.プレメタル期 1970年代」はいわゆるハードロックの時代ですね。ブラックサバス、クィーン、レッドツェッペリン、ディープパープルなど。UKで言えばマウンテンとかアリスクーパーとかエアロスミスとかチープトリックとか。いわゆる「メタル」が確立する前の音像。一曲代表的な曲を上げればこれですね。

第一世代はだいたい70代中盤ぐらい。オジーオズボーンやリッチーブラックモアなど。

「2.N.W.O.B.H.M. 1980年代前半」「3.ヘアメタル/スラッシュメタル 1980年代後半~1991年」の時代がいわゆる第一次メタルブーム、HM/HR黄金期と呼ばれる時代です。こちらについては連載記事を書いたのでこの時代の音像に興味がある方は下記の記事をどうぞ。

今も「大物」とされ、フェスのヘッドライナーを務めるメタルアーティストはこの時代のアーティストが多い。90年代には勢いを落としたアーティストも多いですが、00年代以降再評価され復活しているアーティストも多い印象ですね(IRON MAIDENしかりJudas Priestしかり)。いわゆる「ラウドロック」の中で一番人気がある「メタル」の中のトップアーティストがこの世代なので、全体として高齢化しています。2.の世代を代表するメイデンが65歳ぐらいで、3.の世代のメタリカやメガデスがだいたい60歳ぐらいです。

次の「4.グランジメタル/プログレッシブメタル 1990年代前半」の時代からもいくつか今でもヘッドライナーを務めるようなアーティストが出ていますが、こちらはグランジブームが巨大だった分商業的成功を一気に収め、ブームが去るとともに急速に活動規模が縮小したバンドが多い。サウンドガーデンナインインチネイルズ(NIN)レイジアゲインストザマシーン(RATM)アリスインチェインズあたりがここに入ります。活動を続けているアーティストにはRATMやNINなどヘッドライナークラスの大物もいますが、全体的に解散やメンバーの逝去も多く、活動を続けていても新譜はそれほど出していない世代の印象です。現役感バリバリなのは2019年に13年ぶりの新作が全米1位を獲得したToolや、独自の音楽性を掘り下げ続けているDeftonesぐらいかな。オルタナメタルの一例をどうぞ。

ちょっと上記の映像と毛色が違うのがNINやマリリンマンソン、(ドイツの)ラムシュタイン等に代表されるインダストリアルメタル、無機質のデジタルビートを主体としたメタルですね。これもこの時代の「グランジムーブメント」の中から出てきたバンド群。いずれにせよ、それ以前のメタルに比べると内省的でシリアスな世界観を持っています。それ以前のメタルは「キャラクター性」とか「ギミック」があり「ロックスター」然としていたけれど、この時代から等身大の私小説、生身の人間の叫びになった印象。だから、時代と共に過ぎ去りやすかったのかもしれません。

あとはドリームシアターに代表されるプログレッシブメタルも出てきていますが、こちらはまたちょっと違う分類になっており、根強いファンはいるものの大規模フェスでトリを務めるという感じではありません※。そもそも屋外で聴くより座席があるホールでじっくり聞く方が良いバンドも多いですし。大規模フェスに出ないわけではありませんが、プログレッシブメタル(プログ)は単独公演か、独自の中規模フェスといったところが主戦場の印象です。プログレッシブメタルの例はこちら。

もともとメタルにはテクニカルで演奏力至上主義的な側面がありましたが(だからハードコアとは根本的なところで嗜好が異なる)、それを突き詰めていったバンドたち。

第五世代になると「NuMetal」と「エクストリームメタル」が生まれていきます。「NuMetal」がおそらく「メタル」と名の付くもの、ラウドロックと呼ばれる「激しいメタル」が商業の中心にいた(今のところ)最後の時代でしょう。Nu Metalで代表的なのがLinkin ParkLimp Bizkit。グランジメタルの直系ですね。この辺りになると40代~50代、今一番現役感がある世代ではあります。この時代は日本ではメロコア(メロディックハードコア)と呼ばれる一群が人気に。Green DayThe Offspring、Sum41など。「ラウドロック」という括りだとこの辺りも入ったりしますが、ちょっと客層は違う印象ですね。なお、日本ではひとくくりで「メロコア」と呼ばれますがこのあたりのアーティストはUSでは「Pop Punk」と呼ばれることが多いようです。「Melodic Hardcore」だと日本でも知名度があるのはBad Religionでしょうか。日本よりはもうちょっとハードコア色が強いものを指す様子。で、この「第五世代」の時代がメタルとラウドロックの分岐点、日本市場の中で洋楽ロックの中心が「メタル」から「ラウドロック(メロコア含む)」に転換していった時代だと思います。

