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Pharaoh / The Longest Night(2006、US)

2021年時点のバンドフォト

掘り出し物度 ★★★★☆

ウクライナのメタルラジオ「Radio Metal」を聴いていたら偶然出会ったバンド。メイデンの後に流れて「初期(初期2枚〜ディッキンソン加入直後)メイデン」っぽいバンドだなぁと思って耳が惹かれたのでアルバムを聴いてみました。Pharaoh(ファラオ)は1997年に結成されたUSのパワーメタルバンドで2006年作の本作は2作目。Metallum(評価:86/100)でもRYM(評価:3.66/5.0)でもこのアルバムが一番評価が高いので代表作的なもの、かな。アルバム全体を通して聞いてみると「メイデン+ブラガ」をB級メタル的に仕上げたものだと感じました。欧州のバンドだと思ったらUSなんですね。US感があまりないけれど言われてみたらなんだか大陸的な雰囲気も感じる不思議。そう思って聞けばメタルチャーチとかヴィシャスルーモアズとかアーマードセイントとかセイクレッドオースに近い部分もあります。今でも活動しており、2021年には9年ぶりのニューアルバムをリリース。20年以上活動しているベテラン。

ちょうど最近、こんな記事を見まして、「必要なのは、どんな環境で聴かれても劣化しない音」。

最近の音楽って確かにそうかもなぁ、と思います。プロダクションがそっちの方向に進化していますよね。このアルバムはその点ではまったくもって劣っていて、最初アルバムを聴いたとき「あれ? こんな感じだっけ」と思ってしまった。ラジオで聴いたらすごく魅力的だったんだけれど、アルバムを聴いたらそれほどでもなかった。「音質が悪い」ということではなく、なんというか各楽器の音が分離してしまっているというか、ちょっとバンドのグルーヴが弱く感じたんですよね。ベースとドラムの音が軽めで質感が弱い。演奏が下手なわけではなく、プロダクションとかミックス、マスタリングの問題だと思う。

最初、気楽に聞こうと思ってBluToothスピーカー(Spark)で流したら「あれ?」と思い、ワイヤレスヘッドホンで聞きなおしても「やっぱりラジオの方が良かったなぁ」となり、メインヘッドホン(GRADO)で聴いたら「やっぱりいいじゃん!(←イマココ)」となりました。僕が音楽を聴いている環境はこちら。2000年代のメタル作品ってこういうのはあるかもなぁ。2020年代の作品と並列にして聞くとプロダクションがちょっと迫力がない、というか。どの曲もけっこうカッコいいのになんかガツンとこなくて物足りなさを感じてしまいます。

たとえばけっこうスティーブハリスっぽいベースラインとかあるんですよね。だけれど、ベースの音がどうも細い(上述したようにプロダクションの問題だと思う)ので、せっかくのいいフレーズが迫力が減退してしまっている。惜しい。ドラムの音もなんだか弱い。ギターサウンドは悪くないんですが。ただ、楽曲がいいアルバムなのは確かです。

この記事で一つ書きたかったのは「ラジオすげぇな」ということ。理論上、インターネットラジオの方が音悪いんですよ(実際長時間聞いていると耳がいたくなるし)。上述したRadio MetalはMp3音質(128kbps)のようなんですが、普段ストリーミングで聴いているTIDAL(CD音質)できちんとアルバムを聴いたときより魅力的に感じました。少なくとも1回目のヒアリングではそう。ただ、ラジオで聞いて「めちゃかっこいい!」と思ってアルバムを探して聞こうと思った熱量が僕の中にあったから「いや、良くないはずがない」と思って何度か聞いているうちに「やっぱり曲はいいなぁ」となってきて記事を書くほどの熱量になったわけです。ラジオは新しい音楽との出会いがありますね。やっぱり「聞き逃すと二度と出会えない」みたいな一期一会感がプライスレスなのかもしれない。自分で情報を探しに行かないと手に入らないし、一度そういう「追いかける」モードに入ると魅力を感じますよね。愛されるより愛したいマジで。

あと、多少身も蓋もないけどラジオだとどの曲も適度に音質が悪くなるから古い曲も新しい曲もそれほどプロダクションに差がなく聞こえる、のもあるかも。解像度低ければ細かいところ分かんないでしょ。音質って、良ければ良いほど音楽体験が良くなるかってそんなもんでもないので。チープなスピーカーから聞いた方が魅力的な音楽もあるよね。

話をこのアルバムに戻して、2000年代中盤のメタルって個人的には穴場。00年代初頭までと2010年代後半以降はけっこう聞いているんですが、00年代中盤~10年代中盤までメタルから離れていたので約10年間ぐらい抜けている。この時期の音源はYouTubeにもMVとかありませんしね。曲だけなら上がっていることがありますが、この規模のバンドがMVを作る文化はまだなかった。YouTubeのレコメンドでメタルバンドをDigる癖があるのですが00年代の(商業的大成功したわけでもない)メタルバンドにはほぼ出会えません。ストリーミングだと「なんでも聞ける」分、偶然の出会いは限られますし。ラジオで「知らないけれどかっこいい曲、バンド」が次々流れてくるのはかなりエキサイティング。

00年代中盤以降ってNuMetalもブームが去りメタルのUSでの(商業的な)メインストリームがなくなった/分散した時期だと思うのですが、欧州はメタルフェスが盛り上がり、よりライブや地域のコミュニティに根差した力のあるバンド・作品が多くリリースされた時期。膨大すぎてなかなか掘れていないのですが、今作との出会いは「00年代中盤を掘ってみよう」と思わせる魅力がありました。タイトルトラックの「6.The Longest Night」はメイデン感があるカッコいい曲(最初にこの曲に出会った)。

一応、近作では頑張ってリリックビデオ(歌詞が出るビデオ)は作っている様子。

でもこのバンド、ずっと同じレーベル(Cruz Del Sur Music)からリリースしているようですが、これイタリアのレーベルなのか。フロンティアレコードといい、イタリアのメタルレーベルは高品質ですね。他にもちょくちょく見たことのあるアーティストが所属しています(Tower、Adamantis、Wheel、Smoulderなど)。NWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)の文脈で語られるパワーメタル系バンドが多いレーベルなのかな。欧州的なメロディアスさがあるのはイタリアのレーベルに所属しているからかも。レーベルのBandcampページはこちら。


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