全日本プレイリスト協会 "Indie Waves Ride on!"

東京で活動する5mmとKOJI The Planet Stoned Plusのそれぞれのメンバーの声がけによって2023年にスタートした日本のインディペンデントミュージックシーンをピックアップするプレイリストが公開されたのでさっそく聞いてみた。
(註:紹介する楽曲は当初、2023年9月19日現在リストに組み入れられているものでした。その後、プレイリストは順次楽曲が入れ替わっています。つまりこのプレイリストは常に新しい曲にアップデートされていることになります。そのため気づいたタイミングで追加レビューを記載するようにしています)
(註:プレイリストの名称は、2024年5月6日現在 "Indie Waves Ride on!" という表記に変更されています)



楽曲レビュー

東京ガロンヌ - ミラクルこねこちゃん:ナゴムレコードを思わせるテクノポップにハードコアなボーカルを乗せたバージョンだが原曲はグランジを軸にした楽曲だ。テクノポップとハードコアグランジは現在のアンダーグラウンドシーンのルーツではないかと思う。本プレイリストの冒頭にふさわしい。

ASTRALLABO! - いろりばた:ホワイトノイズのエディットから入るアヴァンポップエレクトロニカなバックトラックに乗せて歌われるのは極めてフォーキーな世界観。言葉と連動するようなサウンドの揺らぎが素晴らしい。

Burma Roadhouse - なんてことない:ブルースロック的なギターとホーンの絡み方が印象的なトラックにメッセージをかぶせるこのアプローチはインディペンデントシーン以前のライブハウスから脈々と続くスタイルだ。力強さと繊細さを併せ持つエンディングのリフレインが素晴らしい。

フロリカ - BENKEI:ジャズファンクを基調にしたピアノトリオの演奏だがベースのフレーズやエレピのコード感はクロスオーバー〜アシッドジャズ色を見せつつドラムアプローチにはニュージャズ的なブレイクもあり音楽的な幅の広さを感じる。

オケラ2号 - センチメンタルでメロウ:ポストパンクニューウェイブのピュアなニッチポップを思わせる。本作ではムーンライダーズを連想したが恐らくバックグラウンドはそればかりではないだろう。歌い上げるボーカルと淡々とループするリズムボックスをつなぐめりはりの効いたアレンジに引き込まれる。

愚息兄弟 - 蝉:メロウなエレピとギターからはシティポップを連想する。シルキーなボーカルとJ-Rapフロウの組み合わせはアンダーグラウンドというよりむしろオーバーグラウンドだが抒情溢れる言葉や豊かな表情を持った演奏の重要性にあらためて気付かされた。

KOJI The Planet Stoned Plus - Silver Beatle Ver. 2:ローファイリズムトラックに乗せたノイジーなギターという組み合わせにサイケデリックボーカルが覆う独特のスタイルは非常に中毒性がある。絞り出すような歌が時折トーンを落として優しく語りかける瞬間がありとても美しい。

Like This Parade - The Favor 3.2:本作はALEDONOのロマン派溢れるピアノ曲にLike This Paradeが歌の旋律を加えたものだ。Like This Paradeとayaradio727のユニゾンによる歌とロマン派のミクスチュアアプローチはその姿勢がアンダーグラウンドらしいとも言える。

さいだいエム - ツユクサ:下降するコード進行が美しい本作は感情豊かなボーカルとギターが魅力的だ。オーバーグラウンドが担ってきた世界観に繊細な感情をあらためて織り込んでいる。歌メロを意識したギターソロが素晴らしい。

House Of Tapes - Synapse:ポストロック感を併せ持つインダストリアルテクノとネオクラシカルな世界が相互に作用し合う本作は1トラックの中に無数のエレメントが詰め込まれている。タイトルと合わせて極めて映像描写性の高いトラックだ。

AKR-FITW - Nouvelle Chinois:ブリープテクノを継承するミュージシャン、AKR-FITWによる本作はやはりシンセベースのフレーズが素晴らしい。ダブステップやUKガラージにもつながるアプローチの一方でリスニングとして楽しめる和声感が印象的だ。

ddddeeeellllaaaa - Blue:ローファイヒップホップ直系のブレイクビーツとメロウなエレピが美しい。中盤からあらわれるシンセサイザーによるソロパートはクロスオーバー色を感じつつ、全編通して描かれるピアノの流麗なオブリがオールラウンド感を感じさせる。

