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Thaikkudam Bridge / Navarasam (An Ennead)

インド、ケララ州(南の端)で2013年に結成されたバンドの2015年デビュー作。本アルバムではインド伝統音楽とメタルを融合した音像を奏でており、かなり本格的。こういう「伝統音楽+メタル」の異形のメタル、越境メタルは大好物です。このバンド、どうもきちんと伝統音楽をやっているメンバーで構成されているのかな(インドの場合、カーストがあるので「きちんと伝統音楽をやっている=音楽カーストで代々ある楽器の奏者の由緒ある音楽家一家、みたいな例が多い)。あるいは音大卒か。いずれにせよ「メタル音楽ありき」ではなく、「伝統音楽ありき」で、それにさまざまな音楽を組み合わせてモダンにしている、インド伝統音楽を現代風に(西洋音楽と組み合わせて)リバイバルする、といったコンセプトのバンドのように思います。TV出演した映像とか、次のアルバムの音像とか聞くとメタル色皆無だったりするので。このアルバムもフォーク・メタルの文脈で聞くより「異色のインド伝統音楽」として聴いた方が正しく理解できる気もします。

で、完成度が高い。何より「(インド伝統)音楽としての完成度」が高いのがポイント。逆に言えばメタル耳からするとちょっとメタルサウンドが借り物的なところもあって、そこが盛り上がりきらず惜しい感じもあるのですが、インド古典音楽も好きな私としてはツボ。近いうちにこのバンドを核にしてインド音楽+メタルの特集をやろうと思います。

今日紹介するのはメタル色は薄目ながら、このバンドの魅力の詰まった曲をどうぞ。

2015リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1 Navarasam
深いシタールのような、たわんだ弦の音
そこにバイオリンのような、何と言ったかな、インドの伝統楽器
インド伝統音楽の音像からスタートし、ヘヴィなリフが入ってくる
しばらくするとまたラーガ、インド的な音階が戻ってくる
インド伝統音楽のフォーマット、歌メロにメタルサウンドが合体したような、衝撃的な音像
静謐で穏やかな世界と、せめぎ合う激情というか、不思議な対比
ヒンドゥーの寺院、インドの街中でかかっていそうな、いわゆる「インドカレー屋のBGM」的な
やや古い、現代の極端にダンサブルではない頃のボリウッドサウンドが流れる中で、そこにメタルバンドが演奏を合わせているような
異質なものが混ざり合うというより正面からぶつかり合う、いや、ぶつかってないな、ただ共存している
ギターソロ、フレーズがヒンドゥースケール、シタールのフレーズをギターで弾いている感じ
よくあるラーガのテーマ、朝のラーガかな
(北インド、カルナティック音楽では時間によって音階が異なり、朝のラーガ、夜のラーガ、みたいに、音楽のシチュエーションや機能によって音階がある程度規定される、らしい)
凄い曲だなこれ、完全にインド伝統音楽meetsメタル
Bloodywoodは「現代インド音楽」とメタルの融合だったけれど、こちらは近代化される前の伝統音楽だ
これは1stで、2ndではかなり伝統音楽に寄ったというか、この人たちジャンルが幅広いんだよね
普通に伝統楽器の奏者というか、Sitar Metalみたいな感じなのかも
あれもジャズとかフュージョンとかにも参加するし、伝統的なシタールも演奏するし
カーストもあるから、音楽一族の人たちがやっているのかもしれない、それぞれの若い世代というか
付け焼刃ではない伝統音楽の完成度を感じる
★★★★☆

2 Sultan
これも同じ、インド伝統音楽、完全に伝統音楽職の方が強い
この人たちがテレビに出てるのを見たんだけど(YouTubeで)、なんだか完全なファンクポップみたいのもやってるんだよなぁ
かとおもえば2ndアルバムは伝統食が強いし
この曲は伝統音楽Meetsメタル、ツーバスで疾走していく
変な音像、妙にカッコいいといえばカッコいいが、かなり人を選ぶな
私のように「インド伝統音楽」と「メタル」が大好きな人間にはかなり刺さるが、、、
インド文化、北インドでは一定層受け入れられそうだが、他の地域ではどうなんだろう
おお、途中から疾走になる、リズムはかっちりしていてプログメタル的かな
スラッシーな感じはない、そもそもインド音楽自体、プログレ的な構造を持っているからな
西洋的な和音に当てはめるとかなり面白い
これは伝統音楽としても質が高い楽曲、演奏だな
これは大事、日本の「和楽器バンド」も、「本気の和楽器の人たち」がやっているから説得力がある
似たようなものを感じる
★★★★☆

