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First Fragment / Gloire Éternelle(2021)

総合評価 ★★★★★

面白い、聞いたことのない音像。自分たちのことを「エクストリーム・ネオクラシカル・メタル」と呼んでいるがまさにそうした音。再生速度を間違えたのかと思う速度で演奏が続く。カナダのバンドだがやはりUSとは違う、USで発生した音楽トレンドをより極限まで突き進めたり、どこかメタ的な視点を持って辺境から鳴らす、進化させるのがカナダの特徴かも。フラメンコ、ポルカ、そしてシュラプネル直系のネオクラシカルなギター、それらを通常の人間の限界速度の1.2倍で演奏する。一応グロウル(デス声)ボイスだが、音像全体としてみるとそれほど暴虐性は強くない。むしろメロディアスな印象がある。コード進行はしっかりしているし、メロディは抒情的。1曲目からインパクトが強いが、そのままのテンションで最後まで突き進むし、多少食傷気味になる場面もあるがどの曲もパターンは異なり、それぞれのキャラクターがある。こういう激烈音楽にしては引き出しが多く曲のバリエーションも多く感じる。衝撃盤。

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1.Gloire Éternelle 08:41 ★★★★★

波の音、重なるようにアコギのアルペジオが入ってくる。抒情的、ベースソロが入ってくる。滑らかな音程移動。ちょっとフラメンコっぽいスタート。スーパーギタートリオ、というかパコデルシア、あるいはアルディメオラ的な。チョッパーベースが入ってくるのが大きな違い。ああ、一番近いのはロドリーゴエガブリエーラだ。そこから高速のエレキフレーズに。こう来たか。面白い。様式美的な速弾きだが速度がやや異常。1.2倍再生してるような、33回転のLPを45回転してしまったような感覚。高速リフがメロディアス、ポルカ的でもある。ボーカルは一応デス声ではあるが、、、テクデスというよりは何か別物だな。とにかくメロディアスで、何か再生速度を間違えているんじゃないかという気分が続く。倍速感。ひたすらギターはメロディアスだしベースは飛び跳ねるし、ところどころポルカやフラメンコなので全体としてアグレッションはあまり感じない。不思議なダンスミュージック。

2.Solus 04:35 ★★★★☆

変わらず、再生速度間違えた感じ。ベースのチョッパーがめくるめく疾走。こちらもポルカ、フラメンコ的。掛け声も入る。これだけ高速なのに一曲一曲がけっこう長めなのは面白い。超高速、疾走感は高いがアグレッションは意外と薄いというか、音が軽やか。重低音を強調しているというよりは疾走感が強い。ギターソロは音がうねっている。このドラムとかどうやって叩いてるんだろう。どうも人間の最高速を越えている気がする。人力Igorrrというか。

3.La Veuve et Le Martyr 05:37 ★★★★☆

抒情的なギターフレーズから。ギターフレーズが泣きというかマイナー調、フラメンコやポルカ的なのが面白い。そしてベースはファンキーでドラムは超絶連打、ボーカルはデス声、全体は早送りするような音像、と。この曲はちょっと突っかかったようなシャッフルのリズム。リズムも変拍子だな、ビートが変わる。プログスラッシュ、インテレクチュアルスラッシュ的。ところどころに出てくるブレイクと掛け声が面白い。バイキングメタルともちょっと近いところがあるかもな。

4.Pantheum 04:36 ★★★★☆

切り込むギターソロから、なめらかな速弾き。やはり倍速感というか、単に「速い」のではなく「再生速度を間違えてるんじゃないか」という気持ちがまだ消えない。ストリーミングだから再生速度間違えるはずはないんだが。これ本当に演奏してるのだろうか。目の前で演奏されても信じられない気もする。今曲はフラメンコ味がやや薄目でネオクラシカルな感じ。イングウェイ的というか(あの独特の強いアタック音を伴うピッキングはないけれど)。バラエティが出てきた。

5.De Chair et de Haine 09:03 ★★★★☆

高速曲が続いてきたがアコギのコードストロークでやや静かなオープニング。そこからネオクラシカルなフレーズが入ってくる。大曲だがそこまで長く感じないな。ドラマティックに進んでいく。基本的に同じパターンで、高速ポルカにデス声が乗るタイプのテクデス。途中からアコギの抒情的なパートに変わる。波の音が近づいてくる。いや、雨の音か。

6.Sonata en Mi mineur 05:45 ★★★★☆

雨音の中からシンセが立ち上がってくる。かなり長いイントロ、いや、インスト曲なのか。フラメンコ、ポルカ的ではあるがクラシカルな感じもする。伝統音楽のモチーフを取り入れたクラシックのメロディをメタルバンドが引いている、とでもいうべきか。インストのようなので楽器隊の技巧を味わえる曲。しかし非常に面白い、ユニークな音像。どうしてここにたどり着いたのだろう。

7.Ataraxie 05:16 ★★★★★

ネオクラシカルなフレーズの疾走。ちょっと6曲目で一息ついたので緩急がついた。やはりこういうフレーズと速弾きがいきなり切り込んでくると驚く。とにかくバタつくドラム、高速すぎて良く分からなくなる。ベースも飛び跳ねる。この曲は今までと基本的に同じパターンだけれどリズムの跳ね方とか各楽器の重なりの迫力が強い。唐突な終曲。

8.Soif Brûlante 06:53 ★★★★☆

曲の途中からいきなり始まるような、前の曲が唐突に終わるのと対になっているのだろうか。探るような、掘り下げていくようなつかみどころのないパートからスタート。これもインストだろうか。ちょっと祭囃子、盆踊り的なリズムが出てくる。全体的に盆踊り的な、アジアのダンス音楽的なビート。お、途中からメロデス的疾走へ、ボーカルも入ってくる。そういえば歌詞はフランス語らしいが、響きの差は良く分からないな、英語に聞こえていた。

9.In'el 18:54 ★★★★★

えらく長い曲、ここまでもそうだが、こうした長尺曲を聞かせきる構成力はすさまじい。振り下ろされるピアノのコード、そこに切り込んでくるギターソロ。少しゆがんだハーモニーが触れる。どんどんシーンが変わっていく、基本的にインストパートの比重が多いというかあまりボーカルは出てこない。メロディとテクニックの大奔流。中盤はけっこうボーカルが出てくる。ボーカルパートを挟んでまたクラシカルなパートへ。とつぜんベースのチョッパーへ。波の音で終曲。

10.Mort éphémère 02:08 ★★★★☆

波の音が続き、アコギの高速アルペジオが入ってくる。こういう「メタルバンドが演奏するギターの音」はどこか通じるものがある。聴いていて心地よい音作り。ずっと波の音が響いている。アウトロ。


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