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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.4:のさむと緑の野菜

 この日、「のさむ」はジーパンと緑一色のカットソーを着て出勤した。のさむは1番乗りで、職場には誰もいない。
「緑を着ると、無性に野菜を摂りたくなるな。……俺だけか?」
 そんなひとりごとを呟きながら、自分のデスクで紙パックの野菜ジュースをチューチュー飲んでいるのさむ。
「うん、美味い。だがやっぱり、生の野菜が食べたくなるな」
 紙パックのパッケージに描かれた野菜の絵を見ながら、のさむはまた呟く。
「おはようございまーす」
 そこへ、何やらダンボールを抱えて恵理子が職場に入ってきた。
「おはよう。そのダンボール、何だ?」
 あいさつをしたのさむは恵理子に尋ねる。
「これ、私の実家から送られてきたもので──」
 恵理子はダンボールをテーブルの上にドサッと置き、ふたを開ける。
「じゃーん! 両親が育てた野菜です! 職場のみなさんにもおすそ分け!」
 恵理子は満面の笑みで誇らしげに両手を広げた。ダンボールいっぱいにさまざまな野菜が詰まっている。
「おお! これまた立派なもんだなぁ」
 のさむは感嘆の声を上げた。顎に手をかけ野菜をじっくりと見る。キュウリはイボイボが鋭く、トマトはヘタがつんと立ち、ナスはハリがあって色が濃い。どれも新鮮な証拠だ。のさむがスイカを叩いてみると、ボンボン、といい音で鳴る。しっかり完熟しているのだろう。
「スイカは1個しかないんで、職場で最初に会った修さんにプレゼントします!」
「いいのか?」
「はい! ぜひ召し上がってくださいね」
「おお、ありがとう」
 のさむは嬉しそうにスイカを両手で持ち上げる。
「あっ!」
 突然、恵理子が声を上げた。ビクッとするのさむ。
「どうした?」
「修さん! これ持って!」
 そう言うと恵理子はダンボールの中からキュウリを1本取り出し、のさむに持たせた。
「……何だこれは?」
 右手にキュウリを握り、左手にスイカを抱えた、緑の服ののさむ。
「緑の野菜と、緑の修さんっ!」
恵理子は手を叩いて喜んだ。
「なんか可愛いー! ちょっと写真撮らせてくださいよ!」
 この光景が何故かツボにはまったようで、恵理子は鞄からデジカメを取り出し、「緑づくしの修さん可愛い!」と写真を撮りだした。
 緑の野菜を持たされ写真を撮られるのさむは、あっけにとられたどこかマヌケな表情でつっ立っていた。そして、思っていた。
(このまま、この野菜食っちまいてぇな……)

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