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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.17:ぎょさむとパネル

 「ぎょさむ」の出勤前夜。修はぎょさむを自室に招き入れた。
「どうした、おさむ」
 床にあぐらをかいて座るぎょさむは、自分の椅子に座った修に尋ねる。
「いや、まあ大したことでもないかもしれんがな」
 頭を掻きながら少し笑う修。
「なんだ。恋の告白ならやめてくれよな」
 眉をひそめたぎょさむが冗談めいてそう言うと、「ばーか、んなわけねえだろ」と修はぎょさむの頭をポカリと叩く。
「お前さ……もし明日会社に行って、自分と同じ『もうひとりの自分』がいたらどう思う?」
 急に真剣な眼差しをした修。
「はぁ? お前何言ってんだ? ……ああ、ドッペルゲンガーってやつか。そんなもの、俺が信じるとでも思ったか?」
 バカバカしい、と言わんばかりに、ぎょさむは修の話を鼻で笑う。しかし修は真顔で続ける。
「なあ、どう思う?」
 ぎょさむに顔を近づけた修。
「うわっ気持ち悪ぃな! 信じねぇって言ってんだろバカ!」
 思わずぎょさむは後ずさり、夜にもかかわらず大声を上げるのだった。

 翌朝。修は、出勤するぎょさむを見送りに玄関まで来ていた。
「おい、昨日の夜の話……」
 修がぎょさむに耳打ちする。
「うるせーな! だからそんなもんありえねーって!」
 修を手でシッとよけたぎょさむ。
「本当に、信じていないんだな?」
 昨晩のように、真顔でぎょさむに迫る修。
「信じねえっつってんだろ! もう行ってくるからな!」
 修の真顔を無視し、ぎょさむは玄関のドアをバタンと閉め会社へ向かった。

「うわああぁぁぁぁ!!」
 オフィスのドアを開けたぎょさむは、悲鳴を上げて尻もちをついた。
 ぎょさむの目の前には、自分と同じ『もうひとりの自分』が立っていたのだ。
「な、なな……!」
 震える指で、目の前にいる『もうひとりの自分』を指差す。スーツを纏い、微笑を浮かべる『もうひとりの自分』。
「へへへー! 大成功ー!」
 『もうひとりの自分』の後ろからひょっこり顔を出したのは、同僚の裕司。
「あはははっ! 修さん驚きすぎですよー!」
 そのまた後ろで、恵理子が心底おかしそうに笑っている。
「修さんナイスリアクションっ! きゃはははっ!」
 恵理子の隣で、ぎょさむに親指を立てて笑うのは有希だ。
「な……何なんだ……!?」
 ぎょさむは状況を理解していない。
「これ、等身大パネルっす! 今度のイベントで使えねーかなーって、試しに修さんの写真で作ってみたんすよ!」
 誇らしげに説明をする裕司の話は、腰の抜けてしまったぎょさむには届いていないようだ。
「何すか修さんそのマヌケ面は! あっはっはっは!」
「あの冷静な修さんがこんなに驚くなんてねー。いやー、久々にめっちゃ笑ったわ」
「修さん、想像以上にびっくりしちゃって、こっちまで驚いてますよ! 立てますか?」
 ケラケラと笑い続ける裕司と有希。一方、恵理子はぎょさむに手を差し伸べた。
「あ……ああ……」
 ようやく状況がつかめたぎょさむは、昨夜修が言っていた言葉の意味を理解したのだった。
(ドッペルゲンガーより、イタズラを仕掛けてきたこいつらの方が怖いぜ……)

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