アマノ無量塔 - あの子はもういない:1970年代のサイケデリックロックを思わせる情念溢れる言葉とマイナーコードに空間性の強いドラムが印象的だ。プログレッシブな展開を牽引するギターとシアトリカルなボーカルの親和性がとても高くシーンの切り替えが見事だ。

5mm - 白いカラス白いスズメ:変拍子と浮遊感溢れるコードで畳み掛けるイントロをそのまま受け継いだコーラスを伴うボーカルのメロディーラインが素晴らしい。5mmは以前も紹介したが一般的な調性とのコンセンサスを忘れず、ストレンジポップを追求する姿勢にあらためて敬意を表したい。

Yuuki Nagatani - Deadly poison:1980年代のインダストリアルテクノやポストロックを思わせるアプローチはやはり現在のアンダーグラウンドシーンのルーツではないかと思う。抑制された打ち込みによる不穏なコード進行とミニマルな構成が印象的だ。

MC RETRO - 喜縁:淡い音響世界からはじまるトラックに乗せるJ-Rapはコード感を揃えた非常に音楽的なアプローチだと思う。トラックを尊重したフロウのラップパートと、和声を意識したフックの漂うメロディーの組み合わせが美しい。

ソライロシアン - コトノハ:非常に安定度の高い演奏とアレンジが素晴らしい。ベースの低音がギターの轟音を下支えしているバランスと、艶のある伸びやかなボーカル、中盤のブレイクを含めてタイトなリズムアプローチの力量も素晴らしい。

えれきトリック - 遅咲きの凡才:ギターを軸にしたインストでブルースロック色あるマイナーコードに乗せて奏でられるソロは低音から高音まで自由度の高いメロディーが素晴らしい。ソロパートは随所にバッキングとシンクロする瞬間があり豊かな表情を添えている。

ZUGA - 青いグミキャンディー:透明感あるボーカルとコーラスの組み合わせが素晴らしい。ホーンが添えるサブメロディーやメロウなテンションコードとサビで使われるストリングスの含み等、音色を活かした透明感あふれるアレンジが美しい。

楽曲レビュー:2023年9月24日追記

オオムロトモアキ - caelessness:アコースティックプログレッシブポストパンク変拍子にまず耳を奪われる。言葉と音楽の距離感に長谷川裕倫を連想したが、さらにポップさが加わる。グルーブ感あるベースとプログレッシブなドラムがメロディーを支えるシンプルな編成で楽曲の持ち味を最大限引き出すR.I.O的アレンジが素晴らしい。

Ta9-Saka - DayBreak:抒情的なコードとトランスの流れを汲んだEDMを思わせるトラックに柔らかでシンプルなMuzak的なメロディーが乗る。このEDMとMuzakのミクスチュアメロディーがあることでリスニング向けに楽しむことが出来る。

2:45 - Mary:エレポップのシンプルなリズムトラックにアノラックなメロディーが乗る。ポストパンク期であればバンドが担ってきたであろうタイプの音楽だ。フックのユニゾンコーラスはシンプルなスリーコード進行とシンクロしていて素晴らしい。

保岡 真仁 - Rain:前半はエレクトロニカ的な電子音を伴いながらゆったりとしたビートが刻まれる中に、ギターがメロディーを奏でる。中盤はシーンを切り替えたシューゲイザー的なアプローチに入るが、エンディングでこの両要素を融合させるエモーショナルな構成力が心地よい。

空白 - Eden:前半はピアノとストリングスを軸にしたラウンジテイスト溢れる作品。流麗なコード進行と輪郭を持った旋律が美しい。中盤のワルツは前半の和声を変奏に織り込むが、終盤に向けてこの変奏が次第に冒頭の主題に繋がっていく。聴きどころの多いアレンジが印象的だ。

