NWOTHM FULL / New Age of Steel Vol. 1
新生代のNWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)バンドを紹介するYouTubeチャンネル、NWOTHM Full Albumsが作成したコンピレーション盤。”Heavy Metal”と一言で言っても今やかなり広大になり、極端な音像を目指すバンド群が増えている中で「70年代HRから進化した80年代HM、初期HMの音像をリバイバルしよう」という動きがNWOTHMと呼ばれます。そうした「80年代HM」のひな型を作った70年代後半~80年代にUKで起きたムーブメントであるNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)をもじったネーミングですね。特徴としては「キャッチーなサビ」「インパクトのあるリフ」「メロディアスなギターソロ」「疾走感のある曲調」といったあたりが重要でしょうか。
このNWO**はけっこう使い勝手が良いようで、1990年後半~00年代中盤にUSで起きたムーブメントであるNWOAHM(New Wave Of American Heavy Metal)なども存在します。こちらはざっくり行ってしまえばポストグランジ、Nu-Metalに伝統的なメタル要素(ツインリードのメロディアスなソロとかリフとか)を取り入れる動きです。いずれにせよ、NWO**と呼ばれている場合は、何かしらNWOBHM的な音像と連続性があると思って良いでしょう。
余談ですが、ここのところ個人的にはメタルってポップスの一形態だと思っているんですよね。ずっとロック史の最後の(音楽スタイルとしての)大トレンドがメタルだと思ってたんですけど、そもそもメタルのルーツって(ロックのルーツである)ブルース~ロックンロールではなく、むしろ世界各国のポップス(大衆音楽)全般なんじゃないかなと。サウンドスタイルとして「エッジの立ったディストーションギター」とか「スクリーム」とか「ブラストビート」とか特徴的なものがいくつかありますけど、曲構成としては別にブルースに縛られない。ポップス全般がルーツだからボーカルメロディがけっこうキャッチーだったり、ギターソロがクラシカルだったり、さまざまな要素が入っているんですよね。僕が好きな音楽に「ワールドミュージック」と「メタル」を挙げているのは、その二つは地域性が強く多様性があるからです。たとえばジャーマンメタルだと、ブルースの影響よりドイツのポップスやクラシック(オペラ)、ジャーマンテクノの影響の方を強く感じます。分岐点はプログレッシブロックなのかな。まだ考え中です。
さて、話を本作に戻してバンドキャンプのリリース文を見てみましょう。
The first New Age of Steel compilation presented by NWOTHM Full Albums brings a new generation of metal defenders.
これは新世代メタルの守護者であるNWOTHM Full Albumsが送る新世代の鋼鉄コンピレーションの第一弾だ。
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Thanks to all bands who offered a song for this compilation. Your support is deeply appreciated.
