見出し画像

APAホテルと日本人

ちょっと諸事情でアパホテルに数日滞在したことがあった。イギリスに来る前は国内をあちこち出張していた時期があり、その時はアパホテルは意図的に避けていた。
というのは例の社長がドアップで出てくる例の全面広告がどうにも自分にはネガティブに働いてたのと、やたら狭いという噂を聞いてたので、大抵は中から中の上くらいのビジネスホテルに泊まることが多い(自分の中ではアパホテルは勝手に中の下とのランク付け)。ところがある時、アパホテル以外に選択肢がない時があり、自分としては”仕方なく”泊まったことがあった。


部屋に入った第一印象はやはり「狭っ!」であった。アパホテルはここ10年くらいで激増しており、比較的新しいホテルが多いが、地方中心に古いホテルをリノベーションしたホテルもまぁまぁあって、一律にアパホテルはこんな感じとは言い難いのだが、私が泊ったのは比較的最近オープンしたホテルである。
従って、アパホテルが目指す姿が比較的体現されているホテルと思うのだが、広さはシングル1部屋長方形11㎡、車の駐車場一区画よりやや狭い位。
そこに割と大きなベッドが長方形の短辺に端から端まできれいに収まっていて、残ったスペースにデスク、壁掛けテレビ、そしてユニットバス区画があり、デスクの下に空気清浄機と椅子、冷蔵庫、テーブル上に湯沸かしポットや電話機が所狭しと並んでいる。

小型のスーツケースなら床上で何とか開けられなくはない。スーツケースは狭い通路に立て置きするかと思ったが、ふとデスク上に目をやるとベッドの下に荷物を入れられますとの表示があり、確かにベッドの足が長く、マットレスは通常よりも高い位置にある、従ってベッド下の空間が大きく、ここにスーツケースを滑り込ませて収納できるようになっていた。

この辺から段々面白くなってきて、良く観察すると、風呂は一般的な直方体ではなく、ちょっとおわん型になっており、勿論足は伸ばせないがあぐらは組めるし、腕も割と楽に広げられる。水栓もマニュアルだが、一定の湯量を出すと自動的に止まる(タイマーみたいに水栓がゆっくり回って最後に止まる)。

枕元には照明・エアコン・コンセントが集中した操作盤が埋め込まれ、寝ながら全て操作できる。ベッドも大きいので寝返りもラクにうてるしマットレスの質も良い。タオルも吸水性高くかなり質の良いものを使っている(半分浴衣みたいな部屋着はちょっといまいちだが)。
テレビを点けると、VODはタダだし(メニューは限られてて、エロ番組は無い(笑))BBCニュースも流れてる(唯一の海外チャンネルで、インバウンド対応だろう)。まぁ温泉とか朝食はドーミーインの方が良いかと思うが。

こんなことはアパの利用者なら常識で今更だろうが、初めて泊まった身には新鮮な驚きだった。推察するにアパホテルは部屋面積をギリギリまで切り詰めて部屋数を増やす一方で、部屋の設備には割とお金をかけて狭さの割には悪くないと客に思わせて満足度を維持する作戦だ。
つまり11㎡よりは13㎡の部屋の方が広くて勿論満足度も高いはずだが、その程度の差なら設備に金をかければ同じ料金を取れると見ているのだろう。
となると部屋単価は変わらないが11㎡に納めれば、13㎡の部屋で構成されるホテルに比べて単純計算で13÷11=1.18つまり2割近く売上げを増やせる。
勿論清掃費などは増えるし、建築費も上がるだろうが、2割増収は大きい。部屋の広さは一度建ててしまうと容易には変えられないので、長年の工夫と綿密な収支計算の結果、辿りついたアパの黄金の方程式だと思われる。

ビジネスマン的には、素直に凄いと感じるビジネスモデルである。ここまで狭い部屋のホテルは少ないし、あっても設備も悪くまさに安かろう悪かろうなので、そもそも競合にならない。
ここまでチェーン規模が拡大すれば設備機器にいくら金をかけると言っても大量に購入すれば十分ディスカウントが効く。
競合チェーンが同じモデルを真似る可能性は勿論あるが、一度作った広めの部屋を狭くするのは建て替えない限りはほぼ不可能なので、アパに対抗できるまでには相当時間がかかるだろう。
そう考えるとアパホテルの収益性は当面は優れたものであり続ける可能性がかなり高い(コロナのダメージは別だが、これはどこも同じなので)。

で、書きたかったのはアパのビジネスモデル凄ぇという話ではなく、まぁ、ホテル内のあちこちで社長の顔写真を見ると萎えるし、旦那さんの政治思想を反映した妙な本がテーブルに置かれてると正直ちょっとねと思う。
いくら効率が良いと言っても、とても昼間長居する気にはなれないし、寝るだけだとしても確かに悪くはないが、個人的には積極的に泊る気はしない。

ただ、あの狭い部屋をうまく活用する仕組みや工夫が、如何にも日本人的と感じたのだ。元々日本人は狭い空間をうまく使うことに長けていると思う。
自動車が代表例だろう。軽自動車なんて日本独自の企画だが、あれは欧米の自動車メーカーには絶対マネできないし、普通車でも日本車がここまで伸びたのは、信頼性や燃費などに加え、スペース効率に優れ、小型車でもデカい外国人の実用に耐え得るようにして圧倒的なコスパを実現してきたからだ。

今は亡き?ウォークマンだって、あのコンパクトさは日本人ならではの工夫の賜物で、兎も角、小さく・狭くのベクトルに日本人は強いのだ。
きっと長らくウサギ小屋に住んできたからだね(私も貧乏性で、妙に広い部屋に放り込まれると何となく座りが悪い(笑))。
とは言え、イギリスというかロンドンやパリは東京並みのウサギ小屋だから、別の理由かとも思ったが、そういえばイギリスにはMiniという超絶妙な小型車を生み出した過去があった!

なんて理由はともかく、言葉は悪いが日本人はチマチマしたところに強く、ボトムアップカルチャーだ。アパホテルの方程式も部屋を小さく設備にお金かけるという大方針はトップダウンで、狭い部屋をそれなりに快適する細かい工夫は恐らくボトムアップと思われる。

この日本人の特性はご案内のとおり良し悪しあって、アパホテルのように、トップの大方針があるとなかなか良い組み合わせになるのだが、大方針無きところにポーンと放り出されるとグダグダになってしまう(ワクチン狂騒曲をご参照あれ)。
外枠があると中身の作りこみが凄いんだが、その外枠を作り出すのは、、、プラットフォームビジネスにも弱いしなとベッドに横たわりながら考えたが、外枠づくりに強い人とうまくタッグを組み(今の台湾の半導体みたいに)日本人の強みと弱みを自覚して動けば、強みを安売りせずまだまだ世界で戦えるなと、快適なマットレスのお陰ですぐにウトウトしながら思い直した次第である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?