見出し画像

Black Soul Horde /Horrors From The Void

Black Soul Hordeは2012年に結成されたギリシャのバンドです。2名のギタリストが中心でボーカルを迎えたプロジェクトの様子。この2人はほかにもバンドを組んでいるので盟友的な存在でしょうか。1バンドだけでは食っていけないので複数のバンドをかけ持つ、というのは北欧にも近いですね。アンダーグラウンドなメタルコミュニティではよくある構図。あまり情報がないバンドですが、最初の出会いはたまたまBandcampで見つけてジャケットに惹かれた記憶があります。

活動国:ギリシャ
ジャンル:ヘヴィメタル、パワーメタル
活動年:2012-
リリース:2021年9月10日
メンバー:
 Costas Papaspyrou Guitars (lead)
 John Tsiakopoulos Guitars (2012-present), Bass (2020-present)
 Jim Kotsis Vocals (2012-present)

総合評価 ★★★★☆

掘り出し物。パワーメタル、王道ヘヴィメタル、トラディショナルメタル好きなら聞いて損なし。1曲目の頭から実家のような安心感と様式化された高揚感を感じられるはず。前半はプリースト、後半はメイデン感がある作りながら歌メロはジャーマン的、そこにギリシャのバンドならではのちょっと違ったメロディセンスが加わり、全体としてみるとなかなかユニークな音像。先達のバンドたちを「好きなんだろうなぁ」という感じは伝わってくるがコピーに終わるのではなくしっかり独自性がある。一つ一つの曲のパーツ、メロディのセンスが良く、編曲も凝っている。プロダクションにやや甘さがあるけれど、A級にちかいB級といったところで、こういうジャンルが好きなら年間ベストに入る出来だと思う。

1.Beneath The Mountains Of Madness 04:32 ★★★★☆

リフからのツインリード、NWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)感がある素晴らしいオープニング。プロダクションはそこそこ整理されていて悪くない。ギターもザクザクしているし、全体としてちょっとかわいげがあるサウンド。むやみと古臭かったりアングラなプロダクションではなくきちんと分離されていて良い音にしようと感じられる。まさに王道的で、ヴァースの後そこそこキャッチーなコーラス、そしてツインリードソロを経てややアップテンポに変化する。Avenged Sevenfoldの2nd(インディーズ)あたりにも近い感じがする。メタルが好きなんだろうなぁ、という。80年代欧州メタル、ヘアメタルではなくNWOBHMとかキングダイアモンドとか、欧州のアンダーグラウンドな、Metallicaの源流となったようなHM感。音(プロダクション)の迫力にはやや欠けるが、アイデアが盛り込まれた良曲。

2.Beware The Deep 04:26 ★★★★☆

アルペジオからスタート。ちょっと煮え切らないボーカル。ふと思うと歌いだしはUnto Others(旧Idle Handes)にも近い雰囲気があるな。ただ、その後ややジューダスプリースト(JP)的なリフと高音ボーカルに。金切り声というよりはやや中音域~高音域低め、にかけてのロブハルフォード的。ロブほど超人的なハイトーンではないが、声質が切り込むような声。おお、そこからのツインリードに。センスがいいな。編曲にはまだ多少冗長な感じもあるが、ひとつひとつのパートのセンスがいい。掘り出し物。この曲もきちんと歌メロにフックがあり、パワーコードのザクザクした リフがあり、ソロがあり、疾走パート(というかBPM同じで手数が増える)があり、シャウトもある。JPオマージュを感じるナンバー。

3.Blinding Void 06:04 ★★★★☆

馬駆け、トロットリズム。メイデン感がある。ボーカルが最初グロウルでメロデス感があるがすぐにクリーントーンと切り替わる。交互に出てくるんだな。この曲はちょっと北欧感がある。泣きのツインリード、ギリシャというのもまた独特な感じがあるよなぁ。Suicide Angelsもギリシャだったっけ。これ、曲はよく練られているなぁ。プロダクションがB級敵というか、聞きやすさはあるものの迫力に欠ける感じなのが惜しい。たぶん、もうちょっと熱量があるはずなんだけれど。あるいはこういう演奏スタイルなんだろうか。ちょっと醒めた感じがある。各メンバーはそれなりに技巧的だが、テクニックよりはメロディ、リフ、アイデアで勝負している感じもする。おお、この曲も途中でツーバスに。リフ、キャッチーなメロディ、ツインリード、加速の4点セットがどの曲にも入っているな。全力感が好ましい。

4.Lair Of The Wolf 05:42 ★★★★★

猛烈にJP感。いやぁ、これは勢いがある。若手、というか、デビューが2012年でもともと別のバンドのサイドプロジェクトだったようなのでそれなりにキャリアがありそうなミュージシャンの集団。というか、今も同じようなメンバーで他にもバンドをやっているようだ。この曲も熱いな。途中、ちょっとエスニックなフレーズが出てくる。ああ、熱量の問題はそれぞれの技巧の問題もあるな。ただ、それぞれのパートのアイデアが練られているのでそれはマイナスではない。下手なわけではない。技巧で「すげー!」となる瞬間がないだけで、その分編曲とか曲のパート、展開で「おおっ」となる。この曲もリフ、ギター、コーラス、加速の全部入りだがより緩急が付き、エスニックなフレーズが入ることで音楽の幅、1曲の中のドラマが増している。

