見出し画像

ワクチン狂騒曲 ー続き(算数しよう)

前回はワクチン調達の話だったが、今回は接種体制編。

イギリスは日本と同様に国民皆保険制度であり、NHS(National Health Service)という国の組織が医療サービスの提供を行っている。
NHSを通じてGP(General Practitioner)と呼ばれるいわゆるかかりつけ医に登録をして、緊急時除きまずはGPで診てもらってから必要に応じて専門医という流れになっており、予約から診察まで時間がやたらかかるのと必ずしも医療水準が高くない(比較は難しいが、安かろう悪かろう的要素有)という難点はあるものの、基本無料である。
イギリスで接種が比較的スムーズだったのは、この制度に殆どの国民が登録していることで、私のような外国人はワクチン接種を受けるためにまずはNHSに登録しなさいとの呼びかけがあれこれあった(当然無料)。

日本でも報道されていたとおり、老人ホームの高齢者と従事者を最優先とし次いで医療従事者やハイリスクな人、以下年齢順に10区分の優先順位を設定して、NHS(GP)から順に個人に電話して予約を取るというプッシュ型を基本とした接種体制で、中年層にも接種をし始めるころからWebサイトでの予約も並行して可能とした。
これも4月wからx日までは42歳以上の人のみ、y-z日は41歳以上の人のみ、と1歳毎に細かく区切っており、NHSによる一元管理ということもあり、重複予約や漏れは基本は無い仕組みになっている。
このため、予約の電話やサイトに繋がらないというストレスはなく(なかなか順番が回ってこない、電話がこないというストレスはあるが)、大きな混乱はなかった。

また注射を打つ人も医療従事者のみならず、20時間程度の訓練を行った一般のボランティアも動員するという思い切った体制を取り、 凡そ1日あたり40万人に接種を行ってきた。

翻って日本では、全国組織がなく自治体ごとに接種が任されて、対応がバラバラ、また予約が基本プル型、すなわち希望者が電話なりネットなりでアクセスする、順番が4区分しかなく多くの人が殺到しやすい、という悪環境でまず予約の段階からトラブルが多発、次いで注射打つ人を限定しているので、ワクチンがあっても接種が遅いというボトルネックが生じるなど、残念過ぎる状況である。

前回ワクチンの調達はあれでも仕方ないだろうと書いたが、接種体制のお粗末さは宿題やってなかったことに加え、それ以上に深刻なのは、ちょっと考えれば避けられる事態なのにそれすらしてない様子が窺えることだ。
例えば、神戸市ではサイトとコールセンター135回線準備していたそうだが、人口は約150万人、65歳以上の高齢者は日本では大体3割とされてるのでざっくり45万人。そりゃパンクするでしょ。
一人予約を処理するのに約5分(ホントはもっとかかりそうだが)、休み入れて1時間10人、1日12時間頑張るとすると、1日あたりの予約可能人数は135x10x12 = 16,200人、45万人予約終えるのに28日かかる計算である。ネットに半分任せても2週間かかる。
だったら一日あたり予約資格のある人数を細かく10分割ぐらいして絞らないとパンク必定ってすぐに分かりそうな気がするのだが、、、

本当はイギリスのようにプッシュ型にして、例えば年齢順に10日以内には電話をかけるから待っててほしい、電話取り損なっても翌日必ずかける、みたいな形なら混乱は最小限だろうし、よしんばプル型でも上記のような対応ができたろうにと思う。

接種スピードはどうだろう。一人あたりの接種時間、問診やら何やらで6-7分ぐらいかかるだろう。休憩入れて1時間6人、さすがに10時間はきついから実働9時間として一人1日54人である。
神戸市の資料では医者と看護師が合わせて約2万人とのことなので、この5%を動員したとすると1日5万人(通常の医療を考えるとそんなに動員できないだろうが)。これならまぁまぁのスピードでできそうだが、現実にはそうなってなさそうなので、動員数が足りないか会場数が足りないかいずれかだろう。

要するに何が言いたいかというと、接種体制は算数できれば、ある程度シミュレーションできるということだ。実際の予約や接種にかかる時間や会場収容人数は専門家に確認必要だが、国から7月末までに高齢者に接種終えてくれと言われれば実質3か月90日で45万人捌く必要があり、1日5千人。
控えめに1日1人50回注射打てるとすれば、100人打ち手を確保すれば良いので比較的何とかなりそうである。となると会場確保が最優先になる、ぐらい机上の計算なら市役所の中堅所員でも数時間だろうし、予約はかなり大変そうだなということぐらいはすぐ分かるだろう。

でも少なくとも予約体制はそういうシミュレーションはなされてなかったか、玉砕覚悟で予約始めたかどちらかである(因みに回線数は300回線に増強されるとの由)。
怖いのは、神戸市クラスの自治体でもそうした算数ができる人材がいなさそうということである。さすがにそんなことは無いと思いたいが、どこの自治体でも似た有り様と聞くと、、、
有名ブロガーのちきりんではないが、「自分の頭で考えよう」である。

だが地方自治体にはまともに事前情報が渡されていなかったようなので(それでもあれこれ事前に考えられたと思うが)、本当は国レベルで統括するか、自治体に任せるにしても標準モデルを作って、採用可否や修正は自治体に任せるということはできただろうし、予約システムとか良く分からんということであれば、専門家(チケットぴあとか?)に聞けば多分システムごとすぐに導入できたと思う。そもそも4区分という粗すぎる区分ではダメだということも多分判明しただろう。
更に自治体ごとの医療従事者数も把握しているし、神戸市は勝手ながら余裕がありそうなので、他の自治体に応援派遣するみたいなことは国でしか調整できないことだし、いくらダメ官庁の厚生労働省でもこれ位できる人材は沢山いるだろう。医療従事者だけだと接種ペースこれぐらいという試算はすぐできて、もっとスピード上げたければ法改正して打ち手を増やさないと無理っすというアラートを昨年の内に官邸に出せなかったのか??

繰り返すが、ワクチン敗戦という声も聞こえてくる中で、私はワクチンの調達よりも接種体制の事前シミュレーションがろくに出来ずにワクチンあっても接種が遅いという惨状が非常に気になる。
というのはコロナだけでなく、恐らく平時からちょっとひねった状況になるだけであっという間に歯車が回らなくなる可能性が高そうだからだ。
こうなったら、対応できなくなったらすぐにプロに頼めということだけ周知徹底した方が良さそうだ(前回のプロに任せる話)。
ま、予約はコールセンター業者に外注したのだろうが、そのプロではなく、ロジづくりやシミュレーションができるコンサルにまず依頼するということだろう。こんなにダメな国じゃなかったと思いたいのだが、、、

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?