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ロルフ・ヤコブセン「首を吊れ」翻訳+解説

首を吊れ

小さい冬が来て
大きい冬も来た
灰色の雨を降らす春も来た
夏ではない夏、ある種間引かれた春が
鳥がおらず、ただわずかに花があるだけの
夏も来た
そして秋が来た
終わりの見えない、氷のように冷たい雪が降る涼しい秋が
そして大きな冬が来た
もはや小さい冬も
春も来なかった。

◆解説
『ドアにご注意ください―ドアが閉まります』(1972)より。かなり奇抜なタイトルの詩集だが、それはヤコブセン本人が鉄道愛好家だったためと考えるのが一番自然だ。解説と言っても、この詩はあまり取り上げられること自体少なく、かなり読んだ通りのまま、ノルウェーの一年が圧倒的に冬に彩られていることを詩にしたものだ。「首を吊れ(Gå og heng deg)」という強烈なタイトルは、こんな陰鬱な雪国では生きていけないという、詩人なりの意趣返しなのだろうか。

こんなことをわざわざ言う必要もないが、北欧の冬は寒い。当会の編集長の堀江は現在北海道に住んでおり、「最高気温が0度は暖かい」という、いわゆる「北から目線」をかましてくることがしばしばあるのだが、ノルウェーなどの高緯度地域は、極夜と呼ばれる太陽が一日も昇らない時期があったりする。これは私見も混じるが、私は日照時間が文学と密接な関係があると考えており、例えばロシア文学と言うとドストエフスキーやトルストイに代表されるように、暗くて重い、陰鬱なものが多いとか、逆に赤道付近の地域(私が念頭に置いているのはラテンアメリカ文学だ)では、カラっとした、比較的明るい文学作品が多いような気がする。そうした意味で、ヤコブセンのこの詩はまさに典型的な「北」の作品であると言える。

ヤコブセンはこの詩の他にも冬について書いたものがいくつかあるが、明暗がしっかり分かれるものが多い印象だ。初期の詩「氷河」では氷河を擬人化することで冬の猛威を詩的に謳い上げたり、前作の『表題』(1969)に収録されている「冬の合図」では、またしてもノルウェーの冬の雄大さを表すのに氷河が出てきていたりするが、端的に暗いわけではない。

ちなみに余談だが、ノルウェー人に「ノルウェーの好きではないところ」を聞くと、ノルウェー人の冷たさの次に冬の厳しさを挙げる人が多かった。


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