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新しい音楽頒布会 Vol.8 パワーメタル、サイケ、マリ(コラ)、AOR、テクデス、オルタナティブ、メキシコ

今週はメタル系3枚、AOR1枚、サイケ&プログレ1枚、ワールドミュージック2枚の計7枚が耳に残りました。目玉はないものの豊作。

おススメ1:Joe Lynn Turner/Belly Of The Beast

ジョーリンターナー、HM/HR界をある程度知っているメタラーなら一度は彼の声を聴いたことがあるでしょう。Rainbow~Deep Purple~Yngwieとネオクラシカル、様式美のオリジネイターを渡り歩き、その甘美なルックスと歌声で人々を魅了してきました。ただ、彼の不幸はあまりにも偉大な前任者ばかりだったということ。ディオ、イアンギラン、グラハムボネット、マークボールズですからね。単純な「歌のうまさ」だけならディオ以外には勝負できそうですが良くも悪くも「超絶ボーカリスト」たちと比較されてきたボーカリスト。正直、僕も上手いとは思うけれどそこまですごいボーカリストという印象はありませんでした。もちろん、リッチーやインギーが選ぶのですから下手なわけはありませんが、音域にせよスクリームにせよ「超絶」ではない。もともとポップロックバンドのファンダンゴ出身ということもあり、「ポップなメロディセンスをハードな音像に持ち込むセンス」が良いボーカリストというイメージ。ところが本作ではめちゃくちゃヘヴィな音像の中でパワフルなボーカルを響かせています。

あと、1曲目のヘヴィさで言えば彼がリードシンガーとして参加した作品の中でも過去最高じゃないですかね。疾走型パワーメタル曲でアルバムを間違えたかと思ったぐらい。本作はプロデューサーを北欧メロデスバンドHypocrisyの中心人物であるPeter Tagtgrenが担当。まさかここが組むとは。なので最新型の北欧メタルプロダクションが適用されています。ギターの音がザックザク。中盤になるにつれてじっくりとしたミドルテンポの曲が増えてきてここはやはりRainbowのボーカリストであった凄味を見せつけます。イタリアのフロンティアレコードが量産(と言ってしまおう)している様式美、シンフォニック系のアルバムとはやはり一線を画すオリジネイターの味がある。

驚くべきことはジョーってロブハルフォードと同い年なんですよね。1951年生まれで今年71歳。さすがに息継ぎが必要なのか言葉数を詰め込んだようなフレージングはありませんが、高音までしっかりパワフルに出ています。正直、ここまで高品質かつ現代的なアグレッシブな作品を今になって生み出すとは思わなかった。

髪はなくなったものの(というか本作で初めて頭髪がないことをカミングアウト、71歳にしてキャラ変とは)、このルックスと声を維持しているというのはめちゃくちゃ努力の人なんでしょうね。70台に突入してからこんなアルバムを出せてしまうのが凄い。

全体的な完成度とボーカリストとしてのジョーリンターナーの凄みは十分に堪能できるアルバムですが、少し惜しいのは一聴して耳に残るフックのある曲がやや少ないところ。6曲目の「Tears Of Blood」なんかはいい感じです。あと、メタリックな曲がやや単調かな。彼らしさを感じるポップなメロディラインをもうちょっと足したら名盤になったのに。ただ、ドラマティックで完成度が高い曲が多いので何度も聞きたくなる好盤。「ジョーリンターナー」という名前から期待される音像とはだいぶ離れており、いい意味で驚いた作品。何より、70代で挑戦する姿勢がカッコいい。


おススメ2:King Gizzard & The Lizard Wizard/Changes

今年も大量に、いや、今まで以上に多作なキングギザードアンドウィザードリザード。なんだか毎週のように取り上げている気がしますが毎週のように新譜をリリースしているんですよ。それも奇をてらったものすごく実験的なアルバムではなく、きちんと彼らの持ち味を生かした新しい音源をリリース。本作もジャズロック味、カンタベリー風プログレ感もあるサイケデリックロック。なんとなく後半にはネオシンフォ系、ポンプロック的なキーボードの音使いも出てきてプログレッシャーにも刺さる内容だと思います。ただ、グルーヴは強靭で酩酊できるリズム。こういう「ビート感がしっかりしているサイケ」は最高ですね。キングギザードの音は昔のフランクザッパみたいな中毒性が出てきました。このバンドだけ延々と聞いていたい感じ。


