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連載:メタル史 1982年③Judas Priest / Screaming for Vengeance

1980年、パンクのシンプルさを取り入れたソリッドな新世代ヘヴィメタルでようやく商業的成功を手にしたJudas Priest。70年代は「一定の知名度はあったけれど一般層にまでは知られていないバンド」という立ち位置でした。そんな彼らが名実ともに大物バンドの仲間入りを果たし、1981年にUS志向・ヒット曲要素強めのPoint Of Entry(駄作ではないが名作でもない)をリリースし、賛否両論を巻き起こした後で制作されたのが本作。

ポップでありながら攻撃的という洗練されたジャケットはJudas Priestが新機軸を打ち出したことを明確に伝える素晴らしいアートワーク。Judas Priestってバンドロゴも時代時代でけっこう変わるし、アートワークのテイストも変わる珍しいバンド。音楽性も時代時代でけっこう変化している、そういう意味ではQueenの影響を強く感じるバンドです。個性的なボーカルと一定の「ヘヴィメタルらしさ」を保っているので一貫性はありますが、どちらかと言えば果敢に「ヘヴィメタルの境界」を広げてきたバンド。

ただ、変化がけっこう極端で、駄作でも名作でもない、いわば珍盤的なものを多く生み出してきたバンドでもあります。もちろん前のアルバムから連続性はあるし、なぜこの方向に行ったのかは読み解ける気もするんですが「今までの自分たちのバンドイメージがあるのにどうしてこういう系統の曲ばっかりでアルバム作ろうと思うの?」というアルバムを作ってしまう。前作(Point of Entry)なんかも「ミドルテンポで明るめのテイストの曲ばかり集めたアルバム」です。だから時代が立つと再評価されることもある(曲は悪くないし、その時代にしか生み出せない音ではある)けれど、リアルタイムで聴くと「うーん、これがJudas Priestの新譜?」となるアルバムもけっこう出してきたバンドです。ファン(市場)の期待を深読みしすぎて外す、的な。

その分、変化の方向と人々が求めているものがかみ合ったときの感動は凄い。「この方向のPriestを待っていた!」とファンが熱狂するわけです。

1982年のプリースト
メンバーは1980年のBritish Steelリリース時と変わらず

本作はそんな「噛み合った」Priestの作品。一般的な代表作は(UKでは)British Steelとされるようですが、本作はUSで初の商業的成功を収めた作品(ビルボード17位)。もともとPriestはミドルテンポでラジオでオンエアされそうな曲も多く持っていますからね。1982年の時点で70年代から活動するベテランなので、他のN.W.O.B.H.M.バンドのように無我夢中というわけではなく、むしろ成功を維持すること、メジャーレーベルとの契約を続けていくことの苦労も嫌と言うほどわかっていた。ヒット曲が出なければ大規模な活動は続けられません。ヒット曲とアルバムの完成度の兼ね合い、メタルファンに対して「Heavy Metalとしての新規性」を打ち出しつつ、ラジオヒットするような曲も作らなければならない。そのプレッシャーを見事にクリアしてみせた快作。

本作のプロデューサーもトム・アロム。1979年のライブ盤「Unleashed In The East」以来4枚目のタッグを組んでいます。80年代の黄金のタッグ。前作に引き続いてスペインのイビザ島でレコーディングされ、USでミキシングされました。イビザ島でのレコーディングは、Priestが一定の商業的成功を収めた故ですね。Saxonもスイスでレコーディングしていましたが、一定の成功を収めたバンドはリゾート地でレコーディング合宿をする例が見られます。当時イビザは最先端のスタジオがあったらしく、前作もサウンドはいいんですよね。あまりギターコンビのやる気が感じられなかっただけで。本作はその素晴らしいサウンドにやる気に満ちたギターが組み合わさったメタル史上に残る名盤となりました。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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