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CHAI / WINK

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邦楽ウィーク最終日、今日は6枚目でCHAIの「WINK」を聴いてみます。一応、6枚で今のJ-POPの輪郭が掴めるような盤を選んでみたつもりです。その中で最終日のCHAI(チャイ)は一番海外に活動の軸足を置いているというか、世界で勝負しようとしているバンド。前作「PUNK(2019)」はオルタナティブロック史でも2019年のアルバムの一つに選びました。

2017年のSWSX(アメリカの、インディーズアーティスト、ネクストブレイクアーティストが多く出演するエンタメ業界の見本市)に出演し、そこで海外からも一定の注目を集め、海外インディーズレーベルの名門、サブポップと契約。本作はサブポップから初のリリースとなる通算3枚目のアルバムです。おおむね海外メディアからも好評でMetacritic(各種メディアの評価を集計したサイト)では80点。個別にみるとAllmusicNMEが★★★★、ピッチフォークが7.5などですね。「特徴的なダンスパンクとポップロックに加えてヒップホップとR&Bを追加した」と評されているようで、そうした新要素も評価されているようです。前作「PUNK」も高評価でしたが、軒並み似たような前向きな評価、といったところでしょうか。2019年のサマソニでライブを観る機会があったのですが、独特の世界観をしっかり構築していて存在感があるライブでした。前作からどう進化を遂げたのか、聞いてみます。

活動国:日本
ジャンル:ダンスパンク、ガレージパンク、ヒップホップ、ポップ、ポップロック、R&B
活動年:2012-
リリース:2021年5月21日
メンバー:
 マナ Vo&Key
 カナ Vo&Gt
 ユウキ Ba&Cho
 ユナ Dr&Cho

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総合評価 ★★★★

なかなか難しいアルバム。かなり音像は変化していて、もともと要素としてはあったドリーミーな感じが強調されている。けだるさとか、90年代的なスラッカー(だらしない)カルチャーというか。ヒップホップも不思議な90年代感がある。レトロフューチャー感。ただ、アルバム全体としてはじけるようなポップさや魅力、勢いが減退し、どこか落ち着いてしまっている。宇多田ヒカルのUTADA名義のアルバムを少し思い出した。なんというか、きちんと洋楽的な音になっているのだけれど、その結果としてそこまで魅力的な音楽ではない、というか。本作にも輝く瞬間やひらめきはもちろんあって、たとえばチップチューンを取り入れた「5. PING PONG!」は名曲だと思う。ただ、全体としてダウナーすぎる感じ。クルアンビンとか、あのあたりも意識したのかなぁ。

3枚目のアルバムというのは難しい。それまでの蓄積が爆発するデビューアルバム、そして、1stをさらに洗練させるセカンドアルバム(セカンドが最高傑作とされるバンドも多い)。ただ、セカンドアルバムである程度「型」ができると、そこから拡散する、次の音楽性を模索する3rdアルバム、となることが多い。そういう意味では正しいサードアルバムで、今まで持っていた要素の拡張ではあるが、新しい音像に果敢にチャレンジはしている。今は「ちょっと分からないなぁ」という感じだが、これからの活動で音楽の振れ幅、引き出しが増えたのは確か。

しかしアルバムを通して聞いた後、このジャケットを見ると意味深なものを感じる。ピンクの背景は、確かにこういうピンクの雲、どこかドリーミーな感じの音像が全体のベースを占めているのだけれど、メンバーはその中で居心地が悪そうだったり鼻をつまんで拒絶感を表している。そこまでコンセプトとして「押し付けられた音像」に反抗してみせたのか、あるいはアルバムが出来ていく過程ですでに葛藤や衝突があってそれがジャケットに出たのか。最初は「押し付けられる女性性」みたいなものへの反発を表したジャケットなのかと思ったが、音像はそんな感じではなかった。そういうコンセプトならもっとパンク寄り、従来の音像にはそうした要素もあったのだからそちらを強化しただろう。本作ではむしろ背景のピンク感が音像としては強化されているが、それに対していやがるメンバー、というのはなかなか暗喩的なジャケットである。

いずれにせよ、本作は残念ながら前作よりやや失速というか模索中な感じを受けたが(今のところ、チャートアクションを見ても前作を越えていない)、バンドは続いていくだろうから、この次にどんな音像になっていくのか。ポテンシャルはあるバンドだし、このアルバムからもそのポテンシャルは感じられるので、彼女たちのストーリーの続きは引き続き気になる。

1. Donuts Mind If I Do ★★★★☆

浮遊感のあるイントロ、80年代ディスコ、いや、フリーソウル的な、ドリーミーでゴージャスな音像。どこかDIY的、控えめなビートにふわふわしたシンセ音、やや遠くでリバーブがかったボーカル。日本語で歌われているが、音は完全に洋楽、ボーカルが(今週聞いてきたほかの邦楽に比べると)後ろの方にある。楽器と並列というか。昨日のヒゲダンもこれぐらいのミックスだともっと盛り上がるのになぁ。Wikiによると東京3か所、NY1か所の日米のスタジオで録音された様子。プロデューサーも日米混交。サウンドエンジニアも日米混交だろうが、どちらかといえば米国のインディーポップのサウンドに合わせた感じを受ける。

2. チョコチップかもね (feat. Ric Wilson) ★★★★

ドリームポップ、夢見るような音像。途中からラップが入ってくる。リズムも隙間がある、ヒップホップな感じだがギャングスタ的な尖った感じはない。もっとメロウなヒップホップ。呪術的な、つぶやくようなけだるいボーカル。ささやくようなボーカル。ただ、ボーカルまでの距離はけっこう遠い、リバーブがかかっていて空間に浮遊している。耳元でささやかれるような感覚はない。これは新機軸の曲かも。最近のアジア系サウンドを研究したのかな。Rina Sawayamaとか。

