見出し画像

ナルコレプシーという居眠り病を患っていた話。


居眠りばかりの日々

「安ヶ平さん、具合悪い?大丈夫?」

ハッとして目が覚めた。

まただ。また私はインターンの業務中に居眠りをしてしまっていた。

それも、気づかないうちに。何度も。

この時ばかりではない。
思えば、中学生の時から授業中や講義中の居眠りが多かった私。
当時から生活リズムが良いとは言えないような生活を送っていて、激しい居眠りも寝不足や生活リズムの乱れから来ているものだとばかり思い込んでいた。

高校にあがっても、変わらず授業中の居眠りは多く起きていた。
他に寝てる子も多かったし、先生も呆れていたのか、これといって強く注意されることはなかった。

高校3年生で生徒会長を務めていた私は、講演会などがあると、お礼の挨拶を述べることになっていた。
「しっかり聞かないと」そう気合いを入れてメモ帳とペンを用意して聞くも、また気づかないうちに眠ってしまっていた。
覚えている前半部分と先生からの助けもあり、その場は一時免れた。

修学旅行中もそうだ。
長崎の原爆資料館を訪れ、当時の話を聞くことになっていた。前回同様、メモ帳とペンを片手に聞くも、また寝落ち。隣に座っていた担任の先生は、何も注意せず「こんなことをお話してたから、こういうことが言えれば良いかな」そう言って助けてくれた。

情けない。聞く直前はしっかりと気合いを入れているはずなのに。途中まではしっかりとした記憶があるのに。

突然、意識を失ったように寝てしまい、「気づいたら寝ていた」という状況が、何度も何度も起こった。

みんなは眠気に耐えられているのに、私はどうしてこんなに耐えられないんだろう。どうしてこんなに寝てしまうんだろう。

きっと自分は他の人に比べて、頑張ろうという気持ちが足りていないのかもしれない。

眠気を我慢できない、ダメな人間なのかもしれない。

どんどんどんどん、自己嫌悪に陥っていた。

眠気は誰にでも起こりうることだし、親や先生に相談しても「寝不足だ」と言われるだけだろうと思い、何も行動できずにいた。

もちろん、一般的に言われている眠気を飛ばす方法?は色々と試した。

だけど、
コーヒーやエナジードリンクも飲んでみても、
ガムやタブレットなどを食べてみても、
炭水化物の量を少し抑えてみても、
状況は何も変わらなかった。

モンスターを飲んで一瞬はスッキリするものの、結局寝落ち。

「もしかして、私がモンスターなのかも☆」

なんてヘラヘラしながら、友達にも話していた。

そしてこの症状は、大学に入学してからも続いた。

「一番前で講義を受けたら緊張感があって眠らないかも!」なんて安直な考えも、あっさりと散った。

一番前に座っていたことで、「一番前なのにたくさん居眠りする、肝が座っている子」なんてレッテルも貼られた。

モンスターを持ち歩き過ぎて「またモンスター飲んでるよ笑」なんて言われたりもした。

「ねえ、また寝てたでしょ?笑」

この状況にすっかり慣れてしまい、授業中に眠ることが日常茶飯事になっていた私は、こんなことを言われても、

「へへ、だっていっつも眠いんだもん」

と、ただひたすらにヘラヘラとしていた。

だけど、そんな自分が嫌いだった。

インターン先でも…

時は流れて、大学3年の秋。
知り合いの紹介で、とある企業さんでインターンをさせていただくことになった。

インターン初日。気合いを入れて、スーツで出勤。
まずは本を読んで知識を身につけようという時間だったのだが、知らないうちに眠ってしまっていた。

「インターン初日からこんなんだなんて、印象最悪だろうな…」

そう思いながら、眠気と戦っては負けて。負けて。また負けて。
「自分はデスクワークが向いていないんだな…」「本当に眠気に勝てないダメな人間なんだな…」と、病み気味になっていた。

