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The Lathums / How Beautiful Life Can Be

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いきなり全英1位をデビュー作で獲得したUKのニューカマー、ラサムズ。マンチェスター郊外のウィガン出身の4人組で、2019年からEPなどをインディペンデントでリリース。2020年にアイランドレコードと契約し、本作がデビューアルバムとなります。デビュー前のEPをまとめたアルバム「The Memories We Make (2020)」が全英14位を獲得するなどブレイクの兆しはあり、2020年度の「翌年ブレイクするアーティスト」に選ばれたりもしていたようですが、その予想を上回るデビューから全英1位の快挙はロックの大型新人現るという印象。初動のインパクトでアークティックモンキーズとも比べられているようです。まだあまり情報が出回っていません(英語版wikiもない)が、これから一気に話題となっていくでしょう。なお、なぜかすでにドイツ語のwikiはあるんですよね。ドイツで人気なのかな。

2020年代、すでに盛り上がりを見せているUKロックシーンの新たな台風の目となるか。聴いていきましょう。

活動国:UK
ジャンル:インディーロック
活動年:2019-現在
リリース:2021年9月24日
メンバー:
 Alex Moore, Vo
 Scott Concepcion, Gt
 Johnny Cunliffe, Ba
 Ryan Durrans, Dr

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総合評価 ★★★★★

2020年代のオアシスになるかもしれない。いや、敢えてこう書いてもいい。「ビートルズの再来」と。

「ビートルズの再来」と言われたバンドは70年代にはたくさんいて(たとえばマイシャローナのナックとか)、最近はさすがに言われなくなったけれど、でも聞いて最初に浮かんだのはビートルズ、特にポールマッカートニーとの共通項だった。全12曲ながら39分と短いし、ビートルズ的。

ただ、そうした60年代、70年代のニュアンスもありつつ、その後の80年代、ポストパンクやニューウェーブ、スミスなどのサウンドの影響もしっかり取り入れつつ(1曲目はスミスっぽい)、90年代のブリットポップ、そして00年代のダンスロックや、ミューズ的なエモーショナル/大仰な盛り上がり方も入っている。最後の曲ではフレディマーキュリー感まで盛り込まれていてサービス精神旺盛。UKロックの歴史をたどり、その先に進んだアルバム。それがあくまで自然体で生み出されている。これは2021年の「Definitely Maybe(OASISのデビューアルバム)」かもしれない。この1枚で終わらず、次にモーニンググローリー(OASISの2ndアルバムにしてブリットポップを代表する名盤)的なアルバムを出すことができたら今後10年間のUKロックの覇者になりそう。

空洞化していた「中心」を埋める超新星。実験性や新規性にはやや欠けるところがあるけれど、その分自然体でメロディの魅力度が高い。単なる焼き直しではなく「王道」を鳴らせるバンドが新たに出てくるとは驚き。UKロック好きならチェックすべきバンド。

なお、ボーカルのルックスが(最近の)アンディ・パートリッジ翁(XTC)にちょっと似ているのも個人的にはポイントが高い。

1.Circles Of Faith ★★★★★

Smithっぽい。The Pale FountainsとかPrefab Sprout、あの頃の音を彷彿させる、ギターとボーカルの繊細な絡み合い。変拍子の巧みさや歌メロのフックはもっと洗練されていて今っぽい。80年代、90年代のロックのレガシーをしっかり受け継いでいる。これはド直球のUKギターロック。だんだんテンションが上がっていく感じは90年代以降のエモ的な盛り上げ方もしっかり入っている。衝撃的な1曲。

2.I'll Get By ★★★★☆

ビートルズ、というかポールマッカートニー的な展開。少しI've Just Seen A Face(夢の人)のようなポップさがある。UKフォーク的かつダンス、フォークダンス的というか。ちょっとVampire Weekendの1stにもあった「軽やかなダンス感覚」もあるな。ラテンのリズムを取り入れているわけではないのだけれど、ダンサブル。引き合いに出すべきはVWよりアークティックモンキーズなのかもしれないが。

3.Fight On ★★★★☆

ちょっとポストパンク的な、性急な言葉を並べるサウンド。おお、UKっぽい。とはいえポップなフックがある。80年代懐古ではなく、その後のブリットポップも、アークティックモンキーズなどの2000年代以降のUKロックもきちんと通過して2021年に新しく提示している感覚がある。

4.How Beautiful Life Can Be ★★★★☆

ちょっと落ち着いたバラード、カントリー的な音像。スライドギター。カントリーといってもUKなのでフォーク、トラッドというべきか。おお、70年代のUKロック感、ジャングルポップ感がありつつ、きちんと今っぽい。普通に「いい曲」だ。ビートルズ史観が「王道」だとするならば、王道を高らかに凱旋する音。