1990年代後半~2000年代に出てきたバンド群は、先ほど定義した「ギターリフを中心としたメタル」からは音像が変わっていて、従来の「メタル」という概念では括れなくなっていた。だから「ラウドロック」という括りが必要になったのだと思います。後もう一つ、日本市場においては「メタル」はBurrn!誌の印象が強すぎて、それに対してロッキンオン誌などが「ラウドロック」という言葉を使ったという側面もあるでしょう。2000年代前半はまだまだ日本洋楽市場においては紙媒体の力が強かったですからね。この時代に出てきた最後のメタルのスターはSlipknotでしょう。Slipknotもラウドロックに括られてもいい音楽性ではあるのですが、最初からBurrn!誌でも大きく取り上げられたし、たぶんレーベルの担当者が「メタルバンド」として売り出そうとしたのでしょう。USでも「メタルバンド」として認識されているようですが、先に挙げたEncyclopedia Metallumでは項目がありません。ギターリフ主体の音楽ではありませんからそう判断されているのでしょう。

ただ、お面をかぶったギミック性、キャラクター性はメタルの王道です。ホラーとか悪魔とか、そういうモチーフを使うのはメタルシーンが好んで使ってきたエンターテイメント性です。グランジ・オルタナ的な「内面の激情の吐露」を「素顔+ストリートファッション」ではなく、一つのキャラクターとしてダークファンタジー的な世界観を作り上げた。こういう「人工物感」はメタルならではの要素でしょう。

第五世代以降のバンドは従来の意味での「メタル」だけにとどまる音楽性のバンドは少ない印象ですが過渡期でもあり、従来のメタルを温存しよう・そのスタイルを踏襲しようというバンドも存在、その一つがDragonforce。従来のメタル要素を高速化し、なかばパロディ的でありながらも観客の度肝を抜いて一定の成功を収めています。他、NWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)と呼ばれるよりトラディショナルなメタル様式を踏襲するバンド群もあり、Enforcerなどが代表例。またメタルコア的な感性を取り入れつつ従来の欧州メタル(ギターリフ主体)的な要素も取り入れたTriviumAvenged Sevenfoldなどのバンドも存在します。

で、第六世代。ここは現在進行中ですが、2つの流れを感じています。一つ目はよりハードコアに近付き、ライブでの熱狂的なモッシュピットや、コーラスでメロディアスになるメタルコアと呼ばれる音楽が主流になりつつある印象。UKではBring Me The HorizonArchitectsなどが出てきているし、日本では突然変異的に圧倒的巨大化したBabymetalがいます。Babymetalは独自性が高くあまり類似例がありませんが、敢えて既存のサブジャンルで説明するならメタルコア+J-POPという音楽性だと思います。

で、もう一つがUS、UK以外からのバンドのクオリティが上がっていること。それを「グローバルメタル」と勝手に名付けていますが、Babymetalもその一つですね。既存のUS、UKの「ロック」から発展していったハードロックやヘヴィメタル文脈と違う文脈、各地の音楽シーンの他の音楽ジャンルと融合した音像が出てきている印象があります。インドのBloodywoodであったり、モンゴルのThe HUであったり、今後はそうしたバンドがもっと出てくる気がしています。個人的にはこの辺りが「進化するメタル」の最前線かなと。世界制覇するビッグバンド、というより、それぞれのローカルな音楽市場にメタルシーンが出来ていくんじゃないでしょうか。そのあたりのムーブメントについては下記の記事をどうぞ。

…でも、ここまで書いてきて何ですが個人的には「ラウドロック」ってなんだか邦楽の印象が強いんですよね。僕としては激しい音楽を総称する時は「エクストリームミュージック」を使いがちです。ただ、これよりは「ラウドロック」のほうがまだ一般的ですね。今回ある程度定義できたので、今後は「ラウドロック」を使っていこうと思いました。

ジャンル名を考えるのも面白いですね。必要があって言葉は生まれるし、変化して行くものなので、ジャンル名について考えると歴史や周辺情報を辿って行く契機になります。それでは良いミュージックライフを。

※と書いていたら今年のダウンロードジャパンのヘッドライナーがドリームシアターに決定。マジか。まぁ、グラミー取りましたし。今年はプログレメタル色が強まるんですかね。ダウンロードジャパンについてはまた別記事で。

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