ANACHRONISM - 裸足の少女:疾走感あるエイトビートに下降するコードの組み合わせは日本で進化したポジパンスタイルを連想する。中盤のオクターブユニゾンとブレイクとその後の掛け合いの畳み掛ける展開がエモーショナルで素晴らしい。

ソライロシアン - Empty:シンプルなエイトビートの中でパートの抜き差しやボーカル、ギターのオブリを巧みに織り込んだ細やかなアレンジが印象的だ。中盤のギターが抜ける瞬間や対照的に後半のギターソロ、最後のリフまで含めて考え抜かれた構成だと思う。

AKR-FITW - Papa’s Carry:1980年代のテクノポップやエレクトロファンクを想起するリズムがまず素晴らしい。ディレイを伴ったボイスは2000年代のエレクトロニカにも通じる世界観だが、ワンコードでミニマルに展開する楽想と非常に相性が良い。

YISKA - ちかいのこどば:歌唱力を活かしたメロディーが心地よい。伸びやかなボーカルを支える時はブロックコードに徹して、間奏部分では拍子を変えつつメロディーを打ち出すピアノのアレンジバランスと抒情的な構成が素晴らしい。

楽曲レビュー:2023年追記

えれきトリック - Goodbye:イントロのコードの動き方に惹きつけられる。ギターが奏でるメロディはヴォーカルがそこにあるかのように聞こえる。疾走感はドラムとギターのバッキングで奏でられる8ビートのバランスの良さが支えている。歌心あるメロディーと安定したバッキングの対比が印象的だ。

アマノ無量塔 - 白詰草:寺山修司を連想する文学的な表現が印象的な歌詞は前半のドローンサイケアプローチと中盤のギターとボーカルを軸にしたラウドな展開の両方に行き届いている。間奏のテンポチェンジ後の静寂、再び訪れるラウドな展開も対比が美しく儚さが豊かに表現されている。

Kiyoshi - I Don’t Need:エッジの効いたテクニカルなベースリフから始まるハードなトラックはリフとシャッフルの絡み方が印象的だ。ボーカルはブレイクの使い方で全体を支配する様子が分かる。短く挟み込まれたギターフレーズやソロがメリハリをつけてタイトな仕上がりになっている。

保岡 真仁 - Black Out:ギターとフィードバックを使ったエレクトロニカ的なアプローチに入り込むノイズが美しいイントロを経て、高速なリズムを伴うギターのカッティングがミニマルに迫る展開は旋律を持たせず楽想を表現する点で見事だ。純然たる音で音楽を奏でる様が印象的な1曲だ。

ソライロシアン - 夕景:かつてライヴでは最後に演奏することが多かったというこの曲はバンドの代表曲でもある。静かに始まるがすぐにいつものサウンドが現れる。シーンごとに変化をつけるスネアのアプローチは歌詞で表現される夕暮れの彩りとシンクロしているようで印象的だ。

ASTRALLABO! - 009(ひかりのかたまりでこたえる):ラヴェルを思わせるスネアや中期ビートルズを連想するギターリフ、トラップに近いリズムトラック、フリーフォークアプローチ、これらを積み上げたサウンドはラジカルでポストパンク以上にポストパンクな姿勢を感じる楽曲だ。

AKR-FITE - Cicada:「蝉」というタイトルから連想するノイズ混じりの電子音響がサウンドアートを思わせるアンビエントスケープを展開している。楽曲の前半は時折訪れるコードチェンジが素晴らしい。中盤、わずかにリズムを伴うがその後も終始抽象的かつ純度の高い音像が続く。心地よい。

保岡真仁 - Bounce:ブリッジミュートや四つ打ちとも、八分音符を軸にしたフレーズとも相性の良いテンポで展開する。トレモロのダウンストロークとリフの切り替わりが心地よい。明確な旋律を置かないことで抑制されたパワーコード部分はボーカル曲であればサビにあたるだろう。ブリッジにフレーズを置くこととの対比が面白い。

Yuuki Nagatani - Festival:ミニマルなリズムトラックにシンコペーション気味の電子音が挿入される。BPMではなく譜割りで性急さをアプローチしているように感じる。初期サンプラーのようなミニマルな音の質感とインダストリアル感を持ったパーツの抜き差しがシーン毎に細かく刻まれている。

