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Paradox / Heresy II

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パラドックスは1986年に結成されたドイツのパワー/スラッシュメタルバンドです。本作は彼らが1990年にリリースしたスラッシュの名盤「Heresy(異端者)」の31年ぶりの続編となる作品。Heresyは13世紀のアルビジョア十字軍についてのコンセプトアルバムで、本作はその続編となります。

活動歴は長いですが、1990年から2000年はアルバムをリリースしておらず、本作が8作目。リリース数は活動歴に対してはやや少なめですが、今までリリースしたアルバムすべてが高品質なメタルアルバムとしてマニアから評価を得ているようです。Heresyの評判とジャケットは知っていましたが、このバンドをきちんと聴くのは本作が初めて。早速聞いてみます。

活動国:ドイツ
ジャンル:パワーメタル、スラッシュメタル、スピードメタル
活動年:1986–1991、1998–現在
リリース:2021年9月24日
メンバー:
 Charly Steinhauer – Vocals, Guitar
 Tilen Hudrap – Bass
 Kostas Milonas – Drums
 Christian Muenzner - Guitar

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総合評価 ★★★★★

超力作。前半気合が入りまくっているから後半失速するかと思ったらさらにドラマティックになっていく。基本的に疾走しており、ベースとなるサウンドは(だんだんオーケストレーションやクワイアなどが増すとはいえ)同じなので、75分という長尺では単調というか聞き飽きるきらいもあるが、どの曲、どのシーンも弛緩することなく緊張感を持続している。聞き手の体力が求められる作品。とはいえ、聞き流していれば良質なスラッシュメタルが延々と続くし、急にグルーヴィーになったりひたすら変拍子になったりもせず、基本的には疾走している。スラッシャーの「理想のアルバム」を75分にわたって繰り広げる、スラッシュメタルを知悉したベテランによる匠の技が詰まったアルバム。突出した曲が何曲かあればなぁと思うところもあったが、アルバム全体としての完成度の高さは文句なし。

1. Escape from the Burning 07:52 ★★★★☆

雨、または焚火、何かが燃え、爆ぜる音。あるいは両社がまじりあった音か。戦場を思わせるSEに、静かにベースとギターアルペジオが入ってくる。音圧はあまり変わらないまま、壁のようなリフに変わる。音圧が変わらない、というのは比較的遠くでリフが鳴っている、音の壁が立ち上がるからだ。鋭さより壁感、塊感があるリフだがきちんとザクザクはしている。やや古めかしいプロダクションだが凄味はある。ギターとベースは一体化しているがドラムはくっきりしている。ボーカルも入ってくる。各パートの分離はなかなかよく、心地よい音響。オールドスタイルなスラッシュ。超疾走とまではいかないが適度な疾走感。メロディアスなジャーマンスラッシュ、メロスピではないジャーマンパワーメタル。メロディアスだがクラシカルさやポップ感は薄い。Rageなどにも近いメロディアスかつ硬派な音。アクセルルディペル、疾走するSinner。それほど音程移動がないけれど、きちんとフックはあるボーカル。ギターが執拗に中音域を刻む。

2. Mountains and Caves 05:14 ★★★★☆

変に色気を出さず、硬派なジャーマンスラッシュサウンド。Kreatorとかにも近いな。Grave Diggerとか。そりゃオリジナル世代だしな。おお、このコーラスはすごい、なんというか郷愁を誘うジャーマン感だな。うん、いいパワーメタルだ(語彙低下)。こちらもブラストではない、スラッシュの疾走速度で駆け抜けて行く。ギターソロから緊迫感が上がっていく。ギターソロのメロディアスさはさすが欧州だな。カッコいい。

3. The Visitors 06:02 ★★★★☆

疾走ツービート、王道のスラッシュビート。音程を丁寧に刻みながら上下していくリフ。ボーカルラインは独特、90年代のジャーマンメタル的だな、Paradox節とでも言うべきものかもしれないけれど。単なる懐古主義ではなく、クオリティが高く音響も良い。やけくそなスリリングさは減衰しているが、スタイルを掘り下げて、音楽的迫力は深化している。ザクザクしたリフとドラムによるポリリズム。ギターソロがその上に乗る。機械のような正確さ。ストーナーによる酩酊感とは違う、インダストリアルな酩酊感。正確な反復によるけだるさとは違う催眠効果がある。ドラムの連打が激烈性があるのが良い。曲の中でどんどん盛り上がっていく。メタルマスターのころのメタリカ感も少しあるな。つけ焼き刃では出せない、ベテランの凄味。

4. Children of a Virgin 05:22 ★★★★☆

雰囲気のあるSEから疾走へ。ツービートではない疾走。どれもアップテンポだがビートのパターンはワンパターンではなく工夫されている。物語るようなボーカル。なかばプログメタル的な高速パッセージのソロパートを経てシアトリカルなボーカルが入ってくる。ドラマ性が高い曲。曲の後半に向けてテンションが上がっていき、曲が終わることにはきちんと高揚しているのは流石の作編曲演奏能力を感じる。

