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Kanye West / Donda

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いつの間にか巨大な影響力を持った黒人音楽のスター、カニエ・ウェスト。本作はリリースまでにいろいろあったようで、USの音楽業界では大きな話題を呼んでいた様子。ウェストの情報は日本語空間にも大量にあるので割愛しますが、次の記事が情報量が多かった印象です。

実のところ、なんとなく耳にしたことはありますがきちんとアルバムを聞いたことがないアーティスト。新譜が出たタイミングということで聞いてみます。

活動国:US
ジャンル:Hip hop、gospel、pop、trap、progressive rap
活動年:1996-現在
リリース日:2021年8月29日

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総合評価 ★★★★☆

意外に楽しめた。流石メインストリームのトップスター。娯楽性が高い。

「意外に」というのは、僕が普段ヒップホップをあまり聞かないから。音楽ジャンルというのはある程度聞かないとわからない。言語のようなところがあり、ある程度聞かないとどんなところが聴きどころなのか、どういうことを伝えようとしているのか(どうノればいいのか、でもいい)がわからない。カニエ・ウェストに対して先入観があるわけではなく、「ヒップホップの受容体」とでも言えるものがあまりこちら側にないからだ。

アルバムを通してけっこうポップだったりゴスペルだったり、あとは最近のオルタナティブロック、インディーロック、エクスペリメンタルロックと通じるところもあったので楽しめたのだと思う。★★★★☆の曲だけ抜き出すと、ポップやロック好きが選んだ感じが伝わるだろう。逆にヒップホップ色が強い曲は今一つわからなかった。ロック史を一通りたどったので、次はメタル史をやりたいがその後は黒人音楽、ソウル、ファンク、ジャズ、ヒップホップをやろうと思っているのでまたその後に聞くと印象が変わるだろう。「ああ、ここはこういうことだったのか」と思うところも増えるはず。

なお、1時間48分とかなり長尺だが、最後4曲は前の曲のリミックスというか別バージョンなので、それで20分強減る。なので、実質的には86分ぐらいか。長くはあるが、90年代のCD収録ギリギリまで収録した長いアルバム、たとえばジャネットジャクソンのヴェルヴェッドロープとかマイケルジャクソンのインヴィンシブルとか、そのあたりと似たような長さ。実質的には2枚組ぐらいか。その長さを感じさせない豊富なアイデアの盛り込まれ方、長尺の時間を活かしたドラマとクライマックスのつくり方はしっかり感じた。

本稿では余談だが、このジャケットを見るとメタリカのブラックアルバムを連想する。ちょうど、ブラックアルバムの30周年記念アルバムがもうすぐ出る予定で、個人的にはこれが2020年代のロックシーンに大きな影響を与えるのじゃないかと思っている。なんとなく、長尺で無造作な感じ、無記名な感じ、大量のゲストが集まって盛り上げていく感じが本作にも通じるものを感じる。それは意図的なものではなく、今のUSの時代の雰囲気なのかもしれない。

この話はまた後日。

1 Donda Chant 0:52 ★★☆

「Donda Donda」の繰り返し、声のみ。かなり前衛的だな、Orbital 2のオープニングを思い出す。声だけのループが左右のチャンネルでずれていく、というもの。

2 Jail 4:57 ★★★★☆

ギターサウンドっぽいものが入っている。サンプリングだが、けっこうロック的な音像。解放感がある曲。最初はメロディアスな歌唱だったが途中からラップに。

3 God Breathed 5:33 ★★★★☆

蠢くベース、インダストリアル的な音像の上でラップが乗る。ただ言葉を並び立てるのではなく音の余白、全体的な音響の緊迫感が強い。言葉も含めたリズムの組み立て方がうまく、快楽性が高い。後半はねじれたゴスペル。

4 Off The Grid [Explicit] 5:39 ★★★☆

いかにもなヒップホップに。さまざまな声が出てきて展開していく。

5 Hurricane 4:03 ★★★★☆

メロディアスな曲に戻る、オートチューンで補正されたメロディアスな声。フューチャーソウルというのかな。込められた感情とアイデアの量が多い。プログレ的な精神を感じる。

6 Praise God [Explicit] 3:46 ★★★☆

上ずった、裏返って掠れたような声でスタート。その後は夜に合いそうなヒップホップスタイル。ソウル的な包容力のあるベースが入ってくる。「Tame Impala」の名前を呼ぶところがある。「新しい女性が欲しいぜ、古いのはもうやめだ」みたいなフレーズも出てくる。言葉数が多い。掠れた、悲鳴のようなか細い高音の声を使う。これは面白い声。オルガンの音が響く、チャーチ的。

7 Jonah [Explicit] 3:15 ★★★★

メロウな曲。つかみどころのない雲のようなバッキング。なめらかに流れていくメロディ。アカペラでコーラスが繰り返される。独唱。

8 Ok Ok [Explicit] 3:24 ★★★

チープなデジタルだが荘厳な響きのイントロ。またヒップホップスタイル。ラップ曲とメロディアスな曲が交互に配置されているな。

9 Junya [Explicit] 2:27 ★★★☆

Junya Watanabeの名前を連呼する、遊び心があるというか、音楽的にはちょっとした息抜き・インタールード的な曲。最近のラテン音楽でもよく聞くリズム。オルガンの音が強い。