えれきトリック - アフターフェスティバル:イントロのサイケデリックなコード感が心地よい。随所にベースラインとギターの旋律がハーモニーを刻む場面があるが一聴するとシンプルなコードを支えているのがエレピで、その一方ベースラインは比較的自由に配置される関係性が面白い。

AKR-FITW - Rotes Licht - Album Mix:オーケストラヒッツから入り、マイクオールドフィールドを思わせるピアノフレーズにクラウトロック然としたゆったりとしたBPMの中でのタイトなシンセベースのシンプルなスタイル。8小節または16小節ごとにはさみこまれるスネアのフィルが印象的だ。

ALEDONO - The Greenish Hills:クレッシェンドやリタルダンドを数値でトレースするのは厄介な時があるだろう。一方で本来の楽想に沿った表現として必要になることもある。考えてみれば従来それらはごく自然に行われてきたことだ。旋律と和声が寄り添い、息遣いが楽曲を進めていく。とても美しいピアノ独奏曲。とにはさみこまれるスネアのフィルが心地よい。

5mm - 鍵盤:スタックリッジを思わせるピアノからはじまるが、中盤はハードなギターと共に2000年代のプログレッシブロックのようなアプローチも入り混じる。イントロからは想像もつかないようなエンディングに時間芸術を感じざるを得ない。全体通してポップなヴォーカルのメロディーが束ねていく様は圧巻だ。

AKR-FITW - 物ノ怪:リズムトラックはエレクトロヘビーファンク的なスタートで、中盤のアッパーなパートをはさんで再びヘビーファンクにつなげていく。リングモジュレーションのかかったような前半の旋律部分が中盤のアッパーなリズムの伏線にのように聞こえる。非常に有機的な構造だと思う。

アマノ無量塔 - 満たされて踊る箱:前半のポエトリーリーディングに性急なボーカルが入り混じるシアトリカルな歌とそれを揺さぶるギターのアルペジオとの組み合わせが素晴らしい。後半は空間性の強いドラムに誘われるようにハードなエンディングになだれ込む。プログレッシブなシーンの切り替えが印象的だ。

THE PINK STOCKING CLUB BAND - Omoide no Guitar:シンセウェイブ以降のニューロマンティックやジョルジオモロダーのシーケンスフレーズを連想するサウンドだが、根底にはロックバンド然としたスタイルを感じる。特にエンディングのリフレインはニューロマンティック的コード進行とサウンドの外観をバンドで覆うアレンジが心地よい。

保岡 真仁 - reRain:オリジナルトラック”RAIN”と同じ構図だが冒頭の雨のサウンドスケープからリバースを織り込んだギターへの余韻の受け渡しがとても映像的だ。その影響で後のギターは常に絵画的な要素を保っているように感じる。雷鳴を経て後半の厚みを持ったシューゲイズアプローチから雨上がりまでのシナリオもとても美しい。

Burma Roadhouse - 三遍回ってワンと哭け:ニューオリンズを連想する瞬間を持ったスネアのバズロールとその上に乗る軽妙なポエトリーリーディングの組み合わせが心地よい。「哭け」は静かな嗚咽ではなく慟哭でありシリアスな印象だが、ユーモアを織り交ぜながらアイロニカルな世界を歌い込むアプローチにある種の優しさを感じる。

えれきトリック - Goodbye - New Recording:以前紹介した原曲、「Goodbye」の歌心を一層引き出したアプローチだと思う。各パートが自身の明確な役割を担うようなアプローチの原曲との比較でいえば、New Recordimgは全パートが一丸となって勢いをもって進むイメージだ。

Isolate Line, Sparklar - Interstellar:まず穏やかなランダム性やユークリッドリズムシーケンサーを思わせるリズムトラックに引き込まれる。また中盤のミニマルなオーケストララインは非常に美しさに惹かれる。繰り返し聞くうちにこのミニマルパートを軸にしつつリズムトラックが有機的につながりを持たせているように聞こえてくる。