5.Malediction Of The Dead 07:10 ★★★★☆

ベースソロから、IRON MAIDENっぽいな。ハリスのソロからスタートする。For The Greater Good Of Godとかこんな始まりじゃなかったかな。この曲は長尺曲なんだな。おお、3はJP感だったが4は少しメイデンっぽい、と思ったらこの曲はもろにメイデン。ちょっとニコを意識したであろうドラムパターンも微笑ましい。歌メロが入ってくるがボーカルは別にブルースに寄せてはいないな。…いや、ちょっと意識してるのか。うん、メイデン愛を感じられる。お、コーラスではハイトーンに。メロディセンスはやはり独特。メイデン感、UK感とは違う展開をなぞっていく。トルコとも違うんだよなぁ。ギリシャはそれほどメタルは知らないがポップス、いわゆる「ワールドミュージック」としてはいくつか聴いたことがあって、トルコのような中近東、アラブ系の影響が薄い印象がある。急に西欧化するというか。ただ、メロディの展開はけっこう激しくて、こぶしの聴いた節回しがないだけでかなり音程が上下する印象がある。まさにそうしたメロディアスな感じをこのバンドからも受ける。国や文化によって、コード(ハーモニー)重視、メロディ重視、リズム(ビート)重視って別れる気がする。そのうち複数を重視する国もあるが、たいていの国、文化圏はどこかに偏りがある。たとえば日本は古典音楽は完全にメロディ重視。ビートは独特で、一定のリズムというよりは舞台劇的な間合いが重視される。ラテンアメリカとかはけっこうビート重視。ダンス音楽か、劇伴音楽か、独唱か、田植え唄か、みたいな、用途による差異だろう。話がそれたが、このバンドはメロディ主体な感じがするな。7分の対極ながら長さを感じさせず堂々と終曲。作曲センスが高い。

6.God Of War 04:13 ★★★★☆

ちょっとアップテンポに。これもメイデン的といえばメイデン的か。「悪夢の最終兵器」的な、パワーコードでノリが良いリズム。NWOBHM的というべきか。Saxonあたりにも近い軽やかさもある。おお、途中から疾走に。この曲は熱いな。同じパターンが多いのだけれど、必殺技感がある。いわゆるB級メタルだけれど、メタル愛を感じるし曲はかなり練られている。ベースの音はスティーブハリスを意識しているな。指弾きなのかな。

7.The Curse 05:07 ★★★★☆

ややアップテンポ。高速エイトビートからのツーバス。たまらんテンポ。メロディアスなコーラスへ展開していく。北欧ほど哀愁はないがどこか哀愁漂うメロディ。地中海的な明るさもどこかに秘めつつ抒情性がある。独特のセンスのツインリード。ギリシャのバンドと知って聞くとギリシャに思いを馳せることができるのも面白い。世界中でメタルは奏でられているのだなぁ。まぁ、世界中と言っても欧州圏が中心だとは思うけれど。途中でナレーションが入ってくる。ナレーションに導かれてギターソロへ。ギターソロのメロディはそこはかとなく異国情緒があるな。ギリシャ的な特徴、というと言語化できないのだけれど、、、同じコード進行の上で基音を中心に上下に移動する感じ? うーん。なんだろうなぁ。アップテンポで駆け抜ける曲。

8.The Betrayal Of The King 05:26 ★★★★☆

最終曲、バラードというかベースのメロディからスタート。お、そこから勢いよくリフが入ってきた。「YouはShock!」的なリフ。まぁ、あのビートですよ、というだけで特に珍しいものでもない(クリスタルキングの発明というわけではない)のだけれど。伝わりやすいかと思って。メロディアスなボーカルラインが入ってくる。前半JP、後半メイデン感が強まったけれど、歌メロそのものはちょっとジャーマン感もあるんだよなぁ。トルコのペンタグラムとかとの連続性も一部はある、、、のかな。地理的にはトルコに近いけれど、オリエンタルな雰囲気は皆無ではないがやや薄目。いわゆる「オリエンタルメタル」感まではない。途中から疾走へ。ツインリード。ああ、なんというか、一つのコードで粘るのが長いな。なかなかコードが展開していかない。これは一つの特徴かも。それがちょっと独特の雰囲気を出している。ロシアにもそういう感じがあるようなないような、、、。ジャーマンはけっこうコード展開するからね。こちらはコード据え置きでメロディが展開して、しばらくしてコードが展開する、みたいなことが多い。北欧メロデスなんかはボーカルメロディは展開せず、コードだけ展開する、みたいなのがあるよね。対極的な曲つくりの発想、メロディセンスを感じる。このバンドはそれほどコードが展開しない、というわけではなく、たとえば2小節で展開してもいいところを4小節ひっぱる、とか、そういうレベルなのだけれど。最後アルペジオで終曲。

9.Bonus Track: Dragonfire ★★★★☆

ボートラ、おや、これはBandcampには入っていないな。TIDALで聞いているのだがTIDALには入っているようだ。ストリーミングの方にボートラがあるというのも面白い。まぁ、「いい曲だけれど流れに合わない」という判断だから、「ボートラがない」方が正式版なのだろう。アップテンポでコード展開がはやい曲。北欧的、オカルトロック的な雰囲気もある。初期Ghostというか。昨日のLuciferにも近い(ただ、バンドの特性であるボーカルが全然違うから聞いた感じはだいぶ異なるけれど)。このバンドにしては単曲ではキャッチーな曲。ライブだと盛り上がりそう。

10.Bonus Track:The Horde ★★★★☆

おや、ボートラが2曲も入っている。こちらもアップテンポ、ちょっとポルカ的なビート。反復するギターメロディに激しいビートが絡み合う。ボーカルが切り込むように入ってきてメロディアスなギターも入ってくる。ちょっとキャッチーな感じが増しているが、性急な感じもする。アルバム本編の曲は落ち着いて練られている感じがあったがこの曲は勢いを感じる。これもまたこのバンドの別の側面が出ているという点でまさにボーナストラック。悪い曲ではないがアルバムの流れから浮いたのだろうな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?