おススメ3:Toumani Diabaté/Toumani,Family&Friends

西アフリカにあるマリ共和国に伝わる伝統楽器コラ(ジャケットで持っている弦楽器)奏者、トゥマニ・ジャバテの新譜。コラ奏者といえばジャバテ一家で、弟のママドゥ・ジャバテも著名なコラ奏者です。父親のシディキ・ジャバテははじめてコラを録音したアーティストでもあります。ロンドン交響楽団とコラボしたりいろいろな取り組みをしているアーティストですが本作はその名の通りさまざまなゲストを迎えてのオールスター的なアルバム。男性ボーカル、女性ボーカルが入り混じり祭祀感があります。ジャンル的にもアフリカ音楽要素はもちろんけっこうフレンチっぽさやレゲエっぽさなど、ゲストによって色が変わるのが面白い。それらを支えるのがトゥマニのコラの音色です。決まった音をはじく、いわば琴やハープのような響きがする楽器なんですが何か音に哀愁があるんですよね。さまざまなボーカリストや音楽スタイルとともにコラの響きを楽しめる名盤。


おススメ4:Satin/Appetition

ノルウェーから出てきたアダルトオリエンテッドロックアーティスト、サテンの3rdアルバム。昔(90年代)のミカエルアーランドソンなどゼロコーポレーションの透き通った清涼感ある北欧メロディアスハードロックを彷彿させる音像。こういう音像ってたまに聞くとやっぱり新鮮というか、ベタだけどいいなぁと思います。こうした系譜のアルバムは脈々とリリースされ続けており、そういった一群の中でもこれは高品質で曲がいいアルバムだなと思いました。2015年にソロデビューしたアーティストですがそれ以前からプロデューサーとしても多くのプロジェクトに参加しており2013年にはノルウェーのグラミー賞も受賞しています。アルバムタイトルの「Appetition」とは食欲、欲望、興味といった意味。


おススメ5:Obsidious/Iconic

ドイツの中堅メタルバンドにしてテクデス界では大物のObscura(オブスキュラ)。オブスキュラは2020年にリーダーのギターボーカルであるシュテファンクメラーを残してほかの3名(ギタリストのラファエル・トルヒーヨ、ベーシストのライナス・クラウセニツァー、ドラマーのセバスチャン・ランサー)が脱退。脱退した3名が新たにボーカリストを迎えて結成したのがオブシディアスで本作がデビューアルバムです。オブスキュラそのまま(というか楽器隊は同じなので)のテクニカルな演奏、プログレッシブ・テクニカルメタルな音像の上にデスボイスとクリーントーンを織り交ぜたボーカルが乗るスタイル。たまにはこういうエクストリームなものも聞きたくなりますね。僕はあまりグラインドゴアとか極端すぎるデスメタルは好んでは聞かないのですがテクニカルだったりプログレッシブな展開があるものは好きです。本作は好み。


おススメ6:Reliqa/I Don't Know What I Am

レリカは2013年にオーストラリアのシドニーで結成されたオルタナティブメタルバンドです。2018年にEPを2枚リリースし、本作が3枚目のEP。大きく言えばメタルコアになりますが、これが面白い音像で新世代を感じます。女性ボーカルに絡み合うグルーヴィかつアグレッシブで複雑なサウンド。有機的なプログレッシブメタル(Hakenとか)のサウンドにメロディアスでオルタナティブロック寄りのボーカルが乗った音楽性です。あまりとがりすぎておらず聞きやすい、娯楽性が高いのはオーストラリアという土地性か。USに比べるとあまりどこかのサブジャンルに特化していない、ちょっとメタ的にUK、USのムーブメントのいいところどりをするようなバンドが多い印象があります。それが世界的成功を生んだりするんですよね。オリエンタルな音階を取り込んだり振れ幅が面白い。似た構成で人気が出ているJinjerやSpritboxに比べると女性ボーカルのアグレッションはかなり控えめで、その分ポップ寄りです。


おススメ7:Natalia Lafourcade/De todas las flores

メキシコで最も成功しているアーティストの一人、ナタリー・ラフォーカードの新譜。オリジナル曲だけで構成されたアルバムとしては7年ぶりの作品です。最近は自分のルーツをたどるようなカバー曲集や過去のリメイク曲を含んだアルバムを出していました。日本ではディズニー映画「リメンバーミー」の劇中歌を歌っていた人として知名度があるかもしれません。ラテン・グラミー賞やUSのグラミー賞のラテン部門などを何度も受賞、ノミネートされているその分野では最高峰の知名度と実績を誇る歌手。本作はポップス化したり近代化したメキシコ音楽ではなくソンなど「メキシコらしい音楽」をしっかりと受け継いだ作品。純粋に「いい音楽」だと感じました。


以上、今週のおススメアルバムでした。それでは良いミュージックライフを。

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