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Vulture / Dealin' Death

Vultureは2015年結成、2017年デビューのドイツの若手スラッシュ/スピードメタルバンドです。こちらは2021年リリースの3作目でMetal Bladeからのリリース。ジャーマン・スラッシュらしい個性を持ったバンドです。Sodom,Destruction,Kreator,初期Rageあたりが好きな方は楽しめる気がします。ボーカルの個性が強く、歌い方も独特。すぐ金切り声を上げますが曲やリフはかなり練り込まれています。

1.Danger Is Imminent 00:55 ★★★

アコースティックギターのアルペジオ、不穏なコード進行の響きが重なっていく。キーボードが入ってくる。音はけっこうクリア。ブラック的な要素、北欧の森感はそこまで感じない。

2.Malicious Souls 03:17 ★★★★

イントロたる前曲を経てひっかかるようなリフがスタート。金切り声が入ってくる。Mercyful Fateとか、ああいうちょっとオカルティックなスタート。いや、80年代欧州スラッシュと言うべきか。ボーカルはけっこうオールドスタイル。ギターリフは凝っている。展開が読めない。ドラムはバタバタ感。ボーカルは本当に80年代スラッシュだな。ドラムはそこまでやけくそ感がない、バタバタ感はあるが比較的落ち着いて叩いている。手数はそこそこ多いが走る感じはない。ギターはセンスがいい。いかにもB級ながらギターのアレンジセンスはいいな、演奏もテクニカルさを前面に出すわけではないがタイトだし、曲展開も目まぐるしいもののそこまで極端、唐突感はない。初期Metallica的、ハードコアの影響も感じるが欧州メタルの抒情性も感じる。どこのバンドだろう。Metal Bladeから出ている。アメリカかなぁ。


3.Count Your Blessings 04:04 ★★★☆

前の曲から間髪入れずにスタート、ややメロディアス感が増した。ギターフレーズはツインリードでメロディスなフレーズも出てくる。ミドルテンポでしっかりと進んでいく、音の芯がある。しっかりしたクオリティ。欧州感が強まってきたな。ドイツだろうか。コーラスとの掛け合い。最後は金切り声で終曲。ここまで怒涛の展開。

4.Gorgon 05:42 ★★★★☆

一息ついて、音がだんだんフェードインしてくる。マーチングのような、勇壮なリズム。そこまで抒情的ではないが勇壮なギターフレーズ。そこからテンポダウンしてピアノが入ってくる。ベースの音が太くなる。音響的に実験色がある。ミドルテンポ、カンカンとなるシンバル。これインストなのだろうか。凝っているが歌がなかなかスタートしない。あ、1:30近くなって入ってきた。ドラマティックで演劇的な展開、Mercyful Fate色が強い。なんだろう、ボーカルの癖が強い(し、そこまで説得力も無い)が、バンド全体としてはアンサンブルの力が強い。素っ頓狂なパートで意表を突きながら適度に抒情的、コード感のあるパートが出てきて耳を惹く。B級とA級の間というか、明らかにB級感のある佇まい(特にボーカル)ながら曲作りにハッとするものがあって集中力が維持される。ボーカルも別に下手というわけではなく、存在感はある。

5.Star-Crossed City 05:11 ★★★★

今度もミドルテンポ、Judas Priest的なかっちりして切り込んでくるリフ。また雰囲気が変わった。だんだんメロディが前面に出てくる。ボーカルは相変わらず暴れている。音程が飛び跳ねる、演劇的でシアトリカル。正統派HMにスラッシュ的な変なコード進行、歪んだ感じのコード感が入り、さらに演劇的、King Diamond的なシアトリカルなVo(オールドスタイル)が乗るという音像。面白いな。ボーカルも音高がけっこう飛び回るのだけれど、力みすぎてこうなっているというより多分こういうスタイルなんだよな。意図的にやっている。メロディアスで抒情的なツインリード的な音色ながらコード進行がけっこう変、わかりやすい抒情性やコード進行ではないが、インプロで弾きまくるギターソロではなくきちんと作曲されている感じ。これは個性がある。しっかりと練り込まれていることが分かる。でもボーカルは癖が強いなぁ......。美声でもなく、音域も狭めなのだろう。だから金切り声でバリエーションを出している。とはいえ、バンドの中心に鎮座する存在感があるからカリスマ型か。