AKR-FITW - Winter Footsteps - World Wide Mix:冒頭から打ち出されるミニマルなフレーズが中毒性を持っている。続く展開でLa Düsseldorfにも通じる和声に覆われる瞬間の多幸感が素晴らしい。中盤のサイケデリックなブレイクをはさんでゆっくりと高揚する構成が心地よい。

牙突 - Justice Ego:初期のスクリーモを思わせるサウンドだが鋭利なギターのカッティングは時折現代音楽的な瞬間がある。中盤にはブレイクダウンせずテンポを維持したままフランジャーでポストパンク的なアプローチを見せるシーンがあるがそこからの戻りと切り替わりが鮮やかで非常に巧みだと思う。

ソライロシアン - ワールドエンド:2021年の発表当初から弾き語りを含めて基本的な軸は変わらないものの演奏を重ねるうちに熟成されていく様が非常に印象的な曲だ。3連のリズムを保ちながらサウンドの強弱をつけながら徐々に堆く積まれたサウンドに取り囲まれるような構成が心地よい。

皆川テツオ - ハイド:美しく疾走する繊細なギターが印象的だ。そのギターが2コーラス目に抜けてドラムとベースだけをバックにして歌われるメロディがアドリブ的に広がる瞬間がある。続いてギターにかき消される声が入る。この対照的な構成や、繊細さと大胆さという組み合わせとバランスがとても良い。

東京ガロンヌ - 祭囃子:プリミティブなドラムとギターはノーウェーブやポストパンクを連想する。レンジの広いメロディーはアーントサリーやヤプーズの流れを汲みつつ終盤には2トーンスカの要素もあり、それらの要素から軸足をずらさずに祭囃子を表現する組み合わせが素晴らしい。

Like This Parade - How The Light Can Fall In So Many Ways Part 1:3拍子のリズムボックスに合わせてコーラスを伴い歌われる多幸感ホリデーミュージック。ブレイク部分に垣間見るパーティーモードとナーセリーソングはラウンジ色やチルドレンオーケストラ風のアレンジと親和性が高い。

Phonon notes - 消灯惑星:まず2つの単語を組み合わせたタイトルがとても詩的だと思う。ポストパンク期のエレクトロを連想する硬質なリズムの一方で柔らかなメロディーという組み合わせが面白い。ビートは明確だがダンスミュージックに寄らずメロディーが残る楽想はまさにタイトルがもつ2つの単語の距離感同様にポエティックだ。

ASTRALLABO! - 2020summerslam:オールドスクーリーなビートにサイケデリックなパーツと声が混ざり合う。短く刻まれるシーンがドキュメンタリー映画のよう。それはパーティーを続けようであったり、party don’t stopであったりというメッセージに近いものを感じる。仮にそこに何も伴っていなかったとしても感傷が見え隠れする曲。

DEADSTOCK DOLLS - Gus Burner:1980年代後半のジャパコアを連想するハードコアな前半と、西海岸のスクリーモを思わせる後半とのつながりが見事だ。特に中盤以降の左右に振られたスクリームパートは上昇するギターフレーズの高揚感と振り分けたコーラスの鎮静感の組み合わせが美しい。

5mm - プライドマーケット:英国気質の美しいギターのアルペジオから始まる。転調と密接するコーラス、プリミティブなドラム、シンプルなエイトビート、シーンの切り替えが美しい。中盤の歌詞「時間が流れてる、でも何も変わらない」に続く余韻はここに至るまでの切り替えとの対比が素晴らしい。エンディングも同様に余韻の使い方が素晴らしい。

オケラ2号 - 大河が長い旅の最後にたど着く街:タイトルとゆったりとしたビートの組み合わせがとても良い。演奏にあまり強弱をつけず、メロディーの起伏とボーカルで楽曲に表情を持たせるニッチポップ的なアプローチによって聞く場所や再生機器を選ばず純粋に旋律を楽しめる。

Isolate Line - Re:Oblivion:冒頭、キックがないことでトリッキーに響くリズムがビートに切り替わる瞬間が心地よい。中盤のキックの変調でリズムトラックとアンビエントスケープの距離感が曖昧になるパートを経て、終盤に向けてノイズ混じりの和声が見えてくるシーンがとても心地よい。