3. ACTION ★★★★

アルファベット、単語を分解して文字を連呼する。テクノ的な曲。ミニマルテクノ。リッチーホゥティンとかああいう感じ。だけれど声も入るからちょっとポップだな。フロア仕様。ボーカルは変わらずリバーブがかかっているがビートの音は硬め。

4. END ★★★★☆

音が飛び込んでくる、サンプリングされたブレイクビート、ホーンとボーカル、「E,N,D」の声が耳に残る。日本語で、はきはきしたストリートダンス的な。LLブラザーズとか一世風靡セピアとか、Exileとかの登場テーマみたいな感じ。ただ、音は現代。音響が重要なジャンルだから音がいいというのはアップデートされた感じがする。なんだかちょっと90年代ヒップホップな感じを出しつつ、今の音で演っている。

5. PING PONG! (feat. YMCK) ★★★★★

チップチューン(8bit、ファミコンみたいなピコピコした音)。チップチューンの第一人者YMCKとコラボしているようだ。チップチューンも「日本的」なサウンドだよね。なんというか、世界に出ていくバンドは差別化のためか「日本的なもの」をきちんと考えて具現化しようとする傾向にある。「○○ from Japan!」と紹介されたときに、じゃあ「日本らしさってなんだろう」と考えるのだろうし、日本らしさがあったほうがリスナー、観客も盛り上がるからね。ゲームミュージック、チップチューンも「日本的」な一つのアイコン。きちんとコーラスでは開放感のあるメロディに変わる。この辺りはJ-POPとしても成り立つな。一時期の電気グルーヴ(シャングリラの頃か)みたいなポップさがある。ただ、音作りは完全に洋楽的。ボーカルも楽器の一部。

6. Nobody Knows We Are Fun ★★★★

やや実験的な音響、かちゃかちゃした、やや騒々しいけれど静けさも感じる不思議なトラックの上でけだるげなボーカル、語るようなラップが展開していく。しかしパンクさ、勢いからけっこうドリーミーな酩酊感の方に音像の舵を切っているなぁ。もともとそういう要素はあったバンドだけれど、今作はけっこう落ち着いた、夢見るようなトーンの曲が(ここまでは)多い。後半勢いが出るのだろうか。この曲はちょっとビョークっぽさもあるな。ヒューマンビヘイバー的なノシノシあるくベース。

7. It’s Vitamin C ★★★★☆

歯切れがよくなった、トラックはサンプリングループ的なブレイクビート。浮かぶような、浮ついたアッパーなラップ。もともとのキャラクターがあるから(少女的な声とルックス)、威圧感や強さというよりはハキハキ感というか微笑ましい感じがするのだけれど、もちろん全米、全世界で評価されるバンドだけあって自信も芯もある、サウンドスタイルには説得力がある。その「強さ」と「微笑ましさ」が同居する不思議なラップ。コーラスあたりからメロディとビートがなめらかになっていき、シティポップ的な雰囲気も持つ。

8. IN PINK (feat. Mndsgn) ★★★★☆

90年代ラップ的な、単語を分解してアルファベットを連呼する。あるいは(海外の)童謡、子供向け唱歌と言えるかもしれない。そこから少しファンキーなビート。音としてはリバーブ多めでドリーミー。全体としてスウィートで甘くコーティングされたような、ジャケットの通りピンクの雲のような音像。そういえばジャケットはそうした「甘さ」の中でしかめ面をして鼻をつまんでいるメンバー。そうしたイメージを押し付けられることに対する不満? そういうテーマなのだろうか。だとしたらこの音像は面白いな。歌詞がけっこうえぐいのだろうか。歌詞カードを見ないで聞いているので、音としてけっこう流れているが(ミックスでそこまでボーカルが前面に出てこないので、意味として飛び込んでくる瞬間が少ない)。そういうコンセプトかもしれないな。この曲は歌詞をみたらほとんど英語で、ところどころ日本語の言葉の断片が入っている。

9. KARAAGE ★★★☆

KARAAGE、唐揚げか! KARAAGEとSUSHIは海外でも人気、らしい。歌詞は本当に唐揚げの歌のようだ、マヨネーズかけてね、おいしく食べてね、みたいなことが断片的に聞こえる。英語と日本語ちゃんぽんな歌詞。ただ、歌詞というかボーカルが主体にはなっておらず、サウンド全体が溶け込んでいる。ドリーミーでミドルテンポな曲。少し弾んだ、歩く速度よりやや遅いリズム。

10. Miracle ★★★★

やや(音程が)不安定、というか、ふらふらするボーカル。ただ、オートチューンというかボコーダーでややゆがんでいる、少しピッチを意図的にずらしている? 軽快なポップがもともとの曲構造なのだけれど、それを少しゆがませた、ゆがんだ鏡を通してみているようなちょっと奇妙なゆがみ方をエフェクトでかけている。

11. Wish Upon a Star ★★★★

急にボーカルがクリアになる、隙間が多いトラックに、リバーブがないクリアなボーカル。言葉がはっきり聞こえる。日本語の歌詞。「私は宇宙」。J-POP的なミックス、と言えるかもしれない。ビートはちょっとたどたどしいというか、意図的にベースとドラムの入りを少し遅らせる、これはこのバンドの特徴的なサウンドで、意図的なものだろう。それによってたどたどしさ、荒っぽさが出る。ボーカルはオンタイムでビートに乗る、ドラムが少し遅れ、この曲ではベースはもっと遅れ気味で入ってくる。

12. しょっぱい ★★★

あどけなさを強めた声のコーラス、短い終曲。「しょっぱい」と言われるとなかなか難しいな。

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