5. Journey into Fear 06:42 ★★★★☆

一定ペースの刻みリフ。ツーバスで戦車のように突進してくる。重戦車的曲。質量はあるが速度も結構出ている。実際、戦車も早いからね。車だし。このアルバム、テンションが衰えないな。けっこう長尺(合計75分)なのでまだ前半だが、ここまで曲のテンションが衰えずに来ている。どの曲もある程度にたようなテンポだし、極端な変化はないのだがどの曲もアイデアが詰まっていて飽きるよりは均質なドラマ、テンションが維持された物語性を感じる。

6. Burying a Treasure 05:18 ★★★★★

刻みリフがより舞い踊る、ハロウィンパーティーのような、どこか狂騒的な雰囲気がある曲。さらにギアが上がった感じがする。饗宴的な。高速ツービートでスラッシーに加速する。ツーバス連打。ジャーマンパワーメタルの権化的な曲。

7. A Meeting of Minds 09:09 ★★★★☆

メロディアスで上場的なギターフレーズからスタート。やや奇妙なコード進行、マジカルな雰囲気、エスニックな雰囲気を醸し出す。歌い上げるスタイルでボーカルが入ってくる。パワーバラード的。コード進行が凝っている。転調感があり、一筋縄ではいかない進行。不思議な不協和音感がある。邪悪さ、ねじ曲がった感覚を保ったまま進行する堂々たるパワーバラード。これはパワーメタル、スラッシュメタルというものを知悉した匠の技が詰まったアルバムだな。前半で息切れするかと思ったら中盤からさらにドラマティックになってきた。この分厚いコーラスは、野太くて荒れ気味だがクワイアコーラスといえばクワイアコーラスか

 8. Priestly Vows 06:51 ★★★★★

鐘の音が鳴る。ヘヴィなリフが入ってきて、そこから疾走へ。ミドルテンポはバラードだし、それ以外はほぼ疾走しているな。スラッシャーの考える「理想のアルバム」を具現化したようなアルバム。突出した曲、バランスを崩すような歴史に残る名曲は(まだ)ないが、全体としてとにかくクオリティは高い。一通り疾走するパートを経て、雰囲気が変わる。ダークでゴシック、ホラー映画のような雰囲気。いや、戦いの後の黄昏か。また疾走へ。加速感が増す。メガデスをさらに加速したような感じ。刻みリフの極致。何より凄いのが、けっこう疾走曲で、それほど変拍子とかが多用されているわけでもないのに長尺な曲が多いこと。ずっと疾走しているのに飽きないというか、駆け抜け続ける持久力が恐ろしい。最近のTestamentとかもそんな雰囲気はあるが、こちらの方がBPMはだいぶ早い気がする。ギタリストよく腕が攣らないな。

9. Unholy Conspiracy 05:52 ★★★★☆

リフからボーカルが入ってきた。ややミドルテンポ。この曲はリフとボーカルの絡み合うヴァースはメガデス感が強いな。とはいえコーラスの独特なメロディセンスはジャーマンスラッシュな感じ。荘厳なコーラスが最後に入ってきて終曲。やはり、後半になるにつれてドラマ性が増しているというかオペラ的な手法、ある意味ブラックメタル的な(クレイドルオブフィルスとか)手法が用いられている。

10. A Man of Sorrow (Prologue) 01:33 ★★★★

インタールードというか次の曲のプロローグ。祈りのような独唱。讃美歌のようなやや荘厳で鎮魂を感じる歌。ところどころに奇妙な不協和音が入り、重い鉄の扉が閉ざされる。

11. A Man of Sorrow 04:34 ★★★★☆

ミドルテンポでツーバス連打。おや、最初からこういうベタなツーバス連打は初かも。何気に疾走感というかリズムは跳ねた感じの曲が多かった。あとはバラード。ギターフレーズ、ボーカル共にメロディアス。ただ、メロディ、コード展開は一筋縄ではいかず、一般的な調性、着地からは少しずらしてある。スラッシュメタルらしい語法。昔、ジョーサトリアーニが教則本の中でスラッシュメタルのコードやスケールを説明していたのだが細かくは忘れてしまった。ただ、コード進行やスケール的には説明しようとするとけっこう複雑、というか、調整和音だと説明しずらいことをやっているらしい。この曲はギターフレーズもボーカルメロディも、その「ちょっとした不協和音感」が多用されている。力を入れて作曲されたことが伝わってくる力作。

12. The Great Denial 09:26 ★★★★☆

最終曲はエピローグと思われるので(分数が短い)、実質フィナーレ、クライマックスであろう曲。最初からいきなりの疾走、というか前の曲を引き継いで疾走していく。長尺曲なのに最初からけっこうフルスロットルに近い、このバンドの最高速の85%ぐらいの速度を出している印象。一通り疾走した後、ややミドルテンポに変化。ただ、9分半ある曲だがめくるめく展開というよりは疾走が続く、という印象。後半はミドルテンポで雰囲気重視のアウトロが続く。

13. End of a Legend 01:50 ★★★★

前の曲のアウトロを引き継いで、重々しい雰囲気のサウンドが続く。ただ、小鳥のさえずりも聞こえ、物語の終わり、新しいサイクルの始まりも感じさせる。重々しい鎮魂歌が遠ざかっていく。

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