10 Believe What I Say 4:02 ★★★★

話し声、メロウな雰囲気。滑らかなリズムが入ってくる。四つ打ちでハウス的なサウンド。

11 24 3:17 ★★★★☆

クワイアコーラスからスタート、メロウな曲が2曲続くな。ソウルフルでゴスペル的。コーラスに生身感をなくすような音響加工がされていてデジタルデータ化されたゴスペルといった感じ。面白い音像。

12 Remote Control 3:18 ★★★★

ダークでメロウな音像、ややたどたどしさがある、シンプルだが少し棘があるビート。メロディアスな曲。

13 Moon 2:36 ★★★★

メロウな雰囲気の曲が続く。ギターサウンドが入っている。多重に重ねる声。ちょっとアフリカンポップス的な歌い方、ゲストだろうか。

14 Heaven and Hell 2:25 ★★★★☆

短めの曲がどんどん出てくる、組曲的な感じ。緊迫感がある、アジテーションのような言葉が続く。オルタナティブな質感で面白い音響。

15 Donda 2:08 ★★★★☆

ホワイトノイズがところどころ入る、これは実際に母親の声なのだろうか。スピーチに音をつけたような曲。後半、ライオンキングのような高らかなコーラスが入る。この極端な展開は面白い。

16 Keep My Spirit Alive [Explicit] 3:41 ★★★★

ゆったりとしたリズム、ちょっとレトロなサウンド。メロウなメロディ。

17 Jesus Lord 8:58 ★★★★

急に大曲だな、9分近い曲。ヒップホップながらなめらかに進んでいくビートと、展開する和音、オルガンの和音が展開していくのでメロディアスな印象もある曲。ところどころで女性コーラスが「Jesus Lord」と天上からの声のようなメロディを奏でる。徹頭徹尾同じビート。

18 New Again 3:03 ★★★★☆

パーティー感がある音。ハウス的な四つ打ちにヒップホップ的なブレイクのビートのアクセントが入る。どこかしらディスコ的。「俺を新しく作り直してくれ」。最後、シュプレヒコールのようにコーラスの声だけが反復する。「声だけ」を残すパートが結構多い。ミックステープ的。

19 Tell The Vision 1:44 ★★★

”音の実験”的なインタールード。ピアノフレーズが反復する、バッキングだけならクラウトロック的。

20 Lord I Need You 2:42 ★★★★

メロディアスな、R.Kellyみたいな明るいテイスト。

21 Pure Souls [Explicit] 5:58 ★★★★☆

かなりメロディアスで歯切れのよいボーカル。クラップも入ってくる。明るいサウンド。

22 Come to Life 5:10 ★★★★☆

ソウルフルでメロディアスな曲。後ろに様々な会話やシーンが流れていく。ほぼオルガンの弾き語りのような曲。途中からオルガンがピアノに変わる。ギター、またはベースか、ソニックブームのように増幅されたリフが入ってくる。ドラマのクライマックス感がある。

23 No Child Left Behind 2:58 ★★★★

ハモンドオルガン、チャーチオルガンの和音が響く。ミサのよう。「No Child Left Behind」とは落ちこぼれゼロを目指したジョージブッシュの教育改革。通称NCLB。「彼は俺に奇跡を起こした」と続く。これによって成績が上がり、人生が変わったのだろうか? 2002年施行だからウェストの年齢には合わない(ウェストは44歳)。功績を称える歌か。メロディアスで祝福感がある。

24 Jail pt 2 4:57 ★★★★

1曲目のリプライズ。ほとんど同じ曲だな、というか歌詞が違うだけ? メロディは同じ。こうして長大なアルバムがオープニングに戻ってくるわけだ。あれ、この後は全部パート2だな、もしかしたらボートラ的な扱いなのだろうか。歌詞だと伏線回収をしているのかもしれないが、音的には前の曲と劇的に変わった感じは少ないのでループ感がある。終盤のトライバルなリズムは前はなかった、かな? でも秒数まで同じなんだよなぁ。

25 Ok Ok pt 2 [Explicit] 3:24 ★★★★

おや、こちらはけっこう違う気もする、ミックスが違うのか。もともとそれほど印象に残らなかったからな。ただ、ここに配置されていると耳がヒップホップに慣れたのか、前よりよく聞こえる。女性ボーカルが入ってくる。これ前あったっけな。トラックは同じだがリミックスで、ボーカルにゲストを迎えたバージョンだろうか。

26 Junya pt 2 [Explicit] 3:02 ★★★☆

うん、この辺りはボーナストラックというか、別バージョンっぽいな。違うアレンジなのはわかるが、この曲を繰り返すことにアルバム的な意味があるとはあまり思えない。こういう謎かけ、無造作な感じを出すために敢えて置いたのかもしれないが。なんとなくPt2の方が祝祭感は増している。

27 Jesus Lord pt 2 [Explicit] 11:30 ★★★★☆

同じ曲、コーラスも同じだがこちらの方がやや長い。ディレクターズカット、といったところか。なんとなくこちらの方がよく聞こえる。2回目だから、というのもあるだろう(何度も聞くと曲は気に入る確率が増える)。ただ、緊迫感と緩急が増している気がする。

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