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連載:メタル史 1983年②Dio / Holy Diver

Black Sabbathを1982年に脱退したロニージェイムスディオが自分がリーダーとして新たに組んだバンド、DIO。そのデビューアルバムが本作です。

ロニージェイムスディオは1942年生まれのアメリカ人で、基本的にアメリカで生まれ育ちました。RainbowBlack Sabbathの参加で「UKのアーティスト」の印象も持ちがちですが、生まれも育ちもUSのアーティスト。両親がイタリア系アメリカ人なので、ディオ自身もイタリア系ですね。ただ、活動拠点はずっとアメリカでした。ツアーや録音の時だけUKに行く形であり、Sabbath時代のレコーディングはUKとUSで行われています。

また、年齢も実はリッチーブラックモア(1945年生まれ)やトニーアイオミ、ギーザーバトラー(どちらも1948年生まれ)より上。ヘヴィメタルの著名なアーティストの中では最長老です。Rainbowに加入する前からプロとして活動しており、最初に組んだバンドはRonnie And The Redcapsという名義で1958年(wikiによれば1960年?)にデビューシングルを出しています。時代的にビートルズ以前で、いかにもオールディーズで後のDIOの片鱗もありませんが、これがディオのボーカルとしてのデビュー作。

RainbowにせよBlack Sabbathにせよある程度成功を収めた後はバンドリーダー(リッチーやアイオミ)と確執が起きてバンドを脱退しているイメージもありますが、そもそも年上だしプロとしてのキャリアも先輩だし、はっきり自己主張するタイプだったのでしょう。Rainbowに1975年に加入しますが、少なく見てもその時点で15年のキャリアがあるベテランだったわけで、ディオからみたらリッチーもアイオミもバトラーも「UKの年下の若者たち」に見えた部分もあったと思います。

そんなロニーが1983年、デビューから20年以上、齢40歳を超えて再び自らがリーダーのバンドを組みます。ここで面白いのはボーカルとドラムのヴィニーアピス(一緒にサバスを脱退した)はアメリカ人なんですが、新しく組んだギタリストのヴィヴィアンキャンベルとベーシストのジミーベインはイギリス人(正確にはスコットランド人)なんですよね。ジミーベインは元Rainbowのメンバーでもあったので、やはりUKロック界の人脈もつないでおきたかった、UK的なセンスもバンドの中に残しておきたかった、ということなのでしょうか。ヴィヴィアンキャンベルは後にDIOを脱退し、Def Leppardに加入することになります。いずれにせよ、自分のバンドで新たな勝負に出るとき、US、UK混合の編成を選んだということは「USとUKのロック界の二つの感覚を持ち合わせていることこそがロニージェイムスディオの強みだ」という自己認識があったのでしょう。

1983年のDIO

ヘヴィメタルという音楽文化にディオが与えた影響は大きく、メロイックサインもディオが始めた(祖母から教えてもらったコルナというイタリアの魔除けのサインである説が有力)とされているし、そもそもUSのヘヴィメタル界に中世的な騎士物語やファンタジーな世界観を持ち込んだのもディオの影響が大きいでしょう。UKロックにはもともとそうしたテーマを扱うバンドが一定数いましたが、USのアーティストでこうしたファンタジック(文学的≒エピカルと言ってもいいかも)な歌詞世界を持っていたアーティストは(70年代には)あまりいなかったんじゃないでしょうか。しかもディオはキャリアの大部分をその世界観を追及し続けた。DIOの歌詞世界はUSパワーメタル(Crith UngolManowarManilla RoadVirgine Steeleなど)の祖とも言えるでしょう。

本作はそんなディオが完全に主導権を握って「ロニージェイムズディオが考えるHeavy Metal」を表現した作品。プロデューサーもロニージェイムズディオ自身です。歌詞もそれまでのディオの世界観を踏襲し、さらに深化させたもの。「Holy Diver」というタイトル自体、多義的で解釈が難しい言葉です。ジャケットに出てくる怪物は「マレー(Murray)」と呼ばれていますが、これ、牧師と怪物に見えますがどちらが善と悪なのかは分からない、とディオがインタビューで言っています。マレーは牧師をいたぶる悪魔かもしれないし、牧師のふりをした悪者を懲らしめる神聖なものなのかもしれません。それまでのディオの集大成と呼べる作品。

メタル界のアイコンの一つとなったMurray

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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