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Powerwolf / Call of the Wild

ジャーマンパワーメタルバンド、POWERWOLF新作。2021年リリースです。2003年にドイツで結成されたPOWERWOLFはもともとストーナーロックバンドだったレッドエイム(Red Aim)のメンバーによって結成。Metal Hammer誌の「今年のベストアルバム」や「最有望新人賞」など、多くの賞を受賞しています。ゴシックなメイキャップを行っており、スウェーデンのghostに繋がる世界観も。ジャーマンメタルのかっちりした感じだけでなく、どこか北欧的な抒情性があるんですよね。Sabatonとかにも近い。基本はジャーマンメタルの構築美を持ちながら、北欧的なメロディ感覚を一部持ち合わせたという今の欧州パワーメタルの美味しいどころを組み合わせたようなバンドです。それでは早速聞いていきましょう。

活動国:ドイツ
ジャンル:パワーメタル
活動年:2003ー現在
リリース日:2021年7月16日
メンバー:
 Benjamin "Matthew Greywolf" Buss – lead guitar (2003–present)
 David "Charles Greywolf" Vogt – rhythm guitar, studio bass (2003–present)
 Christian "Falk Maria Schlegel" Jost – keyboards (2003–present)
 Karsten "Attila Dorn" Brill – vocals (2003–present)
 Roel van Helden – drums (2011–present)

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総合評価 ★★★★☆

メロディが充実している。会心の作品。パワーメタラー待望の新譜だけれど期待以上の出来。こうした中堅どころがしっかりとした作品を出してくるのは素晴らしい。モダンなパワーメタルバンド群、たとえばSabatonであったりAlestormであったり、少し経路は変わるがghostやLordiといった北欧やUKのバンド群を想起する。どの曲もコンパクト(だいたい3分前後)に収まっており、ヒットのポテンシャルも高い。ラジオプレイされるのだろうか、そういえば欧州のメディア事情ってどうなんだろうなぁ。USは今もラジオ、そこからのポッドキャストが強いが、欧州もラジオプレイの力がまだあるのだろうか。いずれにせよ、ラジオで流れても、あるいはストリーミングで聴いても盛り上がりまでが短い、イントロ~ヴァース~コーラス、としっかり構成があるけれど、すぐに世界に浸れるようになっている。ドラマティックながらコンパクト、というのはSabatonに近い。ただ、このバンドの特長としてよりコーラスはオペラティックで、ヴァースはドイツ民謡的。リズムはかっちりしているが、空間を埋め尽くすようなツーバスで迫ってくるのは冒頭2曲ぐらい、あとはけっこう隙間のある音作りをしている。コンパクトな曲を並べていきながら単調にならず、各曲のキャラクターが立っているのはさすがベテラン。同じジャーマンパターメタルの今年の新譜で言えばHelloweenは重厚長大路線で来たが、こちらはデビューが20年違う分、モダンでコンパクト。サラっと聞ける。

1. Faster than the Flame 04:08 ★★★★☆

進軍するような太鼓の音、戦場の声、勝どき。オーケストラが入ってくる、壮大なスタート。コンパクトなSEから連呼する雄々しいコーラスへ。ツーバスでミドルテンポでスタート。いかにもジャーマンメタルな機械的なサウンド。あるタイミングで気が付いたが、こういうかっちりしたリズム、ジャーマン特有のリズムはジャーマンテクノの由来なのかもしれない。Helloweenもそうだけれど。疾走感よりかっちりとしたリズム感の方が印象に残る。あまりUSのバンドではこういうかっちり感は無くて、疾走曲は疾走感へ、スロウな曲はヘヴィな酩酊感に振る気がする。ミドルテンポで重戦車のように迫ってくるのはAccept以来のジャーマンメタルの特異性ではないか(他の地域でも再現しているバンドはいるけれど)。歌メロはクラシカル。コーラスも雄々しい。歌メロはレーベルメイトのAlestormやGloryhammer的な感じもする曲。ただ、重厚感というかガンガンと機械的に来る感じが強い。

2. Beast of Gévaudan 03:31 ★★★★★

似たようなSEからスタート、同じシーンだろうか。こちらはもう少し性急感が増した。オケヒットが効果的に使われていて、やや前のめりなリズムで配置されている。この曲はSabaton感が強い。ただ、そこにジャーマンらしいかっちりさが加味されているのがこのバンドの特長。実際に聞くとけっこう違うからね。間奏部ではIRON MAIDEN的な、ライブではコーラスが生まれそうなオーケストラのリフが出てくる。これは白眉の出来。コンパクトでモダンなメタルアンセム。