3 Urumbu
アコギからスタート、歌が入ってくる
この歌がいいなぁ、普通に上手い、メタルボーカリストではない
伝統音楽のしっかりした歌い手、という感じ
この曲はアコースティックだが、ギターそのものは刻んだ感じ、リフ感がある
ドラムも重みがある、メタルバンドのアコースティックセット、という音像
歌メロが良いね
ボーカルラインがベースと絡み合う、演奏がかなりかっちりしていて歯切れがよい
ドラムはそこまで極端に手数は多くない、タブラに比べると
だからリズムの分割数は(北インド音楽としては)少ない方なのだが、決して下手ではない
かっちりしている、マスメタル、というほど複雑ではないがそもそも「マスロック」的な複雑性はインド音楽のお手の物
小節を延々と分割する、タブラとかそうだし
このバンドは(ここまでは)曲構成などは比較的シンプルに感じるが、それは北インド音楽としてであって
一般的なロックとかメタルフォーマットで考えるとかなりプログレッシブだな
★★★★

4 Arachar
ヘヴィなリフ、けっこう音像はあっさりしている
そこからリフが展開する、少し突進するバスドラ
ボーカルが入ってくる、何か寸劇的な、ちょっとすっとぼけた声
いやぁ、これどこかユーモラスというか、でもシリアスな感じもあるし
新しい音楽体験、「聴いたことがない感覚」なのは確か
けっこうヘヴィで、弦もたわむ感じがあるが、なんというかルーズな感じはない
かなりかっちりしているし、リズムもタイト
そう、リズムがタイトなんだよな、変にグルーヴグルーヴしていない
オンタイムでかっちりしたリズム
語り、笑い声、演劇的な曲
神話か何かがモチーフなのだろうか
ああ、そうだ、Therion、セリオンみたいなどこか折り目正しさがある
伝統音楽に対して行儀よくメタルの音像を被せているような
★★★★

5 Jai Hanuman
ジェイハヌマーン、ジェイハヌマーン、のコーラスから
ハヌマーン神の歌か、ヒンドゥーの神様をモチーフにした曲が多いようだ
北欧メタルも北欧神話を題材にしたバンドが多い
インドにもヒンドゥー神話を題材にしたバンドがいるのだろう
Verdic Metalだったかな、何か仏教(ヒンドゥー教)的なテーマを取り入れたバンド群お呼ぶニッチなサブジャンル名があった気がする
それなりの数いるということだろう
これはかなりプログメタルっぽい曲、ピロピロとしたギターソロ
音階的にはインド、ヒンドゥー的だが
★★★★

6 Khwaab
打って変わって穏やかな音像に
瞑想的
伝統音楽色が強まった、だんだん盛り上がってくる
うん、ヒンディーロックとしても完成度が高い
もうちょっとリズムが暴れまわる、暴虐性という意味ではなくタブラとかの「細かいリズム」という意味で、といいのだけれど
けっこう聴きやすく、シンプル感があるが
とはいえそれは「洗練されている」ということだな、音が洗練されていて破綻がない
この曲はいいなぁ、メタル色は薄目、もっと普遍的な「ロック」的な音
後半ちょっとアップテンポになるが、あくまで「ロック」の範疇、そんなにザクザクしたリフは出てこない
面白い、凄いなこのバンド
途中、見事なボーカルパフォーマンス、声を震わせながら音程が上下する
ギターソロならぬ「ボーカルソロ」
こういう「楽器をボーカルでやる」のは北インド音楽の特徴、口ドラムとか、この音程移動もシタール的だし
この曲はアルバムの流れの中でハイライト感が出てくる
アグレッションは(前半の曲に比べると)やや薄目ながら色々な要素がうまくかみ合っている
後半に向けて盛り上がっていく、そうそうこれ
「後半に向けて盛り上がる」が北インド伝統音楽とかカッワーリーの醍醐味なのだ、陶酔感というか
★★★★★

