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詩「女の願い事」(2022)

いま鳥羽一番街の小さな神社の前を通行する。
其処に若い女が一人願い事をしていた。
私は立ち止まり、その女を見て居た。
そのひとの瞳孔にうつる影なき深い想いを。

それから私の気分は変わって来た。
爽やかな気分が胸を往来し始めた、
それは純粋でそして透明ないいフィーリング。
この感情をはっきりと言葉にする事は出来なかった。

女性のやさしい匂いを感ずる。

兎に角、その女の願い事を訊きたいと云う欲望ははっきりとしていた。
若し訊くことができると考えると、それからは空想になって了う。
その娘の願いをかぐ。この不思議なる情緒。

若女に願い事を訊くという事は迚も出来ない事に思われた。
どれ程恋愛成就したいかは明らかに想像された。
私はなやましき女に違いないと考えた。

窓の外の海を眺める。

私はそれから海産物専門店へ行く。
生け簀の中の伊勢海老は赤くぼんやりしている。
振り向くともう女の姿はなかった。

写真 Yasuharu Nagura『Photography at Toba City, Mie, Japan』 (2022) より


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