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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.3:とさむとデジカメ

 その日、始業1時間前に会社に出勤したのは「とさむ」。自分のデスクに座り、鞄から『あるもの』を取り出す。
「あいつ、いいもん持ってんな」
 とさむは、修の部屋からデジカメををこっそり持ってきていたのだった。電源を入れ、試しに構えてみた、その時。
「あーっ! 修さんデジカメ持ってるぅ!」
 同僚の理加が目を輝かせながら近寄ってきた。
「何だお前、写真好きなのか?」
「好きって言うかー、撮るんじゃなくて、撮られるのが好きなんでーす!」
「ほう」
「修さぁん、理加の写真撮ってくださいよ~」
 理加は手を合わせ、甘えた声でとさむにすり寄る。
「わーかったよ、そんなにくっつくな」
 とさむはわずらわしそうにシッシッと理加を手で払った。

「今日はぁ、新しい帽子かぶってきたんだ~。ねぇ修さん、似合ってるでしょ~?」
 新品のカンカン帽をかぶり、自慢げにくるりと一回転する理加。
「はいはい、似合ってる似合ってる」
「ちょっとぉ! めんどくさがらないでくださいよぉ!」
 理加は腰に両手をあて、ほっぺを膨らませた。
「その顔で撮るぞ。いいのか?」
 とさむがデジカメを構える。
「あーっもう修さんのイジワルっ! ちょっと待って!」
 そう言うと理加はポーズを決め、笑顔を作る。とさむはシャッターを押した。
「修さんもっと撮ってぇ!」
 理加はさらにポーズを決める。
「はいはい」
 言われるがまま、とさむはシャッターを押し続けた。

「次は鞄持ってるところ撮ってくださ~い! ほらっ!」
 理加は自分の鞄を持ってポーズをとる。
「も、もういいだろ……」
 デジカメを持つとさむの顔に、疲労の色がにじみ出してきた。
「なーに言ってんですかぁ! もっといっぱい理加を撮ってくださいよ~!」
「勘弁してくれ……」
「まだまだぁ!」
 楽しそうにポーズを決める理加の撮影会は、始業時間ギリギリまで続くのだった。

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