5.The Great Escape ★★★★★

散歩するようなリズム。口ずさむようなメロディ。たまりませんな。ところどころにリズムの引っ掛かりがあるのがうまい。ドラムパターンもけっこうひねりが効いているというか、一筋縄ではいかないビート。けっこうリズムはありそうでない。この「よく聞くとドラムがけっこう癖がある」のはビートルズ的。ちょっとトロピカルな雰囲気もある。スライドギターのせいかな。

6.I Won't Lie ★★★★☆

やっぱりVampire Weekendを想起するな、それはビートかな。ビートのつくり方がうまい。「ビートルズの再来」というより「アークティックモンキーズの再来」といった方が今っぽいのだろうが、ビートルズ以来のUKロックの伝統を感じる。ややアップテンポで軽快な曲。軽やかで追憶のギターポップ。

7.I See Your Ghost ★★★★☆

スカパンクっぽいビート。そういえばスカも何度かリバイバルが来てるよなぁ。スペシャルズみたいなビート。それにサーフっぽいギターが乗り、ポップな歌メロが乗る。カッコいい。やはりキューバ音楽とか、ラテン系のビートを取り入れているのかな。ラテンビート、ダンスビートとUKロック的なメロディの融合。踊れるダンスロックだがテクノ感はない。軽快な人力のビート。

8.Oh My Love ★★★★☆

歌いだしのメロディがとにかく魅力的な曲が多いなぁ。ヴァースがとにかく魅力的な曲が多い。この掴みの強さは本当にビートルズを思い出す。けっこうコーラスはさらっとしているのだけれど。

9.I'll Never Forget The Time I Spent With You ★★★★☆

アコギのアルペジオをつま弾く。アコースティックバラードだが生々しい音響。弾むような感じがある。アコギとハーモニーの曲。初期ニールヤングのような優しいメロディ。いや、USのアーティストで例えるとちょっと違うな。UKのメロディ。ポールマッカートニー的というべきか。

10.I Know That Much ★★★★☆

よくこう次々と心をつかむイントロを思いつくものだ。なんだろう、どこか懐かしさがありつつ新しい音楽のワクワク感がある。エレキのアルペジオとドラム、シンプルなバンドサウンドにボーカルが入ってくる。基本的な構成。それこそビートルズのような、60年代、70年代から変わらぬUKロックサウンド。ブリッジからコーラスへの加速感はポストパンク、ブリットポップを経た2000年代以降のUKロックの語法を活かしている。

11.Artifical Screens ★★★★☆

またスカ的な音像。文字にすると雑多なようだが全部「UKロック」という軸が通っている。UKロックの王道からずれていない。バリエーションはあるけれど前衛的ではない。それは歌メロやコード進行の力強さだろう。ある意味そこはベタとも言える。ただ、懐古主義だけに終わらず、どこか新鮮な感じもあるのはやはりビートと音響の力だろう。そこがきっちり今までのUKロックを総括している。「ここは60年代っぽい」「ここは70年代っぽい」「ここは80年代、、、」で、きちんと2021年まで繋がっている。この曲はブリットポップ、コーラスのメロディはオアシスっぽいかも。後半になるにつれてエモ的に盛り上がる。Museみたいな大仰さがちょっとボーカルにはある。あくまで盛り上がる箇所の一部だけれど。ベタベタにペンタトニックなギターソロ。開き直っているとも言えるが音響的にはフェイザー、フランジャー系の効果が効いていてちょっと遊びがある。

12.The Redemption Of Sonic Beauty ★★★★☆

ピアノのイントロから。おお、そうか、このパターンはまだなかったな。エルトンジョンというよりはクィーン的。「~~っぽさ」に分解しても、それらを統合するときちんとこのバンドらしさ、ラサムズらしさ、がある。アルバム通してどの曲もレベルが高い。この総合力がラサムズらしさなのだろう。単曲だけ切り取ると「○○っぽさ」の切り貼りに聞こえる部分もある(案の定、Allmusicなどの音楽メディアの評価はそこまで高くない。新規性とか実験性に欠ける部分があるからだろう)、だけれど、全体として聞くととにかくレベルが高くて、「いい曲」を連打している。ここまで打率が高いバンド、アルバムは久しぶりに聴いた。とはいえこの曲は本当にフレディっぽい盛り上げ方をするな。一番わかりやすく「○○っぽい」が出ている曲かも。

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