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Oranssi Pazuzu / Mestarin Kynsi

Oranssi Pazuzu(オランジ・パズズ)は2007年結成、2009年デビューのフィンランドのブラックメタル・アヴァンギャルドバンドです。暗黒面に突き抜けた感じがありつつ、ノルウェーほど暗黒ではない、どこかコミカルというか奇妙な持ち味があるのがフィンランドっぽい。コンスタントかつ熱心に活動を続けており本作は5作目。ボーカルは発狂的、ブラックメタル的なパフォーマンスながらバッキングが妙にクールというか抑制された瞬間も多く、他では聞けない独特な音楽性を持っています。2020年衝撃盤の1枚。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Ilmestys
やや民族的な、トライバルな感じがする反復リフ、部族の儀式のような
少しづつベース、低音が入ってくる
不思議な音世界、祈りというかチャントミュージックのような
呻くような音が微かに聞こえるが、おどろおどろしさはそこまで強くない
ボーカルが入ってくる、かなり怪物的な声、人外のうめき声
バンドの音自体は人力ミニマルというか、けっこうシンプルな反復フレーズ
いろいろな都が思い思いに入ってくる、少し奇妙なシンセ音、リズムがそれぞれ違うパターンなのでポリリズム感が出る
クラウトロック的、クラウス・シュルツとか、、、あれはこれよりもっと暗いか
リフからドラムが入ってくる、生身のバンドのようにうねりだす
ドゥーム的な音像、ボーカルはかなり邪悪なスクリーム
空間的な、ピコピコというかSF感があるシンセ音がなっていてこれが音に客観性を与えている
なんというか演劇的とうか、作り物感というか
ちょっと離れたところから見ている感じ
ただ、それは自分が安全圏にいることは意味しない、むしろ奇妙さを増す効果を生んでいる
★★★★

2.Tyhjyyden Sakramentti
タイトルは何語だろう、スオミ語(フィンランド語)かな
打ち間違いのようにも見える
幽玄な響き、昔のイタリアンプログレ的なホラー感も感じていたがちょっと音像が違うな
もっと冷たい、透明感がある
ベースは一定のリズムを刻む、響きは丁寧に弾いている
音が一つ一つは丁寧で荒々しさが少ない、どこか理性的な音がずっと続いている
ボーカルはかなり狂気に振っている
そうした構築された、整理された音世界を乱すものとしてボーカルが現れる
ボーカルと共にシンセ音が、何か飛び回るような音がだんだん大きくなってくる
暴れまわるというか、不穏さが増していく
そこからハードコアというかアングラというか、音がカオスな感じに
ただ、リズムは正確、アップテンポになったものの落ち着いて反復している
ベースが渦を巻くが音は正確、ギターはノイズを出し始めるが統制は取れている
ノイズ成分が増す、全体としてディストーションが強まる
熱を少し帯びてくるが理性は感じる、バンドは統制されている
ボーカルは枷が外れている、狂気的
バンド演奏そのものはハードコア的だがクールさがある
冷静さを保っていて、狂気にコントロールされている
やけくそな勢いはなくアンサンブルが重視されている
これは面白い音世界
探偵ドラマのような、サスペンスのような、音の舞台が変化していく
ただ、バンドの音そのものに不協和音感はあまりない、反響音などは使っているが、全体としては美しさもある構成
不穏な響きは多く出てくるが、ノイズ感は少ない、そういう狂気性はボーカルが主に担っている
スロヴェキアかな、Devil Dollというプログレバンドがいたがそれを思い出す
ただ、Devil Dollはけっこう美しさが強かったがこちらは美しさはそこまで強調されていない
冷徹さ、理性と狂気の対比、みたいなものが強い
不思議な音像だ、フィンランドのバンドだが特異点的かも
★★★★

