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ロルフ・ヤコブセン「太陽が中国人を照らすとき(地理学の授業1)」翻訳+解説

太陽が中国人を照らすとき
(地理学の授業1)

太陽が中国人を照らすとき
星の夜が私たちと共にある。
正反対だ。アジアは大きい。
世界の陸地の半分。
一頭の象のよう。
ヨーロッパとは牙で、
シベリアは曲がった背中、
インドはいつもゴロゴロ鳴るお腹。
そして中央にあたる中国は、
その力強い腰と太腿。
そこが立ち上がるところ。
象は普段は温厚な
動物だ。
だが揶揄ってはならない。

◆解説
詩集『夜警』(1985)より。副題に「地理学の授業1」と書いてある通り、その2もある。どちらも世界地図を広げながら―実際、「切り離す(地理学の授業2)」という詩ではそのように指示される―読み解くことで、その比喩の力を体感できるだろう。この詩集は一般には「愛の詩集」と知られていることもあり、あまり取り沙汰されることのないこの詩だが、世界情勢を鑑みれば、中国やインド(そしてロシア)という国々が、ユーラシア大陸で物理的に占める割合は当然ながら非常に大きいことを再認識させられる。あらためて世界地図を一瞥すれば、日本という国がいかに小さく(とは言っても実は国土自体はそれなりに大きいのだが)、象の比喩を用いるなら、その尻尾にあたるだろう。そのため、「象の尻尾としての日本」という発想をすれば、また別の発見があるかもしれない。また、ヤコブセン自身が日本に興味を示していたかどうかは今のところ定かではないが、時刻表通りに動く日本の鉄道事情を見れば彼はきっと驚いたに違いない。

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また、詩として見ると、省略がやや見られる程度で、文自体は極めて平易だ。「正反対」と訳した Og omvendt は、文字通り訳すと「そして逆に」ととれるのだが、ここでは前後の文脈から、どちらでも繋げられるようにした。

ここからは解説というよりは私信に近いのだが、ヨーロッパ(特に北欧)の昔の鉄道事情を探そうとしてもあまり上手く捗らない。日本語か英語かドイツ語かノルウェー語で手に入る資料があるのならば是非ご教授頂きたい。いくつかの本屋をめぐってみたが、当然ながら日本の鉄道事情についての本が多く、わざわざ海外の鉄道事情まで記した本は紀行文などを除くと非常に少ない。最近文学フリマでも、台湾やロシアの鉄道事情を記した同人誌が出ていたり、YouTubeでも各国の鉄道事情をゆっくりで解説してくれる動画はあったりするものの、それでも北欧の鉄道はまあマイナーもいいところだ。

ご支援頂けましたら、記事執筆や編集の糧にしたいと思います。蔵書を増やすと、編集できる幅が広がります。