「痩せたら可愛い」という言葉と、可愛くあろうということ

●前置き
 約1年前まで、94kgあった。ピークでは99kgを記録していたし、気付かぬうちに100kgを超えていた時もあったはず。現在はなんとか47kg減量し、ひとまず緩めのダイエットに切り替えることに。せっかくだから、メモ代わりにnoteにダイエットにまつわる記録を残しておこうと思う。

大学のときに出会ったAちゃんは、誰が見てもかわいい女の子だった。

ゆるくウェーブがかったロングヘア―に、すべすべで真っ白な肌、黒目がちで濡れたような瞳。甘い雰囲気の彼女にぴったりな服装とメイク、そして耳がくすぐったくなるくらいに柔らかな声。

そんな彼女とは、大学の入学オリエンテーションで、高校からの友人を通じて知り合った。意気投合した勢いでそのまま同じサークルにも入ったので、サークル仲間という関係性でもある。

彼女と知り合い3日ほど経った頃、偶然同じ授業を取っていたので教室移動をしていた。

母校はやたらと階段や坂が多いキャンパスで、当時もちろん肥満バリバリであった私は、軽やかに歩く彼女とは対象的にゼエハアゼエハアと息を切らしていた。

自分の姿を客観的に見つめることはなかなかできないが、まあ醜かっただろう。

そんな私をAちゃんは、その黒い瞳をもってじいと見つめ
「知り合ったばっかりでこんなこと言うのは失礼だけど」
と口を開く。

とてもいやな予感がするワードだ。だって「失礼」って前置いているんだもの。

「え、何」
「四郎ちゃんって痩せたら絶対かわいいと思う」

Aちゃんの至って真剣な眼差し、至って真剣な声音。
そのあとに何と返したかは忘れたけれど、何とも複雑な思いだった。

「痩せたら可愛い」という言葉自体はとても嬉しいけどだった「痩せたら」がつくわけだ。知り合って3日ほどの子に「太っている」と認識されていることを知るのはなかなかに思い。いやでも「可愛い」ではあるわけで。

Aちゃんとの付き合いが長くなればなるほど知っていくことになるが、Aちゃんは決してゆるふわなだけの女の子ではなく、言いたいことははっきりと言う女の子だった。

と、言われた直後はぐるぐると考えてしまったもののそこは肥満人。1週間ほどもすればすぐに忘れてしまうのだ。言われた言葉を糧に、とかそういうことをしないから肥満を極めて行く。

結局大学の4年間「痩せたら可愛い」ポテンシャルを発揮することなどなく、肥満のまま名誉の卒業を果たした。

そして1年前からダイエットを始めたわけだが、不思議と好き放題太っていた時期には忘れていたAちゃんの言葉が頭をよぎるようになる。

時には「本当に失礼なことを言いやがってAちゃん……」という怒りと共に、時には「痩せたら可愛いって会って3日の子に言われるなんてまさか本当に可愛いんじゃ?」という希望と共に。

つまりは、数年越しにAちゃんの言葉がダイエットの励みになったというわけだ。

数か月前、減量してから久しぶりにAちゃんに会った。その前に会ったときにはもちろん現役の肥満だったため、Aちゃんは大変に驚いて口々に褒めてくれた。

食事も終盤に近づいたとき「大学のときにさ……」と、例の出会った当初のエピソードを切り出してみた。

嫌味を言いたいわけでもなく、本当に思い出話のつもりで話したのだけど、Aちゃんは真剣な表情で頭を下げて謝ってくるのだ。(いやまあ、私が同じ立場ならたしかに居たたまれない気持ちにはなるけど)

そして「私は四郎ちゃんに嫉妬していたのかもしれない。何で可愛いのに努力しないんだろう、私は頑張ってメイクしてもたかが知れているしって」と続ける。

こんなことを書き起こすと私が大変なナルシストのようだけど、あくまでAちゃん主観の発言なので許してほしい。

そしてAちゃんはたかが知れているなんてものではなく、冒頭で書いたように抜群にカワイイ。それでも話を聞けば聞くほど、本当に「たかが知れている」と思い込んでいるようなのだ。

そんなAちゃんの悩みというか、根底のコンプレックスを太っている間は知る由もなかった。ダイエットに励み、スキンケアやファッションのスキルを磨き始め、そこでようやく彼女の苦悩や、美しさや可愛さのためへの努力を知ることになった。

ダイエットをしなければ、本当の意味で彼女を理解することはなかったのかもしれない。

だって好きなものを食べて運動なんて一切していなかったあの頃は「Aちゃんは何もしないいのに可愛くていいよね、人生楽しそう」なんて思っていたんだから。

何もしないで幸せ、なんて人間はそうそういない。美に対しての努力を全くしていなかった頃には、そんな当たり前のことだって気付くことがなかったのだ。

Aちゃん、あなたは以前「痩せたら可愛い」と言ってくれたけど、私は今可愛くなれているでしょうか。


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