次の日も、そのまた次の仕事の日も居眠り。
1日のうちに、居眠りをしない日はないほどだった。

ちょっと浅く腰掛けてみたり、
朝に1本、昼に1本リポビタンDを飲んだり、
仕事中にもコーヒーを飲んだり、
休憩中にはガムやタブレットを食べたり、、

色々試してみたが、やはり何をしても効果はなかった。

インターンをしてお金を頂いている身なのに、仕事中に居眠りだなんて、到底考えられない。怒られて当然だ。

でもそのたびに「体調悪い?」とか「コーヒー飲んでみて!」とか、社員の方は優しい言葉をかけてくださった。

だからこそ余計、苦しかった。

苦しくて苦しくて、帰り道はいつも泣きそうだった。

「また明日も寝ちゃうかもしれない…」
その不安から、あまり仕事に前向きになれない時も多くあった。

「このままじゃだめだ」

そう思って、Googleのアプリを開く。

「日中 強い眠気」

そう調べてみると、一般的な眠気対策がズラリと並ぶ中、気になるワードが目に飛び込んできた。

それが、「ナルコレプシー」というもの。

ナルコレプシーは、日本語では「居眠り病」といわれる、睡眠障害の一つです。ナルコレプシーのいちばん基本的な症状は、昼間に強い眠気がくりかえしておこり、どうしても耐えられなくなってしまう「日中の眠気」です。
もちろん、日中の眠気は、前夜の睡眠不足のときや食後などの条件によっては誰にでも起こりますが、ナルコレプシーの場合、よく眠っていても空腹でも関係なく眠気がおそい、また毎日くりかえして眠くなり、しかも一日に何度もおこり、それが最低3ヶ月以上続くというものです。

NPO法人 日本ナルコレプシー協会より

サラッと読んでみて当てはまる条件が多かったため、ネットでよくある「簡単診断」を試してみた結果、その病気である可能性が高いという結果が出た。

「こ、こんな病気ってあるんだ…」

最初は少し疑っていたが「ここまで眠気が続くなら、生活リズムの他に何か原因があるのかもしれない」そう思って、私は病院を訪ねてみることにした。

まずは一歩前進

基本的に健康な私は、あまり病院慣れもしていなかった。
ましてや一人暮らしの今は、眼科に行って診察を受け、コンタクトの処方箋を出してもらうことくらいしか関わりがなかった。

ドキドキで足を運んでみると、優しい先生が私を迎えてくれた。

私はこれまでの眠ってしまった経験や普段の睡眠時間について話した。

生まれて初めて、このこと・この悩みを人に打ち明けることができた私は、肩の力がスッと抜けた気がした。

診察をしていく中で、先生からも「居眠り病の可能性がある」とのお話があった。

私が訪れた病院では詳しい検査はできないため、睡眠の専門がある大きな病院を紹介してくださった。

そして来院日。

ここでもまたいくつかの項目が書かれたチェックシートで、今の状況を確認された。

その結果、やはり「その(居眠り病の)可能性は高い」とのこと。

話を聞いてみると、私と同年代(10代〜20代)の子に多く発症しているらしい。

「検査、受けてみますか?」と先生に聞かれ、

私は「はい、ぜひお願いします」と即答した。

来院したのは12月下旬だったが、その検査が受けられるのはなんと1番早くて4月末。

「まだ時間がかかるのか…」そう思いながらも「いちはやく知りたい」という一心で、その日程で検査入院を組んでもらうことになった。

親にはこの段階で報告をした。

しかし、やはり日々の生活リズムやアルバイトが夜中まであることが原因なのではないかと言われ、最初はあまり受け入れていなかった様子だった。

1泊2日の検査入院

睡眠の検査は2種類行われた。

入院時には母が新潟に駆けつけてくれたので、とても心強かった。

まずは1日目。終夜眠ポリグラフ検査(PSG検査)という検査を受けた。

これは、脳波や眼球運動・心電図・筋電図・呼吸曲線・いびき・動脈血酸素飽和度などの生体活動を、一晩にわたって測定する検査で、体の至る所に装置を貼り付けながら眠るといったもの。