3. Dancing with the Dead 04:05 ★★★★☆

こちらも80年代後期のメイデン的なリフ。ただ、そこにジャーマンらしいかっちりしたリズム隊が乗ると独自の音像に。適度にリズムがブレイクするので熱く苦しさ、聞き苦しさが少ない。Lordiあたりにも通じるゴシックなメロディ。暗黒のパーティーロック。

4. Varcolac 03:52 ★★★★

こちらもゴシックでオペラティックなコーラスから。嵐の航海のように波打つリフ。エッジが立ちながらも丸みがあるいいギターの音。それほど耳に刺さる感じはしないが軟弱でもない。バイキングメタル的な曲。コーラスでメロディアス、オペラティックな展開に。間奏部は壮大。一度ドイツのコラール(ドイツ語の賛美歌)も聞いてみようかな。やはり(クラシカルと言っても)イタリアとは違う、ドイツ特有のメロディセンスがあるが、源流はどのあたりなのだろう。

5. Alive or Undead 04:23 ★★★☆

ピアノから、テンポはそれほどスロウなわけではないが、ドラムがなかなか入ってこない、入ってきても手数が少ない。バラード。ボーカルのオペラ感が増す。とはいえあくまでロックの範疇で、だが。極端に声楽的なわけではない。

6. Blood for Blood (Faoladh) 03:11 ★★★★

こちらもミドルテンポだが突進感はやや薄目、戦場で言えば前線というより通常の予行演習や後方基地ぐらいの緊張感(どんなたとえだ)。コーラスは軍歌のようなシンガロングで行進する印象。ザッザッザッと行進するリズム。これだけドラマティックながら3分強とコンパクトに収まっているのはモダンで、ストリーミング時代のメタルバンドということを感じさせる。

7. Glaubenskraft 03:56 ★★★★

こちらもオペラティックなSEから。チャーチオルガンも入っている。けっこう後半になるとバラエティ感が出てきたな。メロディセンスが前面に出てくる。Glaubenskraftはドイツ語で「信仰の力」という意味。ドイツ語の曲。ドイツ語歌曲感が強い。ドイツ語というとRammsteinを想起するが、響き的にはもっとドイツ語オペラ的というか、そこにリズムを平準化して強調するとこうなる、というか。ヴァースは民謡的なメロディも出てくる。乾杯の歌みたいな。こういう自国の言語に回帰していく流れはこれからも出てくるだろう。Opethが自国語アルバムを出したりしたように。メタルも英語だけの音楽ではない。ちなみにイタリア語で歌うものであったオペラにドイツ語オペラを最初に作ったのはモーツァルトとされている。モーツァルトはオーストラリア出身だが、当時は神聖ローマ帝国(ドイツ)の国民。

8. Call of the Wild 03:39 ★★★★☆

軽快なテンポ、ややメイデン感があるリズム、カンカンというシンバルを意図的に使っている、コピー、というほどではないが。ただ、コンパクトさ、タイトさは違う。歌メロは欧州的、ジャーマンの伝統的な音楽を感じさせる。コード進行とか。佳曲。

9. Sermon of Swords 03:18 ★★★★☆

ターミネーター2を想起させるイントロ。オペラティックなコーラスが入ってきて近未来感から一気に中世、ゴシック感へ。歯切れがよいボーカル。歯切れがよくコンパクト。お、面白いコーラス。音程的に一度下がるとは。だけれど妙に耳に残る。今作は全体的にメロディの充実度が高いな。練り込まれている。機械的な反復、マラソンのような。

10. Undress to Confess 03:31 ★★★★

ゴシックで北欧的な曲、ハードロックのリズム、キーボードが主体、ディスコサウンド的とも言える。フィンランド、スウェーデンのトレンド。これぞLordi感があるな。煌めくキーボードはghost感もある。ヴァースがしっかり各小節でかっちり収まり、展開もひと段落してからブリッジやコーラスに行く、それぞれのパートで完結感があるのはジャーマン的だが。なんだろう、そういう「かっちりと曲が展開していく」のが心地よい音楽文化なのだろう。そういうところは地域によってけっこう嗜好性が違う気がする。北欧(特にフィンランド)はもうちょっと完結せず次に続いていくというか。スウェーデンとドイツ(とデンマーク)は近いところも多いけれど。

11. Reverent of Rats 02:54 ★★★★

これはゴシックなメタル曲、ハードロック的なリズムでそこまで音圧、音数は多くないが、ギターの音の壁感、全体的な音の隙間は少ない。優美に流れていくギターメロディ。間奏部は北欧メロディックメタル感があるが、歌メロ自体はヴァースはドイツ民謡的、コーラスは言葉数が減りオペラティックというか歌い上げる感じに変わる。コンパクトにまとまって終曲。

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