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これだけでわかる! オールドレンズのはじめかた

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「70年前のレンズで撮ったんだよ」

Cさんの言葉に、息をのんだ。
モノクロームで描かれた女性のポートレート。長い黒髪を流し物憂げに視線を逸らせている。黒く落ち込んだ背景と白い肌のコントラストが艶やかだ。モデルの力もCさんの技術も見事なもの。さすがだ、と思う。

それ以上に、レンズの描写に惹きつけられた。なめらかなトーン、白と黒との描き分け、とろけるようでいながらボヤけてはいない描写力。衝撃だった。

「こんな描写をするレンズがあるのか」
「こういう写真が撮ってみたい!」

そう思ったことを、覚えている。

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オールドレンズ、好きですか? 

こんにちは、氏家(@yasu42 )です。
本日のテーマはオールドレンズ
数十年前、時には100年以上前に造られ、今もって光を通すレンズたちです。以前からファンの多いジャンルですが、最近はこれまで以上に人気。すっかり広まった印象ですね。

「あの人みたいな写真が撮りたい!」
「オールドレンズ使ってみたい!」

と思っている人も多いでしょう。
私も好きで色々と使っているので、「はじめてみたい」という相談を定期的に受けます。

同時に、こうも言われます。

「オールドレンズを使ってみたい!」
「でも、どうすればいいのかわからない……」

良く聞く悩みは

・どこで手に入れる?
・どうやって使えばいい?
・そもそも何を買えばいい?

こんなところでしょうか。

具体的な情報が意外と探しにくいのは事実。
ツイート、ムック、同人誌、「オールドレンズ」で出てくる記事、昔ながらの写真サイト。いずれも断片的な傾向があります。ゼロからスタートとなると困ることも多いでしょう。

しかし、このnoteがあれば大丈夫です。誰でもオールドレンズを使えるようになります。

さっそくはじめましょう。

1:なにを準備すればいいの?

基本的には三つです。

・カメラ本体
・オールドレンズ
・マウントアダプター

カメラ本体については言うまでもありませんが、注意点が一つ。
種類によっては、オールドレンズを付けにくい(時には付かない)ものがあります。例えばニコンの入門機(D3500など)は、ニコン製以外のレンズをつけることが困難です。

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いわゆるミラーレスカメラならほぼ問題はありません。
「ミラーレスカメラって?」という場合はこちらをご覧ください。

具体的には

・オリンパス、パナソニック、富士フィルム、ソニーのカメラ全般
・キャノンのEOS Mシリーズ、EOS Rシリーズ
・ニコンのZシリーズ

このあたりが確実です。
不安ならお店で確認してみるといいですね。

オールドレンズについても話は簡単。
お目当てのレンズがあるなら、検索やお店で探せばいいだけですし、「なんとなく使ってみたい」なら、予算内のものを手にとって試すのが一番です。
このあたりは後述します。

最後にマウントアダプターについて。
聞きなれない響きですが、マウントアダプターとは、カメラとレンズをいわば「つなぐ」ためのアイテムです。

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ふつう、ソニーのカメラにキャノンのレンズを付けることは出来ません。ニコンのカメラにフジフィルムのレンズも駄目です。

なぜか?
メーカーごとにレンズの「形」と「長さ」が決まっているからです。この「形」と「長さ」を調整してくれるのがマウントアダプターだと思ってください。

オールドレンズを使うならマウントアダプターは必須。
実際にどう使うかは後ほど説明します。

2:レンズはどこで買うの?

お目当てのものがあるにせよ(あこがれの人が使っているレンズかもしれませんね)、なんとなく使ってみたいにせよ、手元にオールドレンズがないことには始まりません。
では、どこで、どうやって手に入れるか?

信頼できるショップで買う

これに尽きます。
信頼できる、というのがポイントです。ろくに整備もせずに「オールドレンズらしい味!」などとうたう、ろくでなし業者がいるのも確か。
慣れないうちは、詳しい人にアドバイスをお願いするか、可能なら買い物に付いてきてもらうのがベストです。

都内のお店では秋葉原の2nd BASEが駅からのアクセス、品揃え、対応ともにおすすめでしょうか。新しいお店であり、敷居が低いのもいいですね。客層も若い印象があります。

各地に支店のあるレモン社も使いやすいです。
老舗ではありますが、比較的入りやすいのもポイント。

お店との相性や品揃えの好みなどあるので、いろいろ訪ねてみるのが良いです。

「お住まいの地域(横浜、東京、名古屋など) オールドレンズ」で検索すると色々出てくるでしょう。口コミを見ることもお忘れなく。

なお、メルカリやヤフオクはおすすめしません
状態の良し悪しも確認出来ませんし、「詳しくないのでわかりません」と逃げ道を作っている場合も多々あります。私見では、業者崩れとでもいうべきいい加減な出品者が大半です。よほど自信がない限り避けるべきです。

3:マウントアダプターはどこで買うの?

一番確実なのは、オールドレンズと一緒に買うことです。

だいたいのお店ではマウントアダプターも取りそろえているはず。在庫がなかったとしても「これを買えばいいよ」と教えてくれるでしょう。ヨドバシカメラが多く取り扱っています。

マウントアダプターにもいくつかメーカーがありますが、今ですとK&F conceptのものが安く、確実かと。

実売では2000円強というところ。高級感こそないものの、実用上不便を感じることはありません。とりあえず、にはベストですね。amazonでも買えます。

なお、精度を求めるならレイクォール製一択です。
レイクォールのアダプターは、熟練の職人たちによる純国産のもの。がたつきもぐらつきもなく造りは堅牢そのものです。価格こそ相応ですが、品質は折り紙付き。質を重視するならこちらで。

4:どのオールドレンズを買えばいいの?

