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ハワイのカプ制度を作ったパーアオという人物の話。

前回、カプのことを書いたが、その中でパーアオという人物がカプ制度を厳しくしたと書いたが、今回はそのパーアオが来島した経緯と彼が造ったヘイアウについて紹介したい。

11世紀頃、サモアのウポル島にロノペレとパーアオというふたりの兄弟が住んでいた。兄ロノペレはとても力のあるカフナ(神官)で、弟のパーアオはカフナとしての力はそれほどでもなかったために漁師も兼業していた。
このふたりの兄弟は仲が良くなかったようである。
下の写真はウポル島にある美しい洞窟。行ってみたい……。

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ある日、ロノペレは自分が働いている寺院の供え物をパーアオの子供が盗み食いしたのではないか、とパーアオに言ってくると、頭に血が上ったパーアオはなんと我が子の腹を切り割いて無実を証明したのだ。
その後パーアオは冷静さを取り戻すが、我が子の腹を裂くなんてさすがにやり過ぎだ、と後悔した。
島での生活に嫌気がさしたパーアオは島から逃げてしまおうと考え始めた。パーアオが島を出る準備をしていると、たまたまそこにロノペレの息子が通りかかった。パーアオは兄のロノペレに対する日頃の鬱憤を晴らすかのように、衝動的にロノペレの息子を殺してしまったのだ。
パーアオは大慌てで逃げるように家族を連れて出航した。しかし食料も充分とは言えず、船が漂流しかかった時、緑の木々の匂いがかすかに漂い、島が近いことを感じ取る。彼らはハワイ島に近づいていたのである。

パーアオはとても空腹で今にも倒れそうだったが盛装でごまかし、カフナ・ヌイ(大神官)のふりをしてハワイ島に上陸した。ハワイ島の人々は、見るからに威厳のあるカフナがやって来たことに恐れをなし、パーアオを丁重にもてなした。
その後、パーアオはハワイ島南東部のプナという地域にワハウラ・ヘイアウを建立し、そこを最初の本拠地として生活していた。下の写真がワハウラ・ヘイアウだが、現在は溶岩に埋め尽くされて現存していない。

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当時のハワイ島はハワイ王朝の創始であるウル王直系のカパワというアリイが治めていたが、カパワは暴君で人々はみな苦しんでいたため “カフナ・ヌイ(大神官)” パーアオに助けを求めてきたのだ。
成り行き上、パーアオは民衆の申し出を断ることができない状況だったために彼らの嘆願を聞き入れ、カフナ・ヌイ・パーアオの名前でハワイ島中の豪族たちに檄を飛ばして軍を組織した。カパワの暴政に苦しんでいたのはカパワのもとで働いていた首長たちも同じことだ。みんな喜んでパーアオのもとに結集し、あっさりカパワを倒してしまったのである。

喜んだ人々は、パーアオにアリイ・ヌイ(王)の座に就いてもらいたいと懇願するが、大した血統ではないことを自分でよく知っていたパーアオはそれを辞退し、代わりにサモアから身分の高い首長であったピリを呼び寄せて彼をアリイ・ヌイに据え、みずからはハワイ島北端にモオキニ・ヘイアウ(下写真)を建立し、ここを次の拠点として政教分離の施策を取ったのである。

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この施策が功を奏し、ピリを始祖とするピリ王朝はその後、リロア、ウミ、カメハメハという偉大な王を続々と輩出していったのである。
ちなみにパーアオがモオキニ・ヘイアウを建てたハワイ島の北端は、彼の故郷、サモアのウポル島の名前を取ってウポル岬と呼ばれており、ヘイアウも当時から現在までモオキニ一族が管理している。

パーアオが最初に建てたワハウラ・ヘイアウは、ハワイ最初のルアキニ・ヘイアウ(生贄を捧げるヘイアウ)だった。生贄を神に捧げる儀式は1819年にカアフマヌによって原始信仰が否定されてキリスト教に改宗し、ヘイアウが壊されるまでずっと続けられていたそうである。ヘイアウの破壊に直接携わったのは、パーアオ直系のヘヴァヘヴァというカメハメハ大王に仕えていたカフナだったと伝えられている。
それ以降、ワハウラ・ヘイアウは儀式に使用されることはなかったが、1938年にヘイアウを含む一帯が国立公園に指定され、1965年にはワハウラ・ビジターセンターが建設された。しかし1989年のキラウエア火山の噴火でビジターセンターが消失。その後数回の噴火で1992年にはワハウラ・ヘイアウだけを残して、付近一帯は完全に溶岩に呑み込まれてしまったのだ。

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溶岩の中にぽつんと残されたヘイアウを見た人々は、このヘイアウの持つ不思議な力を目の当たりにしたようですが、残念なことに1993年の噴火でヘイアウ自身も溶岩に飲み込まれてしまいました。

パーアオはもともと残忍な性格だったように語られている。また彼が厳しく制定したカプで人々を死罪で罰し、ヘイアウで生贄を捧げることも、彼の残虐性を反映しているように思える。
かつて私も取材の時に彼が建てたモオキニ・ヘイアウを訪れたことがあるが、このヘイアウへはあまり近づきたくないような感じがしたのも、何かを感じ取ったのかも知れない。


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