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Judas Priest / Invincible Shield(2024)

UKメタルの祖とも言えるジューダスプリースト(鋼鉄神)、プリーストの結成は1969年とブラックサバスとそれほど変わらないが、デビューは1974年、そして本格的な商業的成功を収めるのは1980年のブリティッシュスティールからとやや遅咲きのバンド。ただ、それ故か「British Heavy Metal」に拘り「ヘヴィメタルとは何か」という音像を追及してきたバンド。以前書いたようにヘヴィメタルの誕生は1970年のブラックサバスのデビューをもってだと思っているけれど、サバス自身は「ヘヴィメタル」にそこまでこだわりはない、というか、ヘヴィメタルという形容詞がいつの間にか音楽ジャンルとなっている前から活動しており、意識的ではなかった。意識的に「ヘヴィメタルとは何か」を追及した最初のバンドがジューダスプリーストだったと思う。だから、彼らこそが音楽ジャンルとしてのヘヴィメタルの祖とも言える。より正確に言えば「激烈さ」「疾走感」など「メタル」という音楽から想起される極端さではなく「ツインリードによる構築美」「ハイトーンボーカルとツインギター」「フォーメーションパフォーマンス」なども含めた「様式」を作り上げたというべきか。

本作は6年ぶり、19枚目のアルバム。プロデューサーはアンディ・スニープ。アンディ・スニープはグレンの代わりにプリーストのツアーギタリストとしても参加しているが、もともとは90年代からUSスラッシュ系を手掛けてきたプロデューサー。ExodusやTestament、Machine HeadやOverkillなどを手掛けた。また、2000年代からはブラックメタルも手掛け、OpethやAmon Amarthなども手掛けている。要はモダンな音作り=00年代/10年代のメタルの音像が作れるプロデューサー。70年代から活躍するようなベテランとはあまり縁がなかった人だが2014年からサクソンのプロデュースをするようになり、その流れか2018年、プリーストの前作「ファイアーパワー」をトム・アロムと共にプロデュース。この時の相性が良かったのだろう。本作ではメインプロデューサーに抜擢された。

トム・アロムはプリーストの商業的第一次黄金期である1980年代を支えたベテランプロデューサー。2009年のバトルクライ(ライブ盤)からプリースト作品に復帰し、前作はアンディ・スニープと共同プロデューサーを務めた。本作では2曲、10,11曲目に共同プロデューサーとして参加している。トム・アロムからアンディ・スニープへバトンが渡されたのだと考えると感慨深い。

こういうベテランバンドになると当人たちの音楽性は大きくは変わらない。時代時代に合わせて変化はするのたけれど、それにはプロデューサーの影響も大きくなる。特に音作りに関してはそうだ。もともとプリーストは時代時代に合わせて変化してきたバンドであり、それは不遇の70年代、さまざまな音楽的変遷を経たことも原点にあるのだろう。また、当時確立されていない「ヘヴィメタル」という音像を作り上げるための試行錯誤こそがこのバンドの根幹にあるからだと思われる。バンドの二枚看板だったギタリスト、KKダウニングが脱退後、一回り若いリッチーフォークナーが後任となってからの数作は「ジューダスプリーストが作るヘヴィメタル」を再定義するような作品が連続しているが、それはむしろそうしたサウンドが特異性を持ち、再評価されているからだろう。本作も、先に発表されたシングル曲を聞く限りその路線に変更はなさそう。ただ、先行曲からはよりモダンなキャッチーさというかギターリフと歌メロの絡み合いが軽快になっている印象を受けた。息苦しさ、重圧感より軽やかでフレッシュな印象。これはメタリカの新譜にも感じたことだが、ベテランの彼らが重苦しいものを作ると本当に重厚になる。意識的にやや軽快さを足すことでちょうどいいバランスなのかもしれない。ただ、アルバム全体として聞くとどうか。もちろんそこには古酒の味わいがあるのだろうと期待している。アンディ・スニープと組んだニューアルバムを聞いてみよう。

左からイアンヒル(Bass)、スコットトラヴィス(Dr)、ロブハルフォード(Vo)、リッチーフォークナー(Gt)、グレンティプトン(Gt)
グレンはパーキンソン病を患っており、ライブではアンディスニープが代役
ただ、スタジオ盤では基本的にグレンがプレイしている
本作はボブ・ハリガン・ジュニアの曲である「14.ロジャー」を除き、全曲がロブ、リッチー、グレンの共作
これは前作「ファイアーパワー(2018)」と同じ作曲体制