このアルバムに参加してくれたすべてのバンドにお礼を言うよ。皆の助けに深く感謝している。
とあります。このアルバムはBandcampのニューリリースで知ったのですが、なかなか面白そうなYouTubeチャンネルですね。
こういうコンピ盤ってアンダーグラウンドシーンには重要で、かのMetallicaももともとは「メタル・マサカーVol1」でデビュー。日本でもX Japanがメジャーデビュー前に「SKULL THRASH ZONE Vol.1」に参加しています。こうしたコンピ盤は選者の選曲眼とネットワーク力が問われます。”新世代メタルの守護者”を名乗るNWOTHM Full Albumsはどんなキュレーションをしているか楽しみですね。早速聞いてみましょう。
リリース日:2021年8月6日
総合評価 ★★★★
面白いものを聞かせていただきました。知らないバンドに出合えたし、玉石混交なのもコンピ盤っぽくて良い。世界中幅広く集めているのも好印象。1.Merciless Law、3.Claymorean、4.Warrior Path、7.Phantom Spellは掘り出し物。HauntとAgainst Evilはもともと知っていましたがやはりいいバンドだなぁと。メタル愛が伝わってくる良いアルバムでした。こうしてみるとやはりNWOTHMはUKが強く、欧州にも広がっている様子。USは(メタルシーンの規模の割には)少な目ですね。まぁ、USメタルの潮流からは大きく逸脱した音像なので納得。あとはアジアのインド、南米のチリから出てきているのは面白い。辺境をDigる深さと濃さで言えばパブリブ(マニアックな音楽ジャンルを掘り下げたディスクガイドを出している日本の出版社)の方が深いかな。パブリブから次は「NWOTHM特集」とか出してほしい。この括りだと本1冊になるほどバンドがいないかもしれませんが。いずれにせよ、NWOTHMを掘っている方なら楽しめる良コンピ。
1.Merciless Law - Questions 05:53 ★★★★☆
初期(ディアノ期)メイデン的なツインリードのリフからスタート、ファーストデビューアルバムからののアウトテイク、だそう。基本的に揮発音源ではなくレアトラック集、独占音源中心のようですね。拘ってる。ボーカルはややオペラティックでジャーマン的。いや、ブルースディッキンソン的というべきなのか。このMerciless Lawってまだデビューアルバムレコーディング中なのかな。bandcampページはありますが音源がありません。metallumにも記事がないし。となると世界初公開か。凄いな。クオリティが高い。どうも南米チリのバンドのよう。バンドというか一人プロジェクトなのかな。
2.Fortress - Evermore 04:06 ★★★★
こちらも録音中のニューアルバム(“Don’t Spare the Wicked” )からのアウトテイク? メロディアスなボーカルとリフが絡み合う王道のNWOTHM。Fili Bibiano’s Fortressというのが正式名称のよう。単なるFortressだとオーストラリアに1992年から活動するバンドがいますが別物ですね。これからのバンド。カリフォルニアのバンドのようで、NWOTHMだと中堅どころのHauntとのスプリットアルバムなんかも出していますね。ツボを押さえたいい曲。
3.Claymorean - Hunter of the Damned 03:47 ★★★★☆
こちらは既発曲のよう、2017年のアルバムからですね。面白いボーカル、ちょっと北欧的な透き通った感じがあります。セルビアのバンドだそう。いやぁ、ここまで多岐だと音から国を推測するのが不可能ですね。これはワクワクする。けっこうベテランのようでbandcampにはすでに7枚アルバムがあります。
4.Warrior Path - Beast of Hate 04:18 ★★★★☆
やや疾走感がある曲。どの曲もフレッシュ。こちらは2021年3月にリリースされたアルバムからの曲のようです。このバンドのジャケットは見覚えがあるなぁ。Bandcampで見たことがありますね。なんとなくMugnumっぽいなぁ、正統派メタルっぽいなぁと思って気になっていたジャケットです。いいですね。今まで2枚のアルバムをリリースしている様子。ギリシャ、アテネのバンド。世界中にこんなにNWOTHMバンドがいるとは!
