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連載:メタル史 1982年⑦Venom / Black Metal

そのタイトルから「Black Metalの源流」とも呼ばれることがあるVenomのセカンドアルバム。今振り返って聴くと曲構成そのものにいわゆるブラックメタル感はあまりなく、1982年当時の(70年代ハードロックからの影響もかなり残った)ヘヴィメタルバンドだったと思いますが、劣悪な音質や醸し出す邪悪さといったもの、コンセプトとしての「Black Metalという概念」に多大な影響を与えたとされる一枚です。ブラックメタルのファーストウェーブの先陣を切ったバンド。

1st「Welcome To Hell」にしても本作にしてもジャケットには逆五芒星や悪魔のマークが用いられており、1981年、1982年当時の音楽LPのジャケットとしてはかなり過激。

前作のジャケット
ただ、今の感覚で改めて見ると
悪魔はちょっとディフォルメされていてかわいげもあります。

もともとBlack Sabbathから「黒魔術」や「悪魔崇拝」はUKハードロックの文脈に組み込まれていましたが、それはより大きな60年代からの「オカルトブーム」の一部でもあり、そこまでシリアスなものではない。見世物小屋的な「ギミック」としてのバンドスタイルでした。

当時のVenom

ビジュアルも強烈で、中世の蛮族というか海賊と黒魔術(髑髏など)のイメージを組み合わせた独特なもの。KISSとはまた違った方向のメイキャップ、キャラクター性のあるいでたちをしていました。これ、静止画で見るとかなり素っ頓狂で、いわゆる「メタルはダサい」みたいな例としても使われてしまったりするんですが、実際ライブを観ると演劇というかエンタメとしての完成度は高いです。

悲鳴のSEからスタートし、演劇的。この格好だって劇団四季みたいなものと思えば分かりやすいかも。ライオンキングとか写真だけで観たら「変な格好をした人たち」ですからね。だけれど、動いてるのを見ると迫力がある。1982年当時のライブエンターテイメントとしてはかなり力の入った完成度の高いショーを行っていたバンドだと言えます。

Venomは1978年にイギリス、ニューカッスルで結成されました。当時地元で活動していたギロチン、オベロン、ドワーフスターという3つのバンドからメンバーが結集して結成。それぞれのバンドがかなりファンジックな名前ですね。オベロンは妖精王の名前です。70年代ハードロックのテーマとしてファンタジーがかなり影響力を持っていたことがわかるし、そもそもそっち路線が好きな人たちが集まって作られたバンドであることが分かります。

女神転生とかFateとか、ゲームでよく見るオベロン

もともとは4人組のバンドでしたがデビュー前に1名脱退し、3名でデビュー。それぞれ通称を持っており、それが「アバドン」「マンタス」「クロノス」。アバドンは黙示録に出てくる暴食の悪魔の名前、クロノスはギリシア神話のゼウスの父親にして巨人族の長です。マンタスは単に愛称っぽい(少なくとも神や悪魔の名前ではない)。徹底してコンセプトを追及したキャラクター性の強いバンドでした。

女神転生のアバドン
…なぜ女神転生かって?
ちょうど今僕がペルソナ3リロードをやっているからです笑

本作のプロデューサーはキース・ニコルとバンド自身。キースニコルという人は本作が録音されたロンドン、インパルススタジオのマネージャーでありプロデューサーですね。もともとクロノスはインパルススタジオに勤めており、本人がサウンドエンジニアでもあった。インパルススタジオは自社のスタジオを使って録音した作品をリリースするレーベルをいくつか持っており、クロノスは会社を説得してロック系のレーベルを立ち上げます(それまではフォークとか別分野のレーベルしかなかった)。貧乏だったバンドはクロノスが無給で残業する代わりに空き時間のスタジオを利用することを許可してもらいデモテープを録音。そしてデビュー作、本作と続いてきています。なので、「バンドメンバーが働いているスタジオ」で作られた、いわば自主製作盤的な側面もあるアルバム。

こういった「もともと業界の中にいた人」がやっていたバンドだからこそ、少し同時代に対してメタ的な視点というか、「極端なキャラクター性、極端な音響」など、「他にないもの、マーケットの空白」を見いだせたのかもしれません。日本でもライブハウスやスタジオで働いている人がバンドをやることが多いですよね。逆も然りで、バンドマンはそうしたところで働きやすい。スタジオが使えたり、ライブハウスが使えたりするし、知識もあるから互いにとって利があります。なので、Venomというバンドは「勢い一発の悪魔主義者によるバンド」ではなく「サウンドエンジニアとしての専門知識があるメンバーが自分の勤めるスタジオを巻き込んで生み出したコンセプチュアルなバンド」という側面もあったと思います。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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