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C. Tangana / El Madrileño

総合評価 ★★★★☆

CタンガナことAntón Álvarez Alfaro (born July 16, 1990)はスペイン、マドリッド生まれのラッパーです。ラッパーといいつつかなりメロディアスな歌も歌うので、「ラップが本職のポップシンガー」というべきか。基本的に最近のラッパーって歌えますからね。特に海外は。で、スペインのヒップホップグループAgorazein(アゴラゼイン)の1員でもあるようですが、ソロの方が成功している様子。アゴラゼインは2016年以降活動休止状態。2020年以降、伝統音楽を取り入れたラップポップとサッドコアの方向に進みリリースされたのが本作。本作はかなりの商業的成功をおさめ、スペインのチャートでは1位、ビルボードのラテンチャートで8位にランクイン。

短い曲が矢継ぎ早に繰り出され、1曲1曲のキャラクターが経っていてしっかりドラマもある。かなり完成度が高い作品。ただ、ボーカルスタイルが比較的クールというかあまり情熱的にならないので、いまいちテンションが上がり切らない。もうちょっと後半に行くにつれてボーカルのテンションも上がってもよかった気がするけれど、まぁ2021年の空気感に合わせたということなのかも。少し控えめというか家で楽しむというか、そういう意味ではアットホームで親密な感じはする。ヒットするのは分かる高品質なアルバムで、アルバム全体としても何らかの流れは意識されていることは感じるけれど、後半の盛り上がりは期待したほどではなかったので☆減。


Demasiadas Mujeres 2:34 ★★★★☆

古めかしい、1950年代ぐらいの録音物のような音、少しノイズがまじったレコード、みたいな。ビートだけは生々しいが他の音が時代がかっている。そこにえらくクリアなボーカルが入ってくる。ヒップホップを通過した音。ラップポップか。言葉数は多いがメロディアス。そこから四つ打ち、EDM的なビートへ。ただ、やや抑えめな音。スペインらしく哀愁のあるコード進行とメロディ。マイナー調でぐいぐい来る。いいオープニングでつかみはOK。

Tú Me Dejaste De Querer 3:18 ★★★★☆

スパニッシュな音。確かにフォーク要素が入っている。ちょっとノイズが入るのは意図的だな。僕の機材の接続不良化と思ったが適切なところで消えた。レコードノイズを再現しているのだろう。あるいは実際にサンプリングなのかな。ゆったりとしたリズム。これがトラップというのかな。あまりリズムの分類には詳しくない。ズン、空白、タッ、ズン、で繰り返される。いや、少しパターンが変わったな。ビートを追っていくのも面白い。一番ビートを伝えるのに楽なのは採譜かもなぁ。表記法を考えてみようかな。シンプルに1小節を16等分、いや8等分ぐらいでいいか。で、音がないところを●、音があるところを〇、◎で表すと強弱もあらせるような、、、。この曲はメロウでビートが強調された曲。

Comerte Entera 2:54 ★★★★

静かなメロディ、少しオートチューンがかかったボーカルと生声がミックスされている。コーラスでは強めのビートが入ってくる。また、その後は静謐な、夜のパーティーと朝のモーニングコーヒー(醒めた)の繰り返し、みたいな曲構成。短い曲なのにドラマがある。◎○○◎〇●〇〇だな、リズムは。

Nunca Estoy 2:42 ★★★★☆

エレピというかキーボードの音とボーカル。比較的1曲1曲が短い、コンパクト。なので次々とシーンが切り替わっていく。このコンパクトさはイマドキ感がある。ドラマの展開が速いというかダイジェスト感があるというか。かといってしっかりそれぞれの曲では展開していくのが凄い。一瞬、回線が遅延したようなエフェクトが入った。USのLOWやルレインのアルバムにもそんな、「電波が止まって音が途切れる」という演出が入っていた。ストリーミング環境で起きるようなことをうまく音楽的に使ってやろう、という一部の動きを感じる。面白い。CD時代にはなかったノイズだからね。CD時代は「音飛びを音楽的に再現して利用しよう」という動きがあったが、同じ発想。最初に聞いたときは「僕も使ってみたい」と思ったものだ。