次に2日目。反復睡眠潜時検査(MSLT)という検査。

午前9時から2時間ごとに「20分間の昼寝テスト」を5回行い、昼間の眠気の重症度を評価するための精密検査。

いわゆる「レム睡眠(浅い眠り)」や「ノンレム睡眠(深い眠り)」の状態なんかも、この検査で知ることが出来るそう。

そして私は、無事に2日間に渡る検査入院を終えた。

ついに明らかになるとき

そして1ヶ月後。検査の結果が届いたとのことで、また病院を訪れた。

「診察前にこの紙を読んでおいてください、とのことです」
そう言って看護師の方から渡された封筒には“検査結果”の文字が。

いよいよ、結果が出たんだ。

長年悩んできたこの睡眠の悩みの原因が今、やっと分かるんだ。

原因が判明することに対する嬉しさもあったが、正直不安の方が大きかった。

鼓動が早くなる。

手を少し震わせながら開いたその紙には、

「このたびの検査結果より、『ナルコレプシー』と診断されます」

と、書かれてあった。


「ああ、やっぱりそうだったのか…」

また、肩の力が抜けた。

時間をかけて、頭の中を整理する。

これまでに居眠りしてしまった場面が、次々と鮮明に思い出されて行く。

「あのときも、このときも、全ての原因はこの病気にあったんだ」

原因が明らかになって安堵の息を漏らすも、「なんでもっと早く向き合わなかったんだろう…」という後悔の念にも駆られた。
なんだか色んな気持ちが入り混じって、少し泣きそうにもなった。
なんならちょっと、ほんのちょっとだけ、涙が頬を伝った。

番号が呼ばれ、いざ先生のところへ。

「結果を見ていただいてもわかるように、ナルコレプシーだと診断されました」

そう改めて言われ、現実を受け止める。

どうやら「オレキシン」と呼ばれる、起きていられる状態を保ち、覚醒を維持する物質が、人よりも少し少ないとのことだった。

私は、

運転をすることはできるのか
普通の職業に就くことはできるのか
この病気は治るのか
薬はどんなもので、どのくらい服用する必要があるのか

などといった疑問を先生にぶつけた。

先生はひとつひとつ、丁寧に回答してくださった。

詳しく話を聞いてみると、600人に1人の確率で発症する病気で、薬を服用しながら普通の人と同じように生活をしている人がほとんどだと言う。

視力の悪い人がめがねをかけて運転するのと同様、ナルコレプシーの患者は薬を飲めば運転することができる。そう、わかりやすい例えを出しながら説明してくださった。

結論からいうと完治はしないが、今もなお睡眠やナルコレプシーに関する研究は進んでおり、2〜3年後にもまた新たな薬が開発される見込みがあるんだとか。

とにかく先生は、私を安心させてくれるように優しく声をかけてくださった。

一通り話を聞いたのち「まずは試しに薬を飲みながら生活してみて」とのことで、2週間分のお薬をいただいた。

普通ということ

薬を飲み始めて、初めての講義。

4年生の今、私は週に1度しか講義を受けていないため、このときくらいしか効果がわかる時間がなかった。

そして、90分が経った。

この講義を受け始めて、講義中に寝なかったのはおそらく初めて。

改めて、
私の眠気は普通じゃなかったこと、
普通の人は90分間起きていられるということ、
「普通」がどれだけすごいのかということ
を感じる時間だった。

「ナルコレプシー」として

そして、現在。

薬を飲めば、ある程度起きていられるということは分かったが、いかんせんその薬はあまり優しいお値段とは言えない。

結果をもらったあとも、ネット上で情報を調べてみると、生活を改善すればある程度その症状を和らげることができるとも書いてあった。

側から見たらまるで怠け者にしか見えないこの「ナルコレプシー」は、認知や理解が進んでいないというのが現状。

だからこそ、私は一患者としてこの状況を改善していきたいと思う。


この経験を通じて私は、自分と向き合うことの大切さを改めて感じた。

まずは少しずつ、
この病気と付き合いながら、
自分の色んな面と向き合いながら、
1日1日を、大切にしていきたい。

そう思った。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?