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Sturgill Simpson / The Ballad of Dood & Juanita

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ジョン・スタージル・シンプソン(1978年6月8日生まれ)は、USのカントリーミュージックのシンガーソングライター兼俳優です。アウトローカントリー(ホンキートンクやロカビリーなどの初期のサブジャンルにルーツがあり、ロックとフォークのリズム、カントリーインストルメンテーション、内省的な歌詞のブレンドが特徴)のアーティスト。2016年の「A Sailor's Guide to Earth」は名作で、オルタナティブロック史でも取り上げました。

本作は7枚目のアルバムで、本人曰く「伝統的なカントリー、ブルーグラス、そしてゴスペルとアカペラを含む(アパラチア)山岳音楽だ」とのこと。ルーツミュージック回帰ですね。カントリーのレジェンド、ウィリー・ネルソンが「7.Juanita」にゲスト参加。

本作は1週間で作曲~録音までされたそうで、「今や伝説となった開拓時代当時の、ケンタッキーでの愛について」のコンセプトアルバムとのこと。自身名義だと最後のアルバム(この後はバンド活動や、プロデュース業をやっていきたいらしい)という話もあります。聴いてみましょう。

活動国:US
ジャンル:ブルーグラス
活動年:2004ー現在
リリース:2021年8月20日

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総合評価 ★★★★

オールドスタイルのブルーグラス。アパラチアンフォーク。開拓時代の雰囲気や風景がよく描かれている。ところどころSEなどが入ってシーンを再現するのが現代的。ただ、ひねりやオルタナ感はなく、まっすぐブルーグラスであり、曲構成そのものはかなりオーソドックス。オーソドックスなスタイルで”普通にいい曲”が多い。ディズニーランドのカントリーベアシアターというか、あそこまでディフォルメされてはいないが雰囲気は近い。エッセンスを抜き出し、今風の音響加工やそれなりのメロディフックはあるものの、伝統的な作曲法、楽器、演奏法から逸脱していない。アルバムも10曲ながら28分とあっさりしていて、素朴な「ドゥーダとファニータの物語」が語られる。どうも山賊にさらわれたファニータをドゥーダが助けに行く話を、年老いたドゥーダが回想する、という物語のようだ。物語もシンプルで、歌詞の内容も伝統に沿っている。ルーツミュージックへの敬意と愛情を感じる1作。

この人自身はけっこうひねくれたというか、伝統的なカントリーやブルーグラスにいろいろな音楽要素をミックスしている人という印象があるのだけれど、本作は純度が高いブルーグラス。「何かあるのかな」と思いながら聞いているとあっさりと聞き終わってしまい、その物足りなさが「また聞きたい」となるかも。1週間で作曲~録音までした、ということで「アイデアを瞬間で切り取った」ような鮮度がある。ジャンルは違うがJay Electronicaの「A Written Testimony」のような、「スルっと出てきたアルバム」という印象。作りこまれていないけれどそれなりに手が込んでいる、というか。聴く側もあまり身構えずに聞けるけれど、手抜きというわけでもない。どこか物足りなくて何度かリピートしてしまう。これも2020年代の一つのトレンドかもしれない(もう一つはカニエウェストのDondaのような超大作、長尺作も出てきて二極化している、ただ、「スルっと出てきたアルバム」の方が今っぽい)。

1."Prologue" – 1:01 ★★★☆

ドリル、あるいは花火の音、進軍マーチが聞こえてくる。レトロで色合わせた雰囲気を感じる音。進軍マーチのような合唱曲。どこか牧歌的な音だが、これは戦争の風景だろうか。

2."Ol' Dood" (Part I) – 2:57 ★★★★

ブルーグラスサウンドに。やや軽快なテンポでバンジョーのアルペジオが入るが、そこまで性急な感じはなく落ち着いた音像。Doodという登場人物を紹介するような歌。いたってオーソドックスなブルーグラスで、演奏も曲もクオリティは高い。

3."One in the Saddle, One on the Ground" – 3:15 ★★★☆

物語を紡ぐような曲。愛する妻(Juanita)が山賊にさらわれてライフルと猟犬と共にDoodが取り戻しに行くような話らしい。それを回想している話だろうか。穏やかに語るような曲。

4."Shamrock" – 4:40 ★★★★☆

ブルーグラスサウンド、コーラスが入っている。軽快に進む、ディズニーランドのカントリーベアシアターで流れていそうな感じ。どこか遊園地感があるのはこうしたサウンドが脳内でTDLと結びついているからかもしれない。「ホーホーホー(実際にはGo boy Goとか歌詞がついている)」という掛け声も入ってきて楽しい曲。最後にテンポアップしてブルーグラス的な各楽器の掛け合いが入る。ブルーグラスは要はジャズ的な、各楽器のせめぎあい、技巧の見せ場(ソロ回し)的なものをカントリーに取り入れたもの、らしい。ブルーグラスとカントリーの違いは、楽器隊の暴れっぷりとかソロ回しがあるかどうか、という理解をしている(ほかにも電気楽器を使うか使わないか、とか、使う楽器が違う、とかいろいろあるようだけれど、個人的に演奏の手数が多く、ジャズ的なものがブルーグラス、というのが一番わかりやすかった)。

5."Played Out" – 3:25 ★★★☆

つま弾くバンジョーのアルペジオ。波に揺れるようなリズム。なお、録音状態はいい。ボブディランの近作のように透明さも感じる音の凄味まではないが、各楽器に温かみがあって包まれるような心地よさがある。

6."Sam" – 1:12 ★★★☆

アカペラ、美しいハーモニーでスタート。USルーツミュージック。なお、アパラチアンフォークが一番古いらしい。アイルランドや北部イングランドの移民の歌が(本国以上に)そのままの形で残っていたとかなんとか。西へ西へ拡大していった開拓地の中で、アパラチア山脈はいつしか迂回され、取り残されたので伝統音楽がそのまま残ったらしい。この曲はほぼアカペラだけの小曲。

7."Juanita" (featuring Willie Nelson) – 3:40 ★★★★☆

ウィリーネルソン参加曲。穏やかな歌声。恋人に捧げる歌のようだ「君に出合って僕の中の嵐は収まった」「美しい長い黒髪、柔らかい蒼い瞳」など、オールドスタイルなラブソング。バイオリンが優雅に響く。ダンスパーティーでチークタイムに流れそうな歌。なんというか”普通にいい曲”。

8."Go in Peace" – 2:37 ★★★★☆

ちょっとアップテンポに。コーラス、合唱的なボーカル。楽器隊もやる気を見せてベースは動き回りバンジョーは高速アルペジオをつま弾きバイオリンは軽快に弾きまくる。ジャニータと共にドゥードは家に帰ったらしい。取り戻した。

9."Epilogue" – 0:37 ★★★☆

最初と同じくマーチ的な曲。

10."Ol' Dood" (Part II) – 4:22 ★★★☆

間髪入れず次の曲に、後日譚的な内容か。(この曲だけでなく)ところどこに銃声が出てくる。もっと銃が身近にあったのだろう。猟もしていたわけだし、暴力的な描写というより日常的な音。銃の音もどこか生々しい(変に加工されていない、意味を持たせていない)。徹頭徹尾オールドスタイル。ミドルテンポで短めのヴァース~コーラスを反復する。2曲目のアレンジ違い、といったところか。

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