Párteme La Cara 2:48 ★★★★

自然に次の曲に続いていく。切れ目がない。静かでメロディアスな曲で心地よく流れていく。

Ingobernable 3:07 ★★★★☆

ここは曲が切り替わり、急にフラメンコ的な音像に。本格的なフラメンコギター。いいねぇ。ボーカルスタイルは特に変わらず。歌い方も情熱的になるのかと思ったらクールな声。いかにもラテンポップス、といった趣。手拍子が鳴り響く。○○○○○○○○と1小節8拍すべてを拍手が埋める。途中からリズムが◎○○●◎●〇●に変わる。おお、この表記法で一応リズムは表せるな。

Nominao 2:56 ★★★★☆

声が前面に出てくる、ブラジル的な響き、空間があってその前に声だけどん、とある、カエターノヴェローソとかこういう音響が好きな印象。かなり削り落とされたバンドサウンド、ギターとボーカルが主体として曲ができていて、ところどころにベースとドラムが入る。メロディはスパニッシュ、ラテン的。

Un Veneno (G-Mix) 3:14 ★★★★

アルバムの展開が速い。曲が短いからね。こちらはフラメンコ曲。基本的なクールなボーカルなのだけれどゲストで少し暑苦しいボーカルが入ってくる。面白いな、さまざまな音楽スタイルをカットアウトして取り入れているような。メインボーカル以外はかなりクラシカルなフラメンコの音像。途中から悪ガキラップみたいな声になり盛り上がる、一瞬の空白の後、また落ち着いた、いややや落ちたトーンに。

Te Olvidaste 3:08 ★★★★

静かで落ち着いたトーンの曲、つま弾くギター、ささやくようなボーカル。メロディセンスは違うがボサノバのような。昔のエレクトーンのプリセットビートのようなチープなビートが入ってくる。

Muriendo e Envidia 3:03 ★★★★

ゲストボーカルが入ってくる、フラメンコ的というか情熱的なボーカル。明るい、メジャーコードのフラメンコ。スペインなのだけれどイタリア音楽的な明るさがある曲。ダウナーなメインボーカルが入ってくる。ああ、いい曲が多いなぁと思いつついまいちテンションが上がり切らないのはボーカルがずっと熱量低めだからだな。やはりある程度暑苦しいボーカルスタイルが好みなんだろう。ずっと落ち着いたトーンのボーカルで、しかもそれが主役として出てくるものだからテンションが上がりづらい。

CAMBIA! 3:08 ★★★★☆

えらく勢いよく弾かれるクラシックギターのフレーズ。それほど音は強くないのだがとにかくアタックが強い。そこからクールなボーカルが入ってくる。もうちょっとボーカルがやんちゃに暴れると面白いんだがなぁ。そもそもはヒップホップっぽいから凄味があるラップもできそうな感じはあるのだけれど。この曲はビートは凝っていて曲として単体のキャラクターは立っている。ちょっとテンションが上がってくる。

Cuando Olvidaré 3:10 ★★★★

穏やかなギター、哀愁のコード。これはボーカルスタイルに合っている。しずかな哀愁。突然ドラマティックなオケが断続的に入る。フルオケで作って音を削ったのだろうか。そろそろアルバムも終盤。ライブで言えばクライマックスが近い。感情の振れ幅が大きくなってきた。お、クンビアみたいな、南米感(ラテン市場だし)がある音像に。盛り上がってきたと思ったらいきなり爺さんの語りに。このアルバム、全体としてコンセプトアルバムなのだろうか。スペイン史なり何かをテーマにした。なんとなく全体の流れには物語性を感じる。

Los Tontos 3:13 ★★★★★

お、最初からわかりやすいコーラス。ラテンポップスにときどき出てくるアンセム的な、みんなで歌える曲、感。シャキーラのヒップスドントライとかああいうの。あそこまで大盛り上がりな感じはないが2021年らしい、少し内省的でステイホームな中でも盛り上がる、ホームパーティー的な親密さのある祝祭感。ようやくボーカルのテンションが上がってきた。いいんじゃない。

Hong Kong 3:23 ★★★★☆

お、デュエット。静かな、ややオルタナな感じのギターの上でボーカルが絡み合う。ギターがバッキング主体のロックバラードかと思ったら別の音像に。これはいくつかのスタイルがミックスされているな。イタリアのBLANCOにも近い感覚がある。お、ディストーションギターが入ってきた。これはオルタナ感がある。アルバムの最後にこういう曲を持ってくるのは面白いな。

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