7 Chathe
アコースティックな音像
少しダークというか、不思議な響きのする音が混じる
伝統音楽的なアプローチだが、少しオルタナ的な音像が混じる
ギターリフが戻ってくる、少し跳ねるような
前半に比べるとプログメタル的な色合いが音像に強まってきた
メロディは伝統音楽的、途中から間奏、ギターソロで疾走
リズムはかなりカッチリしてるなぁ、やはりタブラというか、きっちり数学的に小節、いや、時間を分割している感じ
後半、だんだんと渦を巻くような音響に
★★★☆

8 One
パーカッションから、伝統音楽のミニマルなリフ
親近感がある感じ、ファンク、パーカッシブな曲
こうして曲の雰囲気を変えてくる
アルバムの中で表情が変わるのはいい、同じ音圧でこられると聞き飽きる
6曲目の場面展開もおおっとおもったが、この曲も前の曲を挟んだことで生きてくる
アルバム全体の流れの作り方がうまい
これ1stアルバムなんだよな、凄い完成度だな
途中、ちょっとケルティックというか、ダンサブルな弦楽器の演奏
これは伝統音楽フォーマット、リズムがはっきりしていて、リズムがいわゆる「ドラムセット」なのでロック感がある
インディアン・フォーク(伝統音楽)・ロック
こういう音像をやらせると上手い、完成度が高い
とはいえこういう音像ばかりだと個性がない、メタル的なザクザクしたリフが他の曲に入ってくるからこういう曲が生きてくる
耳に心地よく響く
★★★★☆

9 Viduthalai
低音のボーカルからスタート、無国籍ポップス的なスタート
そこから同じフレーズを連呼しながらリフが入ってくる、なんじゃこりゃ
「Viduthalai」を連呼しているのか、神様の名前かな
そこからラーガ的な、この楽器なんだっけな、面白い音像
歯切れの良いボーカルフレーズ、ラップとはまた違う
グルーヴのある言葉の連呼
面白い曲、耳に残る
音像はけっこうヘヴィになってくる、コーラスになるとバンド全体で行進しだす
ちょっとロシア的なところもあるな、ポルカというか
ただ、リズム感とかがインド的なんだよな、落ち着いているというか
ちょっとこの曲は勢いがあるけれど、どこか達観したところもある
★★★★★

10 Shiva
これはボーナストラック、らしい
最初はエフェクトがかかった、チャントっぽいボーカル
そこからやや不協和音感のあるアルペジオ、だが上部には弦楽器の音が舞っている
インプロビゼーション色の強いボーカルが乗る、天上の音楽、メディテーションミュージック
タイトルが「シヴァ」とあるが、破壊の側面が出てくるのか
お、ヘヴィなリフに、スタートはヘヴィだが途中から開放感が出てくるリフ
面白い感覚
ミドルテンポで曲がスタートする、1曲目に近いな、回帰していくのか
なんで「ボーナストラック」扱いにしたのだろう
9曲目で一度「アルバムの流れとしては終わりですよ」ということか、確かに、最終曲っぽい盛り上がりだった
だんだんと盛り上がり、中間部では激烈感が増す、ザクザクしたリフ
これ、このバンドの方向性を決めるような、「最初に作った曲」みたいな感じなのかな
執拗に同じリフを繰り返す、リズムがだんだん細分化していく
緊張が高まり弛緩する、ふたたび緩んだ音が入ってくる、最初のパートに戻る
シタール的なギターフレーズ
★★★★

総合評価
★★★★☆
聴いたことがない音楽、新しい音像
ちょっと噛み合っていないところというか、もっと感情の起伏をつけられるポテンシャルがあるのになぁ、と思うところもあるが
とにかく完成度は高い
きちんと伝統音楽として成り立っている、かつ、レベルが高い
曲の骨格がしっかりしている上に、メタルの要素が乗っている
ややメタル要素の方が弱く、「やってみました」感があるのが惜しいが、いいチャレンジ
このバンドとらえどころがないんだよなぁ、基本はインド、ヒンドゥー伝統音楽が核にあって、それを現代的な表現手法を取り入れてどう進化させるか、ということに取り組んでいるバンド、と理解すればいいのかな
「メタル」は、たぶんこのとき取り入れた一つの手法にすぎなくて、「メタルありき」ではない気がする
ただ、何度も聴きたくなる魅力があるアルバム

ヒアリング環境
朝・家・ヘッドホン


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