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Canzoniere Grecanico Salentino / Meridiana

Canzoniere Grecanico Salentino(カンゾニエール・グレカニコ・サレンティーノ)はイタリアの伝統音楽団で、7人組。2021年リリースの19作目のアルバムです。タイトルのMeridiana(メリディアーナ)は「日時計」という意味のよう。Pizzica(ピッツィカ)という南イタリアのフォークダンスがベースにあるバンド(楽団と言うべきか)で、ピッツィカはちょっとマイナー気味でアラブ音楽の影響も感じさせるダンスミュージックのようです。面白い音楽。もともと体についた蜘蛛を払うために激しく踊ったことから始まった、という伝承があるそうで、確かに伝統音楽にしては軽快で運動量多めのステップ(今のストリートダンスなどに比べると大人しいですが)、何かを払いのけるような舞にも見えます。イタリアンロックのルーツが分かるサウンド。

ちょうどMåneskin(モーネスキン)でイタリアンロック熱が高まっていたのと、Transglobal World Music Chart6月の1位だったので聞いてみました。

出身国:イタリア
ジャンル:Pizzica(イタリアのフォークダンス), world music, folk
活動年:1975-現在
メンバー:
 Mauro Duranteー frame drums, violin, vocals
 Emanuele Licciー bouzuki, classical guitar, vocals
 Alessia Tondoー vocals
 Silvia Perroneー dance
 Giulio Biancoー harmonica, zampogna (Italian bagpipes), recorder
 Massimiliano Morabitoー diatonic accordion
 Giancarlo Paglialungaー tamburello, vocals

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アルバム全体がYouTubeで公開されています。

1. Balla Nina 3:43 ★★★★

トライバルなリズムにやや不穏な低音ベース、現代ロックとも言える音像。言葉数の多いボーカルが入ってくる。バイオリンがボーカルに絡み合う。緊迫感の強い音像。コーラスパートへ。コーラスでやや柔らかい、包むような音像に変わる。ブラジルのMPB的な、隙間の多い音作りだがメロディセンスはよりメロディアスで親しみやすい。イタリアながら能天気さはあまりない。フラメンコ的なメロディ(イタリアとスペインはフラメンコも盛ん)、あるいは北アフリカのポップス(Soolkingとか)に近い物も感じる。

2. Orfeo 4:55 ★★★★☆

こちらもリズムだけをバックに女性ボーカルが節回しの効いた歌を聴かせる。バイオリンが入ってくる。リズムは鳴り物が多めでストリートの祝祭感。ややアラビックな音階。音像のイメージ。音は薄目だが低音でけっこう歪んだベースが入ってくる。ビル・ラズウェル的。メロディは哀切ながらリズムは一定、ダンスミュージックとして機能する。Pizzica(ピッツィカ)というジャンルを初めて聴いたのだがこういうマイナー調気味な音像なのかな。それともかなりミクスチャー的なのだろうか。

3. Pizzica Bhangra (feat. Red Baraat) 2:47 ★★★★

これもアラビックな音像、ボリウッドサウンド(インド古典音楽+ダンス音楽)にも近いものを感じる。複数のボーカルが多重に絡み合い複雑なハーモニーを作る。リズムはパーカッションの組み合わせ。途中で欧州的な明るいダンスミュージックが一部入り、またアラビックな音像に。たぶん、途中の明るい音像が本来にピッツィカなのかな。

4. Lu sittaturu 3:14 ★★★☆

男女のアカペラによる掛け合いからリフが入ってくる。この楽器は何だろう、弦楽器。bouzuki(ブズーキ)かな。これ、ベースのように聞こえるものはベースじゃないのかな、もしかしてアコーディオン? ドローン音な使われ方でもあるが、やけに低いな。

5. Ninnarella 4:34 ★★★★

このベースのように聞こえるのはバグパイプか。イタリアンバグパイプ。zampogna(サンポーニャ)。で、小刻みに聞こえる和音がアコーディオンか。楽器構成が違う音楽を聞くと面白い。ロックバンドのフォーマットとは楽器隊も違うし音域も違う、音楽的制約が違うから発想も変わる。ただ、低音楽器、中音の和音楽器とリズム隊があるので音像としてはロック的なダイナミズムを感じる、ダンスミュージックというこよもあるからか聞いていてロック的に楽しめる。途中からボーカルが弾むようなリズムに。

6. Stornello alla memoria 3:18 ★★★

これはイタリアのダンスミュージックと言われるとしっくりくる、広場で踊り舞うイメージ。なお、ピッツィカは二人一組で踊る踊りで、男性と女性または女性と女性が躍る。肉体的接触はなく、少し離れて対になって踊るダンスらしい。男女ボーカルが交互に出てくる。祭り・ダンスの場で演奏している風景が目に浮かぶ。

7. Vulía 4:02 ★★★★

アコーディオンの独奏からスタート、音が激しく動く。ギターが入ってくる。ボーカルが入ってくる。言葉数が多く歌い上げる。フラメンコ的。ただ、小刻みなリズム感、ダンス感が強い。アコーディオンは細かく音を区切っている。音の上下移動が激しくなり、反復が激しくなる。ただ、リズムは落ち着いている。ポルカのリズムやメロディにも近いものを感じる。後半になるにつれてアコーディオンが乱舞する。

8. Quannu camini tie 4:23 ★★★

穏やかで緩やかな調べ、急に宮廷の庭園で流れる四重奏的な優美な音像。ボーカルが入ってきたら印象が変わり、イタリア的な歌心あふれる風景に変わる。船に揺られながら聞きたい。

9. Tic e tac (feat, Enzo Avitabile) 3:12 ★★★★☆

トライバルなリズム、ややライオンキングのような、アフリカンを模したミュージカルな感じ。本格的にアフリカンリズムではなく、ちょっとディフォルメされている。考えてみるとイタリアは北アフリカにかなり近い。音楽的にも共通項も多いのかもしれない。アラブ・アンダルース音楽はイベリア半島(今のスペイン)で成立したし、シシリア島はかつてイスラム王国が収めていた時期もある。

10. Ntunucciu 4:06 ★★★☆

子守歌(ララバイ)のようなゆったりとしたリズム、ボーカルは節回しが強く力強い民謡的な歌い方。メロディがルーツに根差していて心地よい。

11. Ronda 2:52 ★★★☆

やや早打ちのリズム、バグパイプのメロディが続いていく、インストのようだ。独特な音像、ケルトとは違うバグパイプのメロディ。けっこう勇壮なメロディだが軍楽的なものもルーツにあるのだろうか。うーん、でもこの低音はどの楽器なのだろう、今一つ分からず。

12. Meridiana 2:56

ギターと女声による弾き語り。熱を冷ますような優しい歌。

総合評価 ★★★★

楽しめた。伝統音楽は音楽的完成度は高いものが多いが、現代的な娯楽性や音響的な面白味に欠けるものも多い。これは伝統音楽をベースにしながらさまざまな現代音楽や他の伝統音楽をミックスしているのだろう、聞いていて面白いしメロディや出てくる音色が魅力的。こういう音像がイタリアンロックのルーツの一つなのかもしれない。アルバム全編を聞くとトラディショナルな色が強いが、単曲で見ると、イタリアンロックのアルバムに収録されていてもおかしくない曲が多い。

Pizzicaというのはどうも、もともとこうしたややマイナー調、アラブ音楽の影響を感じさせるもののようだ(これは別アーティスト、実際のダンスの様子)。

また、低音楽器が分からなかったのでこのバンドのライブを観てみたが、どうもそれらしき低音がない。このアルバムではベースを足しているのかな。ライブを観るとより理解が深まりますね。


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