新型コロナから新型不況へ2/3

新型コロナから新型不況へ1/3

貨幣在庫と商品在庫

フィッシャーの交換方程式
PT =MV P価格/T 商品量/Mマネー量/Vマネー流通速度

 実際には、Mの分量が小幅に増大していくことが観察されていますが、それが必ずしもPの上昇となって現れなかった。それは何故かというと、式に含まれない外部事情があるからでした。それは端的にいえば在庫です。Mが増加したとします。(どうやって増加し、それを企業や働く人が、どういう経路で入手するかも大きな問題ですが、とりあえずMが増大して企業経営者なり、働く人々がそれを手にしたとします。)式は、Mはただちに商品に向かうという前提を置いていますが、現実的にはそうではない。Mを持ったままでいる期間があります。そうなればMは式の外に出て在庫されます。これを貨幣の在庫・蓄蔵貨幣と呼びます。Tの商品量についても同じような事が言えます。式では、Tの全てが市場に出ているのですが、これも現実的ではない。生産者の手元に在庫している、あるいは買い手がすぐには使用しないで備蓄しているかもしれません。つまり商品在庫です。
 資本主義の生産活動はかなり柔軟です。“売れている”、“不足している”という情報があれば増産体制に入ります。先進国の成熟経済を考えると、フル稼業というのはあまりなく、常に一定の供給余力があるのが普通です。貨幣の在庫は潜在的需要であり、生産余力は潜在的供給です。順に見ていきましょう。

需要:貨幣在庫

 どんな場合に貨幣在庫になるのでしょう。貨幣の持ち手として想定されている人物は2者です。企業(経営者)と勤労者。企業(経営者) は投資をする主体、勤労者は消費をする主体です。今、企業が投資をためらったら、貨幣は在庫となり、商品(生産財)に買い向かうことはありません。貨幣在庫は潜在的需要ですから物価中立的です。
 現在の日本経済の状況に戻ると、経営者は投資をためらっています。それは、投資しても、それなりの利益があげられないと見ているからです。投資の際、自分のお金で足りなければ、銀行から借金をしてでも実行するのですが、利益の見通しが小さければそれもありません。貨幣在庫は企業の中に大量にあり、それは内部留保や各種の積立金として帳簿に計上され、現実には銀行に預金されています。銀行には借りに行きませんから、銀行の手元に資金は滞留し、それはやがて日本銀行に預けられます。Mは大量なのですが、日本銀行の預金であるうちは重要にはなりません。
 勤労者をみてみましょう。よく主張されるように、所得階層の二極化が進んでいます。上層部のリッチ層は消費飽和で買いたいものがありません。下層は逆で、買いたいものがあっても買えません。消費という点では期待のかかる中間層は現代の日本では徐々に少なくなっています。Mは増大しても富裕層の貯蓄(貯蔵貨幣)になります。下層も、生活不安にされてさらされていますから、防衛的な貯蓄に励みます。こうしてMがたとえ増大しても物価上昇にはなりません。潜在的需要(蓄蔵貨幣)に留まってしまうのです。式によれば、とっくにインフレーションになってもよいくらいMの量は増加していますが、一向に物価が上昇しない理由のひとつはここにあります。

供給:商品在庫

 需要も貨幣があるだけでは生じない。人間の判断と行為が介在していわゆる有効需要となりますが、同じような事が供給サイドにもいえます。ある商品をめがけてMが買い向かってくる。これは物語の始まりにすぎません。その商品の価格はすぐには上昇しません。商品にもよりますが在庫が形成されています。在庫は、Mの所有者・買い手の元にも未使用と言う型で形成され、生産元にも当然あります。これらの在庫層が厚いと少しくらいの需要では価格は上昇しません。さらに在庫の向こうには生産者の生産余力があります。生鮮食品などは在庫が形成されにくいし、農産物全般に言えることですが、急に生産を増やそうと思ってもできません。凶作の時は、急に供給が減り、回復には時間がかかります。だから価格は急騰します。
 現在の在庫と将来の生産拡大可能性を合わせて“供給の厚み”と呼びます。これがあると、Mの増大、そしてそれが有効需要化しても価格が高騰することは避けられます。

新型コロナから新型不況へ1/3

新型コロナから新型不況へ3/3


お読みいただき誠にありがとうございます。