★★★ 感動した/ウルッと来た
★★ ワクワクした/耳を惹かれた
★ 平常

総合評価 ★★★

素晴らしい! 名盤。前作「Firepower」の出来が良かったが、その音楽性をさらに進めつつ新機軸を足したアルバム。「復讐の叫び」に対する「背徳の掟」というか、その最新系。こういうと何だがプリーストはムラがあるバンドで名盤を連続して出さないバンドなのだけれど、本作は見事に前作を深化させた素晴らしいアルバム。ジューダスプリースト、そして彼らがある意味作り上げたと言える「Heavy Metal」という音楽サブジャンルにまで昇華された音楽スタイル(より広義のエクストリームミュージックを指す「メタル」ではない)のエッセンスを抽出したアンディスニープのプロデュース能力、そして他のメンバーに比べれば若い世代であるリッチーフォークナーのセンスの力だろう。

本作の特徴は「キャッチーさ」だと思う。印象に残るメロディ、重圧感より軽快さを感じさせる親しみやすさがある。個々の技量、特にロブのボーカルは80年代、90年代の超人的なものではないけれど、技量に頼るのはなく曲そのものの魅力が高まっている。これはベテランのヘヴィメタルバンドがたどり着ける一つの境地だと思う。Black Sabbathの「13」、Iron Maidenの「Book Of Souls」と並ぶ、「British Heavy Metal」の2010年代以降の名盤。鋼鉄神は未だ君臨せり。

1."Panic Attack" 5:25 ★★★

先行配信曲、浮遊するようなシンセ音に続いてキーボードリフ、それがそのままギターフレーズになる。新機軸を感じさせる曲。TURBOの時のようなシンセ的な感覚もありつつ、そこからザクザクとしたパワーコードリフに変わる。ギターリフの展開が比較的長めで、メタリカのようなじっくりした展開。プリーストは比較的リフの展開が早いので、このあたりの感覚はリッチーフォークナーのものか。ボーカルが入るとコードチェンジのテンポが上がり、プリースト色が強まる。感覚的に、UKの音楽の方がコードチェンジが多い。スコットトラヴィスのドラムのツーバスの入れ方も細かい。コーラス前とコーラス後、単に踏みっぱなしではなくパターンが細かい。この辺りのリズムアレンジのモダンな感覚はアンディスニープのものだろうか。切り込んでくるツインリード。歌メロはけっこうシンプルというか分かりやすいのだが曲構成は情報量が多い。ややアップ気味のミドルテンポ。疾走曲ではないが展開の速さ、詰め込まれた情報量の多さから体感速度は速め。テンポチェンジはないもののどんどん曲の景色が変わっていく。ロブの歌も極端な高音はサビのコーラスぐらいしか使っていないが声の存在感が強い。歌メロとギターソロ、ギターリフがすべて等価で続いていくスリリングな曲、5分という時間を感じさせない。

2."The Serpent and the King" 4:19 ★★★

前の曲よりアップテンポに。ボーカルも高音で攻めてくる。ギターリフが凝っている。ベース、ギター、ドラム、ボーカルが有機的に絡み合う。なんだろう、展開の早いスリリングなメタリカというか。メタリカって各パートの組み合わせが上手いバンドで、かつけっこう一つ一つの展開をじっくり続けるのが特徴だけれど、一つ一つの展開が早い感じ。同じBPMでどんどん展開していくからあまりプログメタル感は感じないが、この詰め込まれたアイデア量とパート変化の多さはプログレ的。考えてみると本作はコロナ中に作られたアルバムで、その分スタジオワークに時間をかけられた様子。各パートの作り込み、情報量が多いのはそれもあるのだろうか。情報量が多ければいいというわけではないのだけれど(その分まとめるのが難しくなるし)、この曲はかなりうまくいっている。また、途中のパートにティムリッパーオーウェンス時代のモダンな感覚も少し入っている。

3."Invincible Shield" 6:21 ★★★

間髪を入れず次の曲に。前2曲も決して短い曲ではないのだが情報量が多いからあっという間に感じる。変化するリフ、リズム、ボーカルパート。それらの組み合わせ方が万華鏡のようだ。今のところテンションと言いアイデアといい名盤だった前作Firepowerを超えている。ロブのボーカルも魅力的。ここのところ高音の細さを感じることもあったが、中低音域と高音のバランスが良い。中低音域の説得力が増したこともあるのだろう。まさか前作をさらに進めて進化すると思わなかった。この曲はギターソロらしいギターソロが入っている。今までは曲の一部、自然に流れていったがけっこう長尺。リズム隊の変化も素晴らしい。ところどころで出てくる高音ボーカルもプリーストらしさをアピールしつつ決して無理をした感じがない。1-3の流れはプリースト史上でも屈指の出来。80年代の復讐の叫び、ディフェンダーオブフェイス、そして90年のペインキラーに匹敵するスリリングさ。