「お目当て」のものがあるなら話は早いのですが、「なんとなく使ってみたい」ということもあるでしょう。

まず決めるべきは予算です。

オールドレンズの相場はピンキリ。数百円から7桁単位まで転がっています。「ここまで」という範囲を決めておかないと、すぐに予算オーバーしてしまうでしょう。
予算内で自分のカメラにつけて試し撮りしてみるのがベスト。その意味でも、実店舗を訪ねることをおすすめします。

ここでは「オールドレンズらしく」「手に入りやすく」「お手頃な」レンズ、具体的には数千円〜一万円台のレンズを紹介します。

Super Takumar 55mm F1.8

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(引用:huzu1959 from Saitama, Japan, SMC TAKUMAR 55mm f-1.8, BOWER M42-FD Adapter (6162290704), CC BY 2.0

実売6000円前後、M42マウント。ペンタックス製。
定番中の定番。手にいれやすく、お手頃で、よく写る。まさに理想のオールドレンズ。逆光に向けると「いかにも」な描写をすると同時に、順光では引き締まった絵を出します。
これを買っておけばだいたいどうにかなります。

Industar 61 L/Z 50mm F2.8

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(引用:PereslavlFoto, Industar-61-5281, CC BY-SA 3.0

6000〜10000円(個体差あり)。M42マウント。ロシア製。
ロシアのレンズはお手頃価格と描写性能を両立しているものが多いですが、その筆頭。最短撮影距離が短く、マクロレンズのように「寄れる」のが特徴です。花撮りやテーブルフォトにもいいですね。
特徴的な「星形のボケ」が出ることでも有名です。

Canon FD 135mm F3.5

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(引用:Charles Lanteigne, Canon FD 135mm f3.5 S.C. I, CC BY-SA 3.0

手頃な望遠レンズといえばこれ。実売8000円弱。キャノンFDマウント。
135mm、という焦点距離は少し長めですが、それだけに遊び甲斐があります。特にポートレートを撮る方になどはお勧めですね。
描写はキャノンらしく破綻のない印象。硬すぎず柔らかすぎず、バランスのとれた絵を出してくれます。望遠レンズ入門としてもありかと思います。

他にも色々ありますが、手頃なところをあげてみました。広角レンズについては、高騰しやすい傾向があるため除外したことをご了承ください。

5:どうやって使うの?

必要なものが揃いました。本番です。α7IIIを例に装着の仕方を解説します。
といってもやることは単純そのもの。

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カメラボディにマウントアダプターをセット。

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続けてマウントアダプターにレンズをセット。
これだけ(先にアダプターにレンズをつけても大丈夫です)。

準備は整いました。さあ、撮影に出かけましょう。
なお、レンズ操作はマニュアルフォーカスになります。ご注意ください。

6:作例

紹介したオールドレンズはいずれも定番中の定番。作例は検索すれば山ほど出て来ます。
ここでは別方向からの紹介も兼ねて、少しコアなレンズの作例を掲載します。

Leitz Xenon 50mm F1.5

ライツ初期の銘レンズ。
開放値1.5という明るさは世界に衝撃を与えました。開放付近での絹をまとったかのようなふわりとした描写と、絞り込んだ時の切れ味が特徴。
特に逆光に向けた時など「これぞオールドレンズ!」と言いたくなるような描写をします。ただフレアが出るだけではなく、とにかく「品が良い」のですね。個人的に愛してやまない一本です。
ガラスや鏡胴が弱く、個体差が大きい点に注意。多少高くても状態が良いものを狙いましょう。

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Goerz Kino-Hypar 3inch F2.7

ドイツの名門、ゲルツ社の映画用レンズ。
情報が少なく詳細は不明ですが、1920年代のものと思われます。
ピントがあった部分は鋭く、そこから破綻なくなめらかに崩れてゆく描写が特徴。逆光性能は時代なりですが、芯の太さと繊細さを兼ね備えたレンズです。映画に使われたというのも納得の出来。換算すると75mm前後であり、ポートレート撮影にもいいですね。

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Kern Switar 50mm F1.9

スイスの時計メーカー、ケルン社の代表作。「究極の標準レンズ」とも呼ばれる傑作。
現行レンズ顔負けの解像性能とボケの美しさを両立しており、バランスの良さでは天下一品。
画面の周辺はピントがあいにくく崩れやすいですが、それがかえって主役を引き立てます。
すべてが高次元でまとまった、いわば研ぎ澄まされた水のような一本。
(model: つくも

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7:終わりに

「これだけでわかる! オールドレンズのはじめかた」いかがだったでしょうか。
多少の準備は必要ですが、それを補う楽しみがあるのがオールドレンズの世界。あなたもその世界に入ってみませんか?

では、本日はこれで。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

8:おすすめのオールドレンズ本

著者お気に入りのオールドレンズを作例と共に紹介した一冊。
類書は多くありますが、レンズのチョイス、落ちついた文章、端正な写真と、個人的にはこれが一番お気に入りです。

「オールドレンズをどう使うか」「どう撮るか」に焦点をあてています。
とても実用的。柔らかい写真と文章も良い。おすすめ。

2001年刊行。フィルム全盛期に書かれたレンズ随筆集。
とにかく文章が良いです。わかりやすい煽りや目立つような激情は一切なく、それでいながら確かな情熱と愛が伝わってくる。日本の古典文学を思わせる端正な文体です。
取り上げられたレンズも歴史的銘玉Biogon38mm/5.6から、大判用Congoまで多種多様。今では名を聞かなくなったレンズもあり、うなります。
愛読書です。




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