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Evile / Hell Unleashed

Evile(イーヴァイル)は2004年結成(とwikiにはあるがメーカーインフォによると1999年結成で、バンド名を2004年に変えた様子)、2007年デビューのUKのスラッシュメタルバンドです。かつては Earache Recordsに所属し、ハウリング・ブルから日本盤もリリースされていた模様。本作はオーストラリアのナパームレコードからのリリースで8年ぶり5作目。Ward Recordsから日本盤も発売しています。レーベルの説明文がこちら。

イーヴァイル、8年ぶり5枚目のアルバムが登場!
00年後半、突如新世代のスラッシュ・メタル・バンド群が大きな注目を集めた。80年代に栄華を誇るも、90年代に入るとメインストリームのグランジ、アンダーグラウンドのデス・メタル/グラインドコアに挟み撃ちにされ、かつての勢いを失ってしまったスラッシュ・メタル。結果、多くのバンドが解散、もしくは路線変更を余儀なくされたのだ。その後、一種の80年代スラッシュへの回帰運動であったスカンディナヴィアを中心とするブラック・メタルのムーヴメントを経ることで、90年代終わりにはスラッシュ・メタルも復権。21世紀に入る頃には、その勢いを完全に取り戻したと言える。だが、シーンの先頭を走るバンドの顔ぶれは、80年代と何ら変わりのない大御所ばかり。そんな風潮に変化を起こしたのが、いわゆるニュー・ウェイヴ・オブ・スラッシュ・メタルのムーヴメントだったのである。その中で、ガマ・ボム、ウォーブリンガー、ボンディッド・バイ・ブラッドらとともに中心的役割を果たしたのが、イギリスのイーヴァイルであった。
結成は99年。当時はメタル・ミリシアというバンド名で、メタリカのカバーを中心にプレイしていた。04年に現在のイーヴァイルへと改名し制作したデモが、イギリスの大手レーベル、イヤーエイク・レコーズの目にとまる。そしてリリースされたデビュー・アルバムが、『Enter the Grave』(07年)。ニュー・ウェイヴ・オブ・スラッシュ・メタル・ブームを先導したのは、イヤーエイク・レコーズであったと言える。当時イーヴァイルの他、ガマ・ボム、ミュニシパル・ウェイスト、SSS、ヴァイオレイターといった、80年代色の強い若手バンドの作品を立て続けにリリース。久しくめぼしいムーヴメントのなかったエクストリーム・メタル界は、湧きに湧いたのだ。当然イーヴァイルにも、スラッシュ・メタル界期待の新星として大きな注目が集まった。09年にはセカンド・アルバム『Infected Nations』をリリースするが、同年ヨーロッパ・ツアー中に、ベーシストのマイク・アレクサンダーがわずか32歳の若さで急逝するという悲劇に見舞われる。マイクの遺志をついだバンドは続行を決意。さらに『Five Serpent's Teeth』(11年)、『Skull』(13年)と2枚のアルバムを、いずれもイヤーエイクからリリースしている。
この度リリースとなるのが、8年ぶり5枚目となるアルバム『ヘル・アリーシュド』である。ヴォーカルとギターを担当していたマット・ドレイクの脱退に伴い、新ギタリストとしてアダム・スミスが加入、ヴォーカルはリード・ギタリストのオル・ドレイクが兼任と、新体制になったイーヴァイルだが、とにかく曲の速いこと。イーヴァイル史上最高速、次から次へと疾走ナンバーが飛び出してきて、首が休まる暇がない。ヴォーカリストが交代したことの違和感も皆無。全スラッシャー必聴の大傑作だ!アメリカのデス・メタル・バンド、モーティシャンのカバーを収録というのも渋すぎ。
(メーカー・インフォメーションより)

1.Paralysed 05:03 ★★★☆

だんだん大きくなるフィードバックノイズ、からの怒涛の疾走。ちょっと筋肉少女帯の「スラッシュ禅問答」に似ているな。リズムが同じ。ツービートで駆け抜けていく。ボーカルはスラッシュマナー。けっこう割れている歪みが強めの声だがデスボイスまではいかない。コードが展開していく。声質はいいがバッキングの歯切れの良さに対するとちょっとボーカルのリズムが歯切れが悪いか。曲構成は凝っていて途中変拍子もあり、初期メタリカや、スラッシュの王道パターン。バッキングはセンスが良い。緩急もあり減速と加速を織り交ぜて曲が進んでいく。あまりメロディは展開がないというか、考えてみたら北欧がメロディアスすぎるだけでUSパワーメタル、USスラッシュの範疇か。オールドスタイルで正統派スラッシュ。

2.Gore 04:48 ★★★☆

引きずるようなリフ、だが、重さは控えめでどこか軽やかさがあるのはスラッシュバンドゆえか。ドゥーム感がそこまで強調されていない。ギターがけっこう中高音主体で軽快だからだろう。そこから疾走リフへ。アップテンポになる。これはこれで筋が通ってるな。クオリティ高し。パワーメタル的な雄々しいコーラスも入ってきた。歌メロは基本的にメロディ感は少ない、シャウト、アジテーション系。そういや「ゴア」というけど、ゴアって地名から来てんのかな、インドの。ゴアトランスとかは地名だよね。あ、Goreというのは「流血」とか「血糊」とかいう意味なのか。グラインド”コア”のなかで過激なものが”ゴア”グラインドと。日本語だと紛らわしいな。Grind-CoreとGore-Grindと英語で書くとだいぶ違うが。確かに流血的、カニバルコープスとテスタメントの中間みたいな音。