Phonon notes - 翠雨(Lofi hiphop Remix):雨の音をバックにピアノとわずかなキックで構成されたオリジナル版に対してRemixはリズムトラックのループが加わり、またコード移り変わりと譜割が変更されている。これによりリズム以外の要素のアンビエント感が増したように感じる。中盤、リズムトラックにフィルターが入り雷鳴が挿入される部分が印象的だ。

A SMOOTH ARCHITECT - Blink of an Eye:4ADやゴシック様式も思わせる静謐なエレクトロ、中盤のシーンの切り替わりで半音ずれる和声が奇妙な浮遊感を伴う。この浮遊感とゴシックの入れ替わりがとても印象的だ。タイトルからは瞬きの瞬間のようなある種の瞬発さを連想するが対照的に楽想はむしろゆっくりと進む。

保岡 真仁 - HorrorMan No.111-02:ゴシック的な要素と1990年代のロック的なフィーリングを併せ持つエッジの効いた疾走感と静劇交互の組み合わせが楽曲を支えている。どのパートも突出させないアレンジの効果もあるかもしれないがインスト作品にも関わらずボーカリストの存在を感じる不思議さがある。

つばさ∞ - fairytale:静かなピアノのイントロからプログレッシブなオーケストレーションが巡るまで2小節、4小節単位で細かくシーンを展開するアレンジが素晴らしい。リズムトラックが入ってからの無調的展開と変拍子の組み合わせや中盤のブレイクを含めて随所に膨大なアイディアが詰め込まれている。

Joshua Okazaki - Tokyo Exodus:前半はエレクトロな刻みのリズムトラックにスピークマシンの組み合わせが心地よい。ソウルフルなブレイクをはさんでアッパーなフレーズから残響を残して終えるエンディングまでの畳み掛けは1970年代以降のダンスミュージックを順にリファーして2010年代のVaporwave的アプローチで締めくくる構図が素晴らしい。

アマノ無量塔 - 白詰草:冒頭のアシッドフォーク然としたギターとドローンの中を分け入るようなボーカルが印象的だが中盤の激情的な展開に躊躇なく切り替わる展開が素晴らしい。その後、アルペジオを軸にした間奏を経てポエトリーリーディングからユニゾンボーカルからエモーショナルなエンディングに向かう構成もインパクトがある。

ソライロシアン - レイン:透明感あふれるギターのアルペジオとボーカルからはじまる。浮遊感をそのまま残してベースとドラムが入るところがとても自然で素晴らしい。サビのエモーショナルな盛り上がりもどこか陰影を感じるコード感が印象的だ。ギターソロに続くスネアロール、畳み掛けるサビまで一歩一歩着実に進行するアレンジが素晴らしい。

Yuuki Nagatani - Pink wave:冒頭のミニマルなリズムトラックから切り替わる瞬間が印象的だ。トーンは全体的に極めて抑制されている。また絞り込まれた音数が持つ色彩感覚と1音のシンプルな長音がテーマを構成しており和声を提示する様はポストパンク、インダストリアルから遡りロシア構成主義的な絵画を連想する。

Joshua Okazaki - The Cactus Flowers:リバース的なエディットから一転してリズムボックスとエイトビートを軸にしたバッキングのコードにスピークマシンやボコーダー、ファンキーなベースやピアノ、あらゆる要素がポップなままコンパクトに収まっている姿やバランスが素晴らしく、どことなく戸田誠司に近い世界観を感じた。

にゃんでぃーぬ - Forbidden Song アイはキミの創造性を奪わない:ボーカルパートのボカロ特性を活かしたメロディーラインと譜割りとその一方で限りなくダイレクトにミックスした質感のバランスが印象的だ。リズムトラックはリスニング系のテックハウスやポストVaporwaveを連想するミニマルな世界観でメロディーラインの起伏との対照が面白い。