6.Flee the Phantom 04:55 ★★★☆

また不思議な組み合わせ、ミドルテンポと高速感が混じる不思議なイントロ、そこから疾走に統一して駆けていく。このボーカル、初期Rageとか、ジャーマンスラッシュ勢の感じもあるな。やけくそな叫びというか。ああいうスタイルを意図的になぞっている感じもする。プロダクションや演奏は良く聞くとけっこうしっかりしている。音の粒もそろっていて荒々しさは少ない。なんだかこのボーカル、妙に親近感が沸くな。好きでやっている感、メタル愛は感じる。1曲1曲、しっかりと作り込んである。

7.Below the Mausoleum 05:01 ★★★★☆

ミドルテンポ、打ち付けるような、こぶしを振り上げるテンポ。リズムが強調される。刻みのリフが入ってくる。そこからリズムが跳ねる。だんだんリフが展開していく、少し奇妙な、Voivodあたりのような奇妙な感じがする。あそこまで明らかにひねくれた展開はしないが、予想は裏切られる。予想を裏切ってくる。アレンジや展開は予測を少し裏切ってくる。コーラスが入る。変拍子とかものすごく明らかな違和感はないが、少しづつずらしてくる。リズムブレイクを挟みながらメロディアスなギターソロへ。変わったメロディセンス。必ず「お約束」的なものをにおわせつつずらしてくる。一筋縄ではいかない。かといって小難しい感じはない。「ニヤリ」としてしまう小ネタが盛りだくさんな感じ。

8.Dealin' Death 03:46 ★★★★

飛び跳ねる曲、Ravenとか、あそこまで爆走感はないがこのバンドにしてはスピードメタル感がある。演奏は比較的かっちりしているのだけれど、ボーカルだけが破綻するというか素っ頓狂な声を張り上げるんだよなぁ。これがいいスリルになっているのかも、普通に歌がうまいボーカルだと個性はだいぶ減るだろう。なんだろうなぁ、前も書いたけれど親近感が沸くバンド。ボーカルのキャラクター性か。唐突な金切り声に「うるせぇよ!」と突っ込みたくなる。とはいえ曲全体としてみるとそれなりにカッコいいんだよなぁ。


9.Multitudes of Terror 04:06 ★★★★

ドラマティックで大仰なイントロ、ミドルテンポで一通り盛り上がった後ややテンポアップしてくっきりとしたリフへ。そこへ煮え切らないボーカルが入り、疾走していく。ここまでしっかりしたドラマ性を入れていたのにボーカルが入ったとたんに薫り立つB級感。コミカル感。しばらくボーカルがないパートになると急にバンドの格があがる感じがする、が、ボーカルの素っ頓狂な声がないとどこか物足りなさもある。これ、そのうちボーカルもうまくなるというか説得力が上がるのだろうか。ジェームスヘッドフィールドだって1stだとまぁ素っ頓狂な部分も多かったからなぁ。

10.The Court of Caligula 05:24

ミドルテンポでじわじわと来る、ボーカルが暴れまわるがこの曲はけっこうサマになっている、ミドルテンポでもともと演劇的な余白がある曲だとこの芝居がかった感じが徹底していてハマるのだろう。コーラスでやや奇妙なメロディ。最後、ややグロウルがかった声。ボーカルの芝居で終わる。いやぁ、ボーカルアルバムだなぁ、主役を持っていく。

総合評価 ★★★★

ボーカルの好き嫌いがかなり分かれそう。B級というか妙な金切り声を出すし、たぶん声域が狭いのだろう。ライブではどうなんだろうなぁ。カリスマ性はありそうな感じがする。声量もあるのだろう。このボーカルを受け入れられるかどうかで楽しめるかどうかが決まる。曲そのものはかなり練り込まれているというか、アイデアが豊富。お約束な展開、そうしたフレーズをにおわせながらもひねりを加えてきて混乱させられる、聞き飽きない。それが全曲、全パートにおいて繰り広げられるのでかなり作編曲は練られていて能力も高い。ただ、ボーカルの素っ頓狂さとの組み合わせで全体のバランスが成り立っているので、そこをどう感じるか。個人的にはそこそこ好きだけれど、人を選びそうなアルバム。

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