3.Incarcerated 06:16 ★★★★

不協和音なアルペジオから。こういう和音はスラッシュバンド好きだよね。最近もSepulturaの曲にもあったな。アナイアレイターなんかも多用していたような。90年代、最初に聞いた時はうーんと思ったが、聞きなれてくるとこれはこれで癖になる。ミドルテンポの曲、ギターの音色がザクザクしながらもちょっと引きずる感じもあり、まさにスラッシュ(叩く、鞭打つ)メタル。あと、スラッシュ(Thrash)って「バタバタする」という意味もあるらしい。扇風機リフ、とか勝手に名付けているけれど、スラッシーなリフってなんかグルグル回る感じがあるよね。まさにザクザクと回転し続ける曲。このアルバム、集中して聞き込むとメロディや展開にフックが弱めだが、流していると実に心地よい。色んなバランスが適度で、且つしっかりと芯が通っている感じはある。テスタメントの昨年作とかもそうだけど、テスタメントに比べるともっと軽やかで気楽。ガマボムとかに比べるとかなり硬派。どの曲も1曲の中にかなりいろんなリフや展開が組み込まれているな。一聴して耳に残るメロディやフレーズは少なめだが、展開の心地よさで聞かせるバンドなのか。だんだんこの世界観が気に入ってきた。

4.War of Attrition 04:25 ★★★★☆

アップテンポ、ツービートからのツーバス。緊迫感ある、振り下ろしつづける鉈のようなリフ、ところどころシンバルの金属音。そのテンションのママ、ボーカルが入ってくる。この曲はかっこいいな。途中、ややフックのあるメロディも出てくるし、バンドとボーカルが一丸となってリズムで押し寄せてくる。切り込んでくるギターソロも見事。展開も凝っている。アップテンポなので目まぐるしく変わる印象を受ける。ドラムの手数が多い。

5.Disorder 04:57 ★★★★

奔流のようなギターフレーズから、そのままリズムが入ってきてやや跳ねたリズムパターンに。ボーカルが入ってくる。歯切れが増している。バタバタとした飛び回るようなスラッシーなリフ。金属の蝶々が飛び回る様だ。ボーカルはメロディ感を極力出さない、シャウトに徹している。これは硬派だなあ。リフとリズムの展開を快楽構造として位置付けている。アナイアレイターとかにも近い構成力。あと、このアルバムけっこう音がいい。ギターの音が心地よいディストーション。それぞれの楽器の分離も良く、エッジが立ちながら聞き疲れない。調べたらナパームレコードなのか。いいプロダクション。

6.The Thing (1982) 04:54 ★★★★

まさしくスラッシーな、バタバタしたリフ。からのややミドルテンポに落ち着く。そこからアップテンポなパートへ。一曲の中にさまざまなパートが組み込まれていて複雑ながらテンションを上げていく。

7.Zombie Apocalypse 02:30 ★★★

スロウでヘヴィな歌い出し、一休みといったところか。と思ったらまた疾走パートへ。どの曲もけっこう走ってるなあ。勢いが強い。またスロウテンポへ。シンバルの金属音が響く。比較的緩急がシンプルな反復で終わる短めの曲。確かにタイトルの通りゾンビっぽい。

8.Control From Above 04:50 ★★★★

ベースのアルペジオからスタート、低音が煮え滾る。ドラムが入ってきてバタバタと釜を搔きまわし、ギターフレーズが降ってくる。そしてバタバタとしたリフが入り、全体が混然となって煮え立っていく。熱された鉄のようなボーカル。溶鉱炉、工場、鉄床(Anvil)。スラッシュメタルには金属同士を叩きつけるような印象がある。かつ、機械的な容赦のない反復や展開。その中に込められた人間の感情、このバンドのギターの音は冷徹さの中にどこか温かみがある。抒情的なギターソロ、ただ、安易な共感を誘うようなメロディは拒絶し、リフとリズムのせめぎ合い、全体の展開によってひたすらドラマを構築していく。

9.Hell Unleashed 03:57 ★★★★☆

戦場? 悲鳴と爆撃のようにも聞こえるSEの反復から曲がスタート、なだれ込んでくる。そのまま一気に疾走、息をつかせぬスピードメタル。この曲が最高速か。初期メタリカ的な作りだな。80年代後半の黎明期スラッシュをそのまま温存しつつプロダクションや編曲は30年以上のスラッシュメタルのレガシーを活かして練り上げている。テンポの緩急、ミドルテンポながら歯切れのよいパートを経てまた疾走リフへ。疾走感を出すギターソロが良い。空間を埋める飛び回る手数の多いドラム。かっこいい。

総合評価 ★★★★

クオリティが高い正統派スラッシュ。Thrash(叩く、鞭打つ)の名の通りのアルバム。メロディによる共感、開放感に頼らず、ひたすらリフの反復とリズムの加速・減速、曲全体の変化によってドラマを紡いでいく硬派なスラッシュメタル。最近の若手スラッシュバンドにありがちなパーティー感は少なく、20年のキャリアを持つベテランらしい重厚感と雄々しさがある。全体的にライブで盛り上がりそうな、首が自然と揺れる熱量のこもったアルバム。生粋のスラッシャーではなかった自分も楽しめた。

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