Phonon notes - morning whisper:抑制されたアルペジオの中に織り込まれたメロディーと旋律を支える和声が叙情的な空気を醸成する。タイトルから連想する通り小さな囁きを描いたような楽想になっている。ビートは柔らかい質感をもっているが硬質な感触を受ける。ピアノフレーズの柔らかさに対して切り込んでいく構図がそうさせるのかもしれない。

楽曲レビュー:2024年1月追記

ANACHRONISM - JINGLE PAIN:パワフルなシャッフルのドラムから始まるパワーポップが歌メロのタイミングでエイトビートに切り替わる瞬間がとても印象的だ。重奏するギターの絵画的なアプローチからリズムチェンジを経て再びエイトビートに戻る自在なアプローチと終盤に向けた疾走感が心地よい。

つばさ∞ - Storyteller:アンビエント色の強いギター音のループは、ボーカルパーツが組み込まれた瞬間にリズムが明らかになる。畳み掛ける和声を高音から作り込んでいく様や中盤から織り込まれるストリングスのアレンジが素晴らしい。プログレッシブエレクトロニカを軸にしつつ幅広いオーケストレーションを織り込むアプローチが素晴らしい。

ヤニカス魔人, 赤丸ディストピア, サタ - 盲目アトラクション:ギターのカッティングから疾走を予感させるが、バンドが入ると雰囲気は一変してリズムトラックの抑制具合やボーカルの質感はむしろポストパンクやゴシックを思わせるサウンドになっている。ラジカルなギターソロのオープニングやその後の終盤の展開に惹き込まれる。

Sphere within Sphere - 96/99:球体を内包する球体という絵画的なユニット名と思念的なタイトルがノイズに透明感を織り込んだサウンドに切り込むように見事に符合するように感じた。前半のECM以降というような質感が中盤に一転してポストロック化していく。ポストエブリシングの世界観に圧倒される。

東京ガロンヌ - 乙女前夜祭:Do You Remember Rock and Roll Radio? を連想するイントロから2 Toneに移る流れはポストパンク直球のアプローチが心地よい。抒情的な展開とエンディングの畳み掛ける言葉を含めて様々な要素が織り込まれているが詰め込まれた感じはなく、むしろ2 Toneのテンポに表れるように緩やかな空気が全体を支配している。

KOJI The Planet Stoned Plus - Plastic Soul Planet:16ビートの細かいハイハットに浮遊感溢れるギターから始まり、歌が入るとシンプルなパワーコードをアノラック的ボーカルメロディーラインが牽引する楽想になる。タイトルから連想するフェイクソウルをリズムトラックで打ち出しつつ、間奏やエンディングを含めて随所にサイケデリックな感触を織り込むスタイルがとても印象的だ。

えれきトリック - get new emotion:エッジの効いたギターのカッティングフレーズからメロディーが浮かび上がる冒頭のアプローチが素晴らしい。ブラックシネマのサウンドトラックのようなオルガンがギターのメロディーにつかず離れずの緊張感を保ちながらリズムトラックは密室ファンクを叩き出しながら互いに覚醒した楽想を作り上げているところが印象的だ。

フロリカ - recollection:メロウなエレピと硬質且つファンキーなベースを仲介するドラムというような3パートのアンサンブルがとても印象的。中盤のブレイクをはさんで転調やリズムチェンジを経てピアノソロに向かう場面で3つのパートがそれぞれに盛り上げていくアプローチが素晴らしい。

ASTRALLABO! - hippies head to KYOTO:様々なリズムトラックが入れ替わりつつ登場する一方で一定のギターフレーズがそれらをつないでいる。その関係性が安定感を下支えしているように思う。1990年代のヒップホップやポストパンク的な要素をそのままコンテンポラリーな表現に置き換えたミクスチュアサイケデリックポップというような様相が面白い。

N.B.S, DJうちそん - FRONT LINE:叙情的なコードによるピアノとスクラッチから、”in the place to be”。何度か再生するうちに伝統的な、まさにここにありというリリックがフックから続くリズムトラックの変節部分のラジカルさとの対比でとても奥行きを持って迫る。フックを終えたエンディングは無言の余韻が感じられるアレンジが素晴らしい。

