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アコンカグア10日目:もう一度

2019年1月30日(木)

登頂者たちとの再会

ベースキャンプでの朝を迎えた。体調は良い。僕の中ではもう一度だけアコンアグアに挑戦することを決めていたが、まだ完全には決断してはいなかった。

ベースキャンプを歩いていると、

先日のサミットプッシュ日に、6,400mのインデペンデンシアで会ったスコットランド人の二人とすれ違った。

僕は気づかなかったのだが話しかけられて、この前インデペンデンシアで会った、と言われてやっと気がついた。

一緒に登ったDarioから、二人とも登頂したと聞いていた。

「Congratulations!」

そして僕は、
もう一回チャレンジするよ!と伝えた。

次なら絶対いける!そう言ってくれた。

二人と固い握手を交わした。

ここにいる人たちはみんなポジティブで、良いエネルギーに満ちているように思える。
登山口から2日間、10時間以上を登った選ばれし者しかたどり着けない場所プラザ・デ・ムーラス。

標高は4,300m、パワースポットのような、そんな感じだ。

テントでご飯を食べて、また適当に散歩をしていたら、今度はあの二人がいた。

アルゼンチン人のDarioとDiegoだ。感動の再会だ。二人には本当にお世話になった。

夕食でレストランのピザを食べていた。明日、下山するらしい。

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彼らにも、もう一度挑戦してみるよ!と、そう伝えた。

Diegoに、バックパックとミトングローブを貸してくれないか頼んだ。

僕のバックパックの、グレゴリーバルトロについているサミットプッシュ用アタックザックは小さすぎて、アイゼンや水筒などが入りきらず、背負いにくかった。

また前回のサミットプッシュで、僕のゴアテックスグローブでは指先に寒さを感じたので、ミトングローブもあったらいいなと思った。

メンドーサに戻ったら郵便で送るよ。Facebookを交換した。便利な時代になったものだ。

一緒にサミットプッシュをした戦友たちと再会し、ここで最後のお別れだ。またどこかで会えたらいいな。

世界一高い場所にあるアートギャラリー

ところで、アコンカグアのベースキャンプであるプラザ・デ・ムーラスには、標高4,300m、世界一高い場所にあるギネス認定のアートギャラリーがある。

今日はそこに行ってみようと思った。

画家ミゲルさんのギャラリーだ。

アルゼンチン人の彼も、他の登山者と同じようにアコンカグアに来て、登頂した。

そしてシーズン中はこの4,300mの標高に住んで、絵を描いている。以前は世界中を旅していたらしい。

地上から離れた世界での暮らしが心地良いんだろうか。

僕も日本にいると、ノイズが多くて集中できなかったりすることがあるので、最近は考えごとをするためにわざわざ海外に行く時間を作ったりもする。

ここにいると自分だけに意識を向けることができるので、良いインスピレーション、アイディアが湧いてきそうだ。

テントの中には彼が描いたたくさんの絵が飾ってある。値段は書いていない。

パンフレットには絵の一覧があり値段が書いてあるものもあったが、シーズン終盤のためか、ほとんどの絵はすでに売れてしまっていた。

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一番大きなもので8,000USDくらい(持って下山することはできないほど大きい)、小さなもので400USDくらいだった。(A4サイズ)

日本のメディアにも紹介されたことがあったり、アコンカグアの山頂で絵を描いたり、見た目は怖い感じだが、登山者を暖かく迎えてくれて、深みのある人のように感じた。

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(右下が日本のメディアで紹介されたもの)

絵のことはよくわからないが、ピカソのような抽象的な絵が多い。

サミットプッシュをしたけど登頂できなかったこと、もう一度チャレンジをすること。今は登頂することに集中しているけど、もし登頂して戻ってきたら、その時は記念に絵を買いたい。

4日後、登頂した後にまた来るよ。

ミゲルさんにそう伝えて、ギネス認定のアートギャラリーを後にした。

決断の時

天気予報を確認するためINKAのテントに行った。ちょうど昨日会ったサトキ君もいた。

直近だと2日後の土曜日が一番条件がいい。一度6,400mまで登っている僕だったら行けないことはない日程だが、そのためには明日C2へ行って、前回同様、C2からサミットプッシュをすることになる。

往復15時間以上の行程だ。

その翌日の日曜日もそこそこ条件が良さそうだ。その場合はこういう行程になるだろう。

BC(4,300m)

C2(5,500m)

C3(6,000m)

サミット(6,962m)


決めた。

3日後の日曜日、C3でテントを張って、そこからサミットプッシュをする。これが僕の最後の悪あがき。20日間までの入山許可はあるけど、これをラストチャンスにする。

サトキ君は明日、C1に移動するらしい。C1は水がないため、C2まで順応も兼ねて登って、下りる、という予定だ。

またどこかで会えそうだ。旅人同士では不思議と連絡を取り合っていなくても、道端で会ったり、同じ宿に泊まっていたりと、偶然遭遇することがよくある。

僕も何度もそういう経験がある。でも一応Facebookの交換をした。


正直、すぐ登って早く下山したい、シャワーを浴びたい、ステーキ食べたい、ワイン飲みたい、そんな気持ちだった。肌はいつの間にかひどく日焼けして、皮はめくれてボロボロだし、唇も切れてるし。

登山は、体力2割、精神力8割だと誰かが言っていた。アコンカグア登山はまさにそうだと思う。特別な技術がいる山ではないので、難易度は低いと言われている。

ただ風が強いため、好条件が揃わないと登頂することはできない。去年のDarioもそうだ。天候が悪くC2にずっと待機させられていた。

イッテQのイモトもだ。最強のガイド陣と登っていたけど、天候不良で登頂することはできなかった。

これは自分の精神力との戦いなんだ。

1度目のサミットプッシュで精神を折られた、だがこのままでは終われないと、もう一度立ち上がった。

次こそ登ってみせる。

Wi-Fiを繋いで、日本にいる従業員に連絡を送った。

「明日からもう一度、登頂に向けてチャレンジします。次に連絡するのは下山した4日後の火曜日(日本時間)です。」

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