5.Rage and Fire - Black Wind 04:35 ★★★☆
2021年リリースのデモテープ「Demo 1986+35」から。確かに1986年っぽいサウンド笑。これだけ80年代の録音と言われても信じてしまいそう。ポルトガル、リスボンのバンドですね。bandcampだとデモも「Demo」と銘打ってリリースする文化があります。デモの名の通り粗削りなサウンド。途中で語りが出てくる。微笑ましいですね。ただ、曲の構成力は確かに高い。フルアルバムに期待。
6.Heathen Kings - In the Hall of the Kings 03:48 ★★★☆
こちらはデビューシングルとして2021年5月にリリースされた曲のよう。今ファーストアルバムのレコーディング中というところですかね。UKのバンドです。ミドルテンポでじっくりくるタイプのバンド。Magnumとか、ブリティッシュな薫りがするハードロック、ファンタジックなエピック系ですね。
7.Phantom Spell - Keep On Running 04:06 ★★★★☆
録音が細目、チープというべきか。曲はメロディアス。ちょっと演歌っぽさもある泣きメロ。なんだろう、Thin Lizzy的なのかな、ケルト的というか。UK、マンチェスターのバンド。こちらはデビューシングルの曲のようでまだデビューシングルしかリリースしていません。うーん、最初は音がチープだなぁと思っていたけれど聞いているうちに味が出てきた。なんだろう、UKハードロックの流れ、NWOBHM以前、70年代的。ユーライアヒープとシンリジィの中間のような。けっこう好きです。2019年のベストに選んだTanithにも近いかも。
8.Against Evil - Speed Demon 04:08 ★★★★☆
こちらはもともと知っているバンド、インドのバンドですね。さすがのクオリティ、音質がいい! リフが突進してきます。インドでこういうNWOTHM的なバンドは珍しいんですよ。デス/ブラックか、プログメタル系が多いので。2021年リリースの3枚目のアルバムから。やっぱり細かいリズムが正確というか演奏力も高いですよね、インドは。何しろタブラとか、インド伝統音楽はものすごく細かい、時間の分割度合が高い音楽ですから感覚が違う。時間当たりの音楽の解像度が高い。もともと知っているバンドなのでそこまで衝撃ではないですけれど、初めて触れる人には衝撃的だと思います。
9.Haunt - Imaginary Borders 04:01 ★★★★☆
以前、アルバムもレビューしたHaunt。レビューした「Beautiful Distraction」からのナンバー。この流れで聞くとやはりカッコいいですよね。完成度が高い。US、カリフォルニアのバンドです。Against Evilよりはやや生っぽい、ライブっぽい音作りですね。ちょっとボーカルが頼りなげなんですが、それも含めて味がある。うますぎない分、吐き捨て型というか疾走感があるというか、歌唱力に頼らないフックを模索している感じがして特色になっています。
10.Kramp - Speed of Light 03:00 ★★★★
どこどことツーバスで突進していきます。お、女性ボーカル。ちょっとジャーマンメタル、というか、ハロウィンっぽいですね。それもカイハンセンボーカルだった初期の。スペイン、マドリッドのバンド。ツインリードが頑張ってる感じがします。ちょっとギターソロではジプシーというかフラメンコ的なフレーズが一瞬入りますね。この辺りはスペイン的か。ボーカルメロディはあまりそういう感じはありませんが。オーソドックスなメロスピ。
11.Oath - Mean Streets 03:40 ★★★★
やや生々しい、チープさもある音質ながら曲はいいですね。ハードロック、ヘアメタル(LAメタル)的。どこのバンドだろう。UKのバンドでした。2020年リリースのアルバムからの曲。Oathというバンドはインドネシアにドゥームメタルバンドもいるようで、こちらは表記がOATH scとなっていますね。スコットランド、エディンバラのバンド。エディンバラってけっこう珍しい気もします。
12.Screamer - Shadow Hunter (Live) 03:09 ★★★★
ライブながら音質が他とあまり変わらない笑。とはいえ歓声も入っているし、演奏の生々しさはやはり違いますね。このバンドもそこそこ知名度がありますね。前作のジャケットは見たことがあります。レビューはしていないと思いますが。スウェーデンのバンド。こちらはライブアルバムからのトラック。今までライブアルバムも含めて5作リリース。NWOTHのアルバムジャケットってかっこいいというか、個人的趣味にはまるものが多いです。
13.Adamantis - Fire and Brimstone 04:47 ★★★☆
これは音が悪いというか音量が小さいですね。ただ、楽曲の勢いがある。USA、ボストンのバンド。エピックパワーメタルですね。そこそこ疾走感あり。ちょっとドラムがバタバタしているかなぁ。ギターメロディや歌メロはいいんですけどね。これは音質のせいもあるかなぁ。ドラムの音が違えば印象も違うかも。リフはカッコいいんですが。
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