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連載:メタル史 1982年⑧Witchfinder General / Death Penalty

N.W.O.B.H.M.の隠れた名盤、的な立ち位置で見かけることが多い印象のアルバム。バンド名Witchfinder Generalは直訳すると「魔女狩り将軍」。1968年の同名のホラー映画から取られたバンド名であり、もともとは史実に基づいた小説です。イングランド内戦(England Civil War:1642年から1651年にかけてイングランド王国で王党派と議会派の間で起こった一連の内戦)の最中、マシュー・ホプキンスというピューリタンの牧師の息子だった男が「魔女狩り将軍」と自称して数多の魔女狩り裁判を行い、処刑していきます。魔女発見の方法はいわゆる拷問的なもので(なお、当時のイングランドでは法律で拷問は禁止されていたにもかかわらず魔女狩りに関しては治外法権的な暴走が起きた)、後世ではホラー映画の題材になるほどの理不尽な処刑を繰り広げました。ホプキンスは反英雄、悪役としてイギリスでは一定の知名度を持っており、Withfinder Generalとはこのマシュー・ホプキンスのこと。バンドは1979年結成で、本作がデビューアルバム。チープなコスプレ風ジャケットですが、きちんと魔女狩り、魔女裁判の風景を描き出そうとしていてなかなか強烈なジャケット。まぁ、ちょっとお色気が入っているのも当時のホラー映画からの影響かもしれません。

アルバムジャケット撮影時と思われるオフショット
公式サイトより
メンバーと、ジャケットに移っているモデルのジョアン・レイサム
レイサムは当時有名なトップレスモデルだったそうで、バンドの友人だったとのこと

このジャケットがある程度話題になったせいでセカンドアルバムもお色気路線に走ってしまい、リアルタイムでは音楽そのものよりジャケットが話題になってしまった悲運なバンドでもあります。UKのWPG社が出した音楽百科事典には「ミッドランドを拠点とするこのニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタル・グループは、実際の音楽よりもむしろ、物議を醸した2枚のアルバム・ジャケットでよく知られている」と記載されているそうな。

このバンドはDoom Metalの源流の一つに数えられます。Doomとは運命、宿命、悲運、死といった「避けがたい運命や神の審判」といった意味合い。キリスト教における神の裁き、Doomsday=審判の日、の意味合いもあります。Doom Metalとは初期Black Sabbathの音像的なヘヴィさを核として、歌詞のテーマは暗黒・黒魔術といったものを取り上げ、音楽的にはヘヴィであるとともにゴシックでどこか儀式・教会音楽のような荘厳さも持ち合わせたもの、と定義できます。単に重くて遅いだけだとDrone。酩酊感だけだとStonerかPsychedelic。やはり「荘厳さ、(黒魔術的な)儀式性」を持ち合わせてこそDoom(Metal)だと思います。

ボーカルのシーブ・パークスとギターのフィル・コープが中心人物で、他のメンバーは流動的。このアルバムの制作中もベース不在でした。編成はボーカル、ギター、ベース、ドラムの4人。それほどプロフェッショナルなマネジメント体制やバンドスタイルをとることができずアルコールに溺れてバンドは1983年にセカンドアルバムをリリースした後解散してしまいますが、本作はDoom Metal萌芽の記録として重要視されています。ちなみに、90年代~00年代にDoom Metal界で活躍したCathedralには「Hopkins(Witchfinder General)」という曲があります。このバンドから影響を受けたのでしょう。

プロデューサーはピーター・ヒントンがクレジットされています。Saxonのデビューアルバムのプロデューサーですね。だけれど、バンド自身の回想によるとヒントンはほとんど仕事をせず、実際はエンジニアのロビン・ジョージがメインでプロデュースしたそう。ロビン・ジョージは歌手・ギタリストでもあり、後にソロデビューしてヒットも飛ばし、デヴィッドバイロン、ロバートプラント、グレンヒューズらともコラボしたことがあるアーティストでした(2024年没)。本アルバムは2日間で録音され、ベース不在で録音したのでギタリストがベースを兼任しています。かなり短期間で作られた生々しい作品。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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