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新型コロナから新型不況へ1/3

はじめに

 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の騒動はいつになったら終息するのか、全くわかりません。インフルエンザなら夏が来ればおしまいなのですが、WHOはそうはならないかも、と警告しています。
 私達、経済学者の役目は、この新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)騒動でどんな経済問題が発生するか、それを幅広く予想し、立てられる政策があるなら、それをわかり易く提言しておくことです。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に対しては北海道の緊急事態宣言をはじめ、既に多くの対応がなされていますが、後手に回ったという批判もありますし、過剰反応という批判もあります。私は、このような時は、最悪の事態を想定して対策を打つのは常道だと思います。まして、人命に関わることですから、すべてに優先します。お金・経済は後回し、これは当然ですが、事態が沈静化すれば、それらを考える時がやってきます。その時は、不況はかなり進行しているし、中小企業の多くは苦境だろうし、働く人々は雇用が維持されるか心配でいるでしょう。数々の問題について先手で考えておく、できたら対応を考えておくことが必要です。
 考えるべき経済的な課題はたくさんありそうですが、ここでは、私の専門に引き寄せて、あるトピックスを取り上げます。それはあまり話題になっていない、インフレーション、です。

インフレーション

 新型肺炎がなくても既に不況は世界中に広がっていました。一般的には、不況は物価下落ですから、インフレーションを問題にするなんて見当はずれもいいところ、“なに、言ってんの”と思われる方も多いでしょうが、少しの間、私の言うことを聴いていただきたいと思います。
 インフレーション。本来の意味はお金・マネー・通貨の膨張による物価の全般的騰貴のことです。inflateは膨張させる、空気やガスなどで風船などを膨らませる、を意味する他動詞です。その昔、西欧のどこかで、農家が牛を売るときに、牛の体重を増やすために水を飲ませたという逸話に由来しているそうです。牛の値段は体重で決まったのでしょう。でも、この話が示すように、実体は同じなのに外見だけ膨らますのはインチキですね。似たようなインチキが経済世界でもあるのです。代表例が、お金(紙幣)を増刷することです。そうすれば、なにか儲かってしまうようでもありますが、それもつかの間で、たちまち紙幣の購買力が低下してしまうのです。一万円札を必要以上に発行し流通させる。例えば2倍にしたとすると、価値:購買力が半分になってしまい、元の木阿弥という訳です。強欲な人間への神様の罰がインフレーションなのかな?
 2倍も印刷された一万円札で買い物に行くと、事態が平常だった時の一万円の商品はもう買えません。一万円札を2枚支払わないと買えない。私達はここで、一万円の商品が二万円になったと認識しますから、商品の価格が上がったと観念します。しかし、これは通貨の価値が下がったが故の価格上昇なのです。これがインフレーションの本来の意味ですが、今日では物価騰貴一般のことを、理由がなんであれ、価格が上昇していくことをインフレーションと一括して呼んでいます。厳密な意味でのインフレーションを狭義、後者を広義のインフレーションとしておきます。

狭義から広義へ?

 学問的には厳密に定義されていたインフレーションがなぜ一般的に、広い意味での物価騰貴を示す用語になったのでしょう。狭義のインフレーションは、ある数式に依拠しています。それはフィッシャーの交換方程式といわれ、PT =MVで表されます(Pは価格、T は商品の量、Mはマネーの量、Vはマネーの流通速度)。
 この方式で、TとVを一定とすると、PとMは比例的な動きをすることになり、その意味するところは、貨幣量が増加すると商品の価格は上昇する、になります。
 T(商品量)とV(貨幣の流通速度)を一定なんて、都合のよい前提と思われるでしょうが、商品量は急には増加しませんし、Vも通常はそれ程、変化しません。これは、現実の経済を観察したうえでのことで、期間を短期にとれば合理的なのです。
 さて、式の意味するところは明らかなのですが、歴史上、狭義のインフレーションは、“非常に極端なケース”としてしか現れませんでした。例えば1930年代のドイツとか、2008年のジンバブエで起きたインフレーションです。どちらにも共通なのは高額面の紙幣(1兆マルク、100兆ジンバブエ・ドル)が発行されていることです。こういう極端な状況をハイパー(hyper)インフレーションと呼びますが、狭義のインフレーションはほとんどハイパーの型でしか出現していません。

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引用:ダイヤモンド・オンライン(2019.8.29より)

 PとMの関係は式の示すところでは比例です。一方が10%増えれば他方も10%増加するといった具合です。しかし、歴史上生じた狭義のインフレーションは、量的な比例関係だけでなく、質的な変化を含んでいました。質的とは紙幣の信認が失われてしまった状態です。

新型コロナから新型不況へ2/3

新型コロナから新型不況へ3/3

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