4."Devil in Disguise" 4:46 ★★☆

リフは勢いよく入ってくるがここでリズムは少し落ち着いた、ヘヴィでややテンポダウンしたリズムに。ただ、重苦しさはあまりなくハキハキとした歯切れの良さがある。これはギターサウンドとリフの歯切れの良さがあるな。ロブのボーカルは別にラップ的でもないし、年齢を考えればかなり歯切れは良い方だがそもそものスタイルとしてどちらかと言えばねちっこい。怪鳥系。歯切れの良いギターの上で呪術的にうごめく司祭の祈りなのだ。本作の歯切れの良さはアンディスニープの手腕だろうな。前作にも感じた明るさ、いい意味での軽さが継続しているが、アレンジや情報量の多さによってしっかりとした重量感がある。これぞヘヴィメタル。単なる「(技巧的な)激烈な音楽」の総称として拡散した「メタル」ではなく、70年代から80年代、ジューダスプリーストが確立した「Heavy Metal」だ。その最新系にして王道と言えるクオリティ。

5."Gates of Hell" 4:38 ★★★

メロディアスなギターリフからスタート。このあたりのオープニングの感覚はリッチーフォークナーのものだろう。グレンとも違うメロディ感覚。そこからリフが入ってくる、メロディとコードの組み合わせる感覚はグレンのセンス。なお、2024年4月号のBurrn!誌に載ったロブハルフォードのインタビューによるとボーカルメロディは基本的にロブハルフォードが作っているらしい。この曲のサビは70年代のUKロック的、バッキングコーラスが入りキャッチーなメロディが入る。70年代から活動するUKロックバンドたるプリーストを感じさせる曲。そこにモダンなギター、そしてサウンドプロダクションが組み合わさってユニークな曲になっている。この曲もミドルテンポだがアッパーな感じがする。ここまで全体としてかなり展開が早く感じる。矢継ぎ早に展開していきスリリング。

6."Crown of Horns" 5:45 ★★★

またギターメロディからスタート。どの曲も個性がある。このアルバムは曲間が短い、次々と繰り出される感覚が高揚感を高める。リズムはややゆったりとしていてようやく音に隙間が出てきた。ボーカルが入るとアルペジオ、空間系のエフェクト、ちょっとバラード的な曲。だがミドルテンポで「じっくり聴かせる」というよりは勇壮なミドルテンポのバラードと言った感じ。最近の北欧メタル的な感覚もある。アンディスニープいい仕事してるなぁ。曲自体の良さはもちろんあるが、音作りや微妙なテンポなどはプロデュースによるところも大きいと思う。ボーカルもミドルレンジを主体として、しっかり口ずさめるメロディ。ここまでめくるめく展開だったアルバムがようやく一息つく場面、といった曲。アルバムには緩急が必要。ただ、今までの流れの中では少しテンションが落ち着いた感じがするものの、単体としてみるとむしろキャッチーな名曲。メロディ的には突出しているものがある。

7."As God Is My Witness" 4:36 ★★☆

前の曲がフェードアウトしていき、一度落ち着くのかと思ったらリフがフェードインしてくる、かなりアップテンポの曲。凄いなこのアルバム。これはプロデューサーの魅せ方の上手さを感じる。ドラムの手数がかなり多い曲。近年のテクニカルデスみたいな異常さはないが、ヘヴィメタルの範疇ではかなり圧の強い細かいブラストビートが機関銃の弾幕のように降り注ぐ。この曲もボーカルメロディがかなり練られている。切り替わるギターソロ。ツインリードによるギターバトル。これは片方はグレンなのかな。グレンが考えても弾けないところはリッチーが代わりに弾いているそう。トーンがそこまで変わらないからどちらもリッチーなのかもしれないが、メロディ的には2つの個性の応酬。ペインキラーに入っていてもおかしくない感じの曲。

8."Trial by Fire" 4:21 ★★☆

ツインリードのギターメロディがフェードインしてくる。本作はギターメロディからスタートする曲が多い印象。これはこのアルバムの特徴かもしれない。最初にギターだけがあり、途中からリズムが入ってくる。その時にメロディがリフに切り替わる。この曲はまた今までとは違うリズムパターン、やや変拍子感が強い。隙間がありプログメタル的なリズム。これも先行曲。どこか呪術的な感覚があり、00年代以降、ロブ復帰後のプリーストらしい曲と言える。じっくりと後半に向けて温度が上がっていく、熱量が蓄積していくタイプの曲。ギターリフがキャッチー。