3.Uusi Teknokratia
リードトラック、フルートの音が響き印象的
それとポリリズムのギターリフ、ベースとドラムが絡み合う、これはイタリアンプログレ感が強い
PFMにもこういうポリリズムの曲があったような
音像でいえばOssanna(オザンナ)に近いのか
ボーカルは呻き声、歌心はないのでボーカルが入ってくるとイタリア感はなくなる
あまり他に似ていない、この反復感はクラウトロック的ではあるのだけれど、フレージングとか、ボーカルの狂気性はやはり北欧、フィンランド
なんだか日本語のようにも聞こえるな、歌舞伎役者が見栄を切る口上のような響き
緊迫感が続く、しかしどうしたらこういう音像にたどり着くのだろう
どこかでやけくそになったのだろうか
音の反復とか重ね方、展開の仕方はセンスがある
でも、こういうバンドって「表現したい願望」があって、この音像が「これだ!」とたどり着いたものなのだろうか
それとも「オリジナリティ」という未踏の地を目指して結果としてここにたどり着いたのだろうか
結果として不思議な、自分たちの手を離れたものが生まれていくのだろうか
ジャンル的にはクールでダークな音像のハードコアなのだろうか
うーん、なんというかフレッシュさはある、初期衝動というか本能的、ボーカルは
演奏、特にリズム隊には理性を感じる
とか書いていたら間奏部ではかなり熱を帯びてきたな、バンド全体が走り出す
ただ、暴走はしない、統制されている
きしむような音、いや、ガラスの空間にこだまする様な音か
不思議な音世界だが、インペリアルトライアンファントよりは全体的な不協和音感は少ない
ネプチュリアンマキシミズムよりは曲は分かりやすい
・・・今年はけっこう先鋭的な音楽を聴いたなぁ
この辺りは「体験」として面白い、いわゆる「歌」とか「演奏」とか「曲」というより「体験」
★★★★☆

4.Oikeamielisten Sali
中東的? フィンランド的な音階なのかな
やや民族的なフレーズを反復する、楽器は何だろう、弦楽器だろうか
バイオリンのようななめらかな音移動
酩酊感があるフレーズの反復、少しづつ展開していくリフ
心地よくなってきた
リフが早くなっていく
途中から曲がアップテンポに展開していく
ボーカルが入ってくる、アジるような歌い方
ギターソロ、バンドが一丸となりヒステリック状態に
だんだん音圧が上がっていく
★★★★

5.Kuuln aania Man Alta
かなり反復音、ミニマルミュージックに寄った音像
人力ミニマル、これライブでやるんだろうか
心地よいが箸休め的な、ボーカルの鬼気迫る出没がない
最後はいろいろな音が調律するような響きで遠ざかっていく
★★★☆

6.Taivaan Portti
ホワイトノイズ、そこから疾走ブラストビート、音像的にはブラックメタル
ちょっと跳ねたリズム、ハードコアなのかな
疾走した後ちょっと変な間が入る、楽器が呻くような
反復されることで酩酊効果が出てくる
ボーカルが入ってくる、遠くから手を伸ばすような、狂気的な声
これ絶妙なバランスだな、人力ミニマル的なバックの反復に、狂気的な声の組み合わせ
緊迫感というか、反復する音に表情を与える
絶叫、断末魔の叫び、殉教者の呪い
あるいは世界に対する告訴
吸い込まれていく、封じ込められる悪魔の呪詛か
バッキングは反復する音の渦、曲というより「音」というべきか
不協和音感はなく、シューゲイザー的というか、音自体は透明感すらある
★★★★

全体評価
★★★★
これもなかなか激烈なアルバム、曲とか歌とかそういう単位ではなく、アルバムを通した「体験」
それなりに体力がいるし、何度も体験したいかというと個人的にはそうでもないけれど、他では得られない芸術性や新規性はある
むしろ小さな音量でBGMとかにいいのかもしれない
蝋人形館でむしろこれを流しておけば雰囲気にピッタリかも
サバト(魔女の饗宴とされる)のBGMにも合うね
ホームパーティでこれを流していたら不気味がられること間違いなしだ

ヒアリング環境
夜・家・ヘッドホン


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