Helloween / Helloween
全ジャーマンメタラー待望の1枚。多くのメタラーが夢見た「if」が現実となった夢のプロジェクト。マイケル キスクとアンディ デリスのツインボーカル(+カイ ハンセンのトリプルボーカル)、PUMPKINS UNITEDツアーで全世界を歓喜と滂沱の坩堝に巻き込んだ新生Helloweenの新譜がついにリリースされました。某B!誌では広瀬編集長が99点をつけて「あと1点はなんなんだ」とボケるほど浮かれていましたが気持ちは分かります。今年のメタル界の台風の目玉。
非メタラーの方向けに簡単に説明すると、Helloweenは80年代から活躍するジャーマンメタルの代表的なバンドで、日本でも根強い人気があります。ただ、人気絶頂期で最高傑作ともされる守護神伝2章をリリース後、当時のメインソングライター、リーダー的存在であったカイ ハンセンが脱退。そしてしばらくのちにカリスマボーカリストであったマイケル キスクも脱退。Helloweenは新たにアンディ デリスをボーカルに迎えて活動を継続し、その後も良作を連発して人気を保つのですが、やはりカイ ハンセン、マイケル キスク在籍時の作品の人気も高く、あの時代に戻ってほしいファンも存在しました。そこで、マイケル キスクとカイ ハンセンが戻り、7人編成となったPUMPKINS UNITEDプロジェクトが2017年にスタート、まずは新曲1曲をリリースしてワールドツアー実施。そこで大好評を得て、ついにオリジナルアルバムの制作をスタートしてリリースした作品が本作です。
脱退というのはいろいろな軋轢があってのことなので、そう簡単ではない。だからメタラーが妄想する「if」であり、「ぼくのかんがえたさいきょうのハロウィン」だったわけですが、それを乗り越えての再結集、しかもまさかのボーカリスト2名体制という強力な布陣で、まさに多くのメタラーの夢が実現したプロジェクト。アンディ デリス時代のファンもマイケル キスク時代のファンも取り込み、2017年以降、日本ではメタル界最大の話題の一つとなっています。
それでは早速聞いていきましょう。
出身国:ドイツ
ジャンル:Power/Speed Metal
活動年:1983-現在
メンバー:
Markus Grosskopf Bass (1983-present)
Michael Weikath Guitars (1983-present)
Kai Hansen Guitars, Vocals (1983-1988, 2017-present)
Michael Kiske Vocals (1986-1993, 2017-present)
Andi Deris Vocals (1994-present)
Sascha Gerstner Guitars (2002-present)
Dani Löble Drums (2005-present)
1. Out for the Glory 07:18 ★★★★★
SF的なイントロ、スペーシーなSEが流れ、ツインリードのリフが入ってきます。切り込むというよりゆっくりと立ち上がる。そこから疾走。いきなり胸が熱くなる展開です。ボーカルが入ってくる。最初はキスク。このオペラティックとも言える端正なボーカルがHelloweenのサウンドでまた聞けるとは。Helloweenのメロディの特長として明るさ、ポップさと哀愁のバランスがありますが、この曲はまさにそれを体現するようなメロディ。途中でボーカルが変わる、カイかな。基本はキスクのボーカルで伸び伸びとした開放感のある歌メロが続きます。王者の帰還。お、メタル的スクリームで切り込んでくるのはカイですね。Judas Priestな感じ。
先日、「非英語圏アルバムランキング」という企画がTwitterであって、そこにHelloweenの守護神伝2章もランクインしていました。けっこう意外というか、「ジャーマンメタル」は少なくともここ日本ではメタルの主要ジャンルの一つなので非英語圏(=ちょっとマイナーでマニアックなイメージ)と言われても想起しませんでしたが、ワールドミュージック・非英語圏、という視点で聞くと確かにそうかもしれませんね。UKやUSとはメロディセンスが違う。ヨーロピアンポップスのメロディというか、東欧フォークミュージックのメロディセンスも感じます。
話を戻しましょう、復帰作1曲目。期待される「新生Helloween」をまさに具現化したような曲。熱い。
2. Fear of the Fallen 05:38 ★★★★★
リードトラックとして先行リリースされていた曲。アンディ デリスがボーカルでスタート、アンディ色が強い曲です。Powerのようなシンガロングな曲。そこにツインボーカルならではの強力なハーモニーが伸びるコーラス。強力なコーラス部のメロディを持ちながら、ドラマティックに展開していく間奏部。もう無敵状態ですね。S級メタルバンドの面目躍如。この域に達したバンドはほとんどいません。
3. Best Time 03:35 ★★★★☆
メロディアスなギターリフから、ややディスコサウンド的なヴァース。最近の北欧メタルの音像も取り入れていますね。欧州メタル全体のトレンドでもあるのかな。薄くシンセも入っています。ややブライアンメイ的なギターオーケストレーションサウンド。このブリッジミュートしてメロディアスなリフを刻む手法は、考えてみるとHelloweenがFuture Worldで生み出したものかもしれませんね。他にもあるでしょうが、知名度やインパクトという面ではかなり早かった気がします。
4. Mass Pollution 04:14 ★★★★☆