9."Escape from Reality" 4:24 ★★☆

ヘヴィなリズム、リフ。00年代、リッパー時代のJP的なリフ。ロブもFightでやっていたし、モダンでコード展開をあまり感じさせないヘヴィなリフもJPの歴史には組み込まれている。ただ、歌メロが入るとしっかりとコード感が出てくる。お、コーラスはちょっと面白いメロディ。ノストラダムスに入っていてもおかしくない感じの曲。こういう曲はライブだとけっこう酩酊感があって好き。極端にヘヴィではなく、歯切れの良さはあるのだけれどこのアルバムの中ではヘヴィでドゥーミーな感じの曲。テンポやギターの歯切れの良さからサイケデリックまではいかないが。儀式のようにコーラスが重なり、高揚感が増していく。

10."Sons of Thunder" 2:58 ★★☆

とにかく曲間、次の曲にいくテンポがいい。前の曲からワンテンポでこの曲へ。DJセットのように曲が続いていきテンションが維持される。この曲はテンポも前の曲に近く組曲のようにも感じる。キャッチーでシンガロングな歌メロ。トムアロムが共同プロデュースで入っている曲、そういう意識で聴くと少し80年代的な感覚が強まったか。リズムパターンが今までの曲に比べるともっとシンプル。ギターリフも含めて隙間が多く開放感がある。反復する歌メロ。終わり方も余韻を少し残す。

11."Giants in the Sky" 5:03 ★★☆

こちらもトムアロムの共同プロデュース。やっぱりモダンな感覚がちょっと薄れるな。悪い意味ではなく、アレンジがシンプルになり過去のプリーストらしさが増す。80年代的というよりは00年代、ロブ復帰後の数作に近い印象だが。これもアルバム全体のバラエティとしてはいい感じ。10,11は最初に作った曲なのだろうか。この路線で行くかどうか、新しい路線を足したくてアンディスニープだけに任せたのか。それとも過去の味わいも残したくて途中あるいは最後にこの2曲を足したのか。いずれにせよこれをアルバム本編に持ってくるのはライブ的な感じがする。プリーストのライブはだいたい最後はミドルテンポの80年代の曲(アナザーシングカミンとか)が多いから、ライブ的な構成とも感じる。曲の終わり方もライブの終わりのようだ。

Total length: 52:36

Deluxe edition / 7" bonus tracks

12. "Fight of Your Life" 4:19 ★★☆

ここからボーナストラックというか、本編の後、アンコールと考えればいいのかな。ねちっこくてブルージーなリフでスタート。今までの曲とは色が違う。確かに、本編には入れるところがない感じだが、違う味わいで面白い。モダンなメタルからは距離があるが70年代的のプリーストな感じの曲。曲構成や各パートの切り替えは洗練されていてキャッチー。リッチーフォークナーはジミヘン好きらしいが、その影響も少し感じる。UK的、イギリスで解釈した異形のブルースというか。全体的に本作はロブハルフォードのボーカルメロディがかなりキャッチーでそれが完成度を底上げしている。

13. "Vicious Circle" 3:01 ★★☆

モダンさと80年代的なパワーコードが適度に混ざったギターリフ。本編には入らなかったが魅力的な曲だからボーナストラックに入れよう、という考えがよく分かる感じの曲。新しさはないが良い曲。いやぁ、前の曲でも書いたがロブの歌メロが完成度を上げている。リフだけならこの曲は凡曲だが、歌メロが良い。また、ギターのメロディパートも良い。ロックダウンでツアーがなくなり、かなり時間があったためかアイデア量が多い。

14. "The Lodger" 3:52 ★★★

この曲だけ外部ライター、ボブハリガンジュニアの曲。カバーというわけではない。この人は80年代にもプリーストに何曲か(1982年の『スクリーミング・フォー・ヴェンジェンス』収録曲「(Take These) Chains」と1984年の『ディフェンダーズ・オブ・ザ・フェイス』収録シングル「サム・ヘッズ・アー・ゴナ・ロール」)提供している。違う感じのメロディラインで面白い。演劇的な曲でロブのボーカルスタイルもあいまってマーシフルフェイト的でもある。これは本編とは雰囲気は違うがクオリティは高く、正しくボーナストラックという感じ。暗黒感がありホラー系メタルの佳曲。

Total length: 63:48

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