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将棋の駒の辛辣な海外名称

◆だいたいは分かるけれど

突然だが、皆さんは将棋の駒が他の言語でどう呼ばれているかご存知だろうか? まあ、言ってしまえばそもそも将棋の海外名称が Japanese chess であり、チェスと同じく将棋も古代インドのチャトランガという遊びが起源とされていることからも、チェスでの名称がほぼそのまま流用されている。

筆者は駒の動きが大胆なチェスも好き

したがって、王将は King(キング)であり、飛車は Rook(ルーク)、角行は Bishop(ビショップ)、桂馬は Knight(ナイト)、歩兵が Pawn(ポーン)……と、似たような動きをするチェス駒の名前が充てられており、チェスには当てはまらない駒が金将(Gold general)、銀将(Silver general)、香車(Lance=槍兵)と付けられている。成駒も、これまたチェスト同じく「昇級した(promoted)」という修飾語が付いて「promoted pawn=と金」というように使われる。

しかし、これらは英語に限った話である。以下、ドイツ語およびフランス語で将棋がどう呼ばれているか見てみよう。

◆フランス語のばあい

まずはフランス語。王将は Roi(王)、飛車は Tour (ルーク)、角行は Fou(ビショップ)、桂馬が Cavalier (ナイト)……なのだが、この時点でやや面白いことに、飛車を意味する Tour は言わば「タワー=塔」を意味し、これはドイツ語でも同じく塔を意味する Turm で呼ばれている。これはまあルークの駒の形が塔あるいは城の形をしているためだが、Fou はビショップの他にも狂人、Cavalier は騎手を意味していたりする。

ゴダールの『気狂いピエロ』も Fou が使われている

また、フランス語で金将および銀将はそれぞれ Général d’or、Général d’argent と(あるいは日本と同じく単に or 、argentと)呼び、残った香車は Lancier(槍騎兵)、そして歩兵は Pion(ポーン)とあるが、フランス語の Pion には他にも「学者ぶる人・大御所ぶる人」という軽蔑的な意味があったりする。こちらは英語の pawn にも「手先」、「他人に利用される者」といった意味があったりするので、歩兵に通じる哀れっぽさがどこか通底している。

◆ドイツ語のばあい

面白いのはドイツ語だ。王将はもちろん König(王)、先程も言ったように飛車は「ルーク=塔」を意味する Turm 。そして角行はビショップを意味する Läufer(ちなみに発音はロイファー)なのだが、これは英語で言えば runner 、つまりランナーである。物凄い省略すると「走る人」である。ちなみに伝令兵という意味もある。

Läufer でggるとこんな本が見つかった。『ランナーのためのメンタルトレーニング法―だって走ることも頭の問題なのだから』

桂馬はナイトを意味する Springer ……だが、英語の springer と同じく「跳躍する人」という意味であり、どこか間の抜けたニュアンスがある。金将・銀将はやはりそのままで Goldener General、Silberner General と呼ばれ、香車は Lanze で、英語で言う Rance、つまり槍のことなのだが、「槍騎兵」という感じではない(槍騎兵は Lanzenreiter=ランツェンライターなので、どこか物的な感じがする?)。

最後に歩兵は、ポーンを意味する Bauer である。Bauer とはポーンの他にも、農民、さらには田舎者という意味もある……。棋士の方々に限らず、「歩」に愛着がある方は多いだろうと思われる(「歩なし将棋は負け将棋」という格言もあるぐらいだ)が、何て言うかあんまりな名称である。まあ元々がチェス用語からの転用がほとんどなので、別に日本の将棋の駒に対するニュアンスからは離れているのは重々承知なのだが、チェスに対してこういうドイツ語が当てられていたのかと思うと、何だか妙ちくりんな感じがする。

◆余談

ちなみに英語もドイツ語もフランス語も、龍王および龍馬はそれぞれ「龍」と「馬」を意味する単語を当てていた。つまり「ドラゴン」と「ホース」。改めて外国語に変換してみると違和感が凄い。


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