お、これはカイハンセンボーカルかな。ノッてますね。声がノリノリ。ボーカルうまくなりましたよね。Gamma Rayで長年ボーカルを務めているから当然と言えば当然ですが。キスク、デリスというテクニックと個性を持った2大ボーカリストに挟まれながら、ハンセンも特色あるメタル色の強いボーカルを聞かせています。ストイックなメタル曲ながら間奏部の展開も凝っている、1曲1曲に込められたアイデアの総量が多い。ソングライターが増えたことの効果が出ていますね。ドラマー以外全員曲が書けるので、6名もソングライターがいる。アイデア量が桁違いです。アイアンメイデンにも近いですね。
5. Angels 04:42 ★★★★
キスクのボーカルからスタート、やや毛色が違うスタート、歌メロもちょっとモダンですね。いつの時代を起点にしてモダンというかは難しいですが、、、うーん、95年ごろでいう「モダンメタル」かな。もちろんHelloweenもこういう要素を都度都度取り入れてきたのですが。ややダークでヘヴィな側面が強調された曲。途中はダークファンタジー的でもあります。
6. Rise Without Chains 04:56 ★★★★☆
メロディアスで突然切り込んでくる、性急なスタート。メロディの奔流。こういうのがHelloweenですね。途中でリズムが突っかかるような不思議な変化がある。歌メロの入りの拍を一部ずらしています。守護神伝の頃を思い出す曲。間奏部はドラムが叩きまくる。リフの煽情度が高い曲。実験的でチャレンジングな構成。
7. Indestructible 04:42 ★★★★☆
ドラムのフィルインから、ミドルテンポで攻めてきますが独特なリズム感を持っています。パワーメタル、力強いリズム。ブリッジ~コーラスは強力。これは1番と2番で歌い分けているな、キスクが1番、デリスが2番か。完成度の高いパワーメタル。
8. Robot King 07:07 ★★★★★
疾走曲、最初から高音ハーモニーでいきなりテンションを上げてきます。7分越えの大曲、どう展開していくのだろう。コーラスは優美、クラシカルな響きがあるかっちり構築されたメロディにリフが絡みあう。ブリッジ~コーラス、ときて、その後さらに大サビが来る。これでもか、とメロディが何度も展開していきます。全体的に音数が多く、こってりとした味付けながらメロディは優美。いろんな要素がてんこ盛り。音数を減らす、シンプルにしていく方向性に真っ向から逆行する音の足し算、隙間のない音の壁。デリス期のHelloweenはそうした音数過多の傾向があり、息苦しさや聞き疲れを起こしていたのですが、今回はそうした音数の濃さに加えてされにメロディもてんこ盛りです。でもどの曲も個性があり、各パートの完成度が高い。メタルの贅沢なフルコース。この曲はアイデアが次々と展開していき、長さを感じさせずに7分が過ぎます。
9. Cyanide 03:29 ★★★★☆
シンプルなリフ、突進力はあるものの前の曲よりはやや隙間を感じる曲。一息ですね。デリスのボーカル。だんだんハーモニーが分厚く、ギターリフも音が分厚くなっていきます。ギターソロ。ジャーマンメタル、メロスピってドラムパターンが一定のリズムを刻む、揺れがないのでそれが飽きや聞き疲れの原因にもなるのですが、ここまで繰り返されると心地よいですね。安定感があります。シンプルなメタル曲。
10. Down in the Dumps 06:01 ★★★★☆
SEからじっくりとスタート、メロディアスで反復するシンセ音、そこにメインリフが乗ってきます。再びツーバス連打へ。揺れない、跳ねない、硬直的なリズム。その上で構築され、積みあがっていくリフ、変化していくボーカルメロディ。かっちりした石造りの城のような音楽。ボーカルラインは伸びやかに駆け抜けていきます。戦場のような激しさも感じる。間奏部分、ドラムが飛び回る。どんどんボーカルが高く昇っていきます。緊張感が高いままどんどん圧が上がっていく曲。
11. Orbit 01:04 ★★★
次の曲へのイントロ、クラシックのOvertureのような、ホルストの”惑星”のイントロを思い浮かべます。
12. Skyfall 12:11 ★★★★★
ボーカルとギターメロディからスタート。先行公開されたシングルエディットバージョンは7分台、こちらはフルバージョンで12分台。大曲で終わる構成は守護神伝2部作を思い出させます。二人のボーカルが入れ替わりながらメロディをつなげていく。テンポチェンジしながら、雄大でシンガロングなハロウィン印のメロディ。確かに、こういうメロディには欧州らしさを感じます。ベースが前面に出てきてユニゾンでキメ。間奏部もドラマティック。テンポチェンジしてスロウに。「Little Alien」や「Hanger 18」という単語が出てきます。テーマは宇宙人、SF。ディズニーのアトラクションのように次々と場面が変わっていきます。一大叙事詩。
総合評価 ★★★★★
素晴らしい。メタル好きでよかった。そう思える作品。99点(=過去最高)、とまでは行きませんが、期待に見事にこたえてくれた作品。どの曲もキャラクターが立っていて一聴で記憶に残ります。こういうフォーマット(テンポ、音像、メロディ)で作り上げる作品としては最高峰でしょう。
テンポがほぼ一定でかっちりしている、ビートだけでいうとテクノにも近いですよね、ほぼ一定で、かつ隙間がない。メタル作品を聞くとだんだん眠くなることが多いのですが、考えてみると音の隙間、テンポの揺れがないから気が付くと息を詰めているんですね。だから酸欠気味になって眠くなる。息つく間が無い音楽とはこのこと。深呼吸すると集中力が戻ります。
そうしたしっかりしたリズムの上でどんどんメロディが展開していく、ある意味クラシック、オーケストラの盛り上がる楽章だけを抽出したようなスタイルです。特に今作はどの曲もクライマックス感が強い。ドラマティックでアイデアを詰め込んだ大曲の近くに、エネルギッシュで小ぶりな疾走曲があるはあるもののそれも間奏部やメロディがかなり練られていてこってり度が高い。ジャーマンメタルのフルコース。
素晴らしい作品をありがとうHelloween。
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