にゃんでぃーぬ - 神秘の妖精:メランコリックな和声はPFMを連想する。一方でシンプルなエイトビートにフックのメロディーの断片やリズムトラックのブレイクはテクノポップとの親和性が高い。北欧神話とイタリアプログレと808を基調にしたテクノポップのミクスチュアがラジカルになり過ぎずコンパクトに収まっていて心地よい。

楽曲レビュー:2024年2月追記

Like This Parade - Flying waltz never make you feel alone Pt.2:シンプルなメロディーのワルツ。SEを背景に演奏されるトイピアノやリコーダーとユニゾンのボーカルからは童話的世界観も連想するが、シンセベースとリズムボックス、エンディングのサウンドコラージュはベッドルームアヴァンポップ寄りのアプローチで両者のバランスが面白い。

さいだいエム - 人間性:変拍子を違和感なく収める各のパートの組み合わせと静かな転調の仕掛けが素晴らしい。エンディングに向けて徐々にまとまりを見せて最後に複雑な拍子のまま大きな渦を巻くような楽想がとても印象的だ。一聴して気になるポイントが繰り返し聞くことで少しづつ解決していくプロセスはサウンドのポップさと対照的なアプローチだ。

Phonon notes - Marine Station:イビザ系バレアリックサウンドが心地よい。静かなパッド系の音響に深いエコーのピアノと逆回転を意識したエフェクトはどれも美しく、淡々としたリズムトラックに馴染んでいる。エンディングにかけて少しずつリズムが剥がれ落ちていく様がチルアウトスケープを垣間見せて興味深い。

AKR-FITW - H Y R - ASA Mix:冒頭の1980年代前半のクラフトワークを思わせるミッドテンポとクリアなアプローチが素晴らしい。その後、抽象的な各パーツが映像志向を感じさせる展開からブレイクを経て、湿り気ある音色をピックアップしながらトータルでは乾いた質感を醸し出す不思議なミックスで展開する。

5mm - Bicycle Rider:SEから入るがテクノポップ風のイントロが5mmサウンド的には意外な導入になっている。1980年代のムーンライダーズを思わせる起伏あるシャッフルのメロディーとラジカルで細かいシーン展開をみせるアレンジが素晴らしい。サビの転調はトランスポーズでは収まらない必然性ある美しさを感じる。

House Of Tapes - Monochrome Scream:ノイズの中に配置されたパーカッシブなサウンドに、無調メロディー、一方で比較的シンプルに刻まれるリズム。これらが同時に一つの景色に放り込まれる前半部分のアプローチは非常に絵画的だ。中盤は徐々にノイズが規律に収斂していく。その解決感や視界がくっきりしていくような様がとても心地よい。

S.虚無 - ドリーム行進曲:戦後歌謡的フィーリングと1980年代のシティポップアプローチをわずかな転調でつなぐ楽想がとても面白い。どちらかをノベルティーに位置付けることはせず、間奏は両要素が入り混じるアレンジで、両要素に対して極めてフラットに接している印象を受けた。エンディングのリフレインとフェイドアウトが美しい。

Yuuki Nagatani - Dragon:エフェクティブなオープニングはインダストリアル系の音響アプローチを感じるがすぐにシーンを切り替えて淡い和声に移り変わる。その後これらが徐々に重なり合う。アブストラクトだが構造的な組み合わせが印象的だ。音数が絞り込まれているために淡い音像を一つ一つ追いかけることができる。とてもモダンな手法だと思う。

SMOOTH ARCHITECT - She Is Beautiful:まず非常に美しいコード進行だと思う。多幸感や解放感につながるフィーリングをもったデリックメイ的な和声アプローチが繰り返されることで楽曲のイメージが次第に強固になっていく。奇妙なメロディーのボイスの奔放さはリフレインの中で徐々に馴染んでいく。特にベースラインとの組み合わせはとても印象的だ。

YISKA - さよなら、嵐:歌を歌らしく響かせる乾いた音響が心地よい。転調の後に続くサビからギターソロまで続く疾走感はその後も一貫しているが一方で、ソロ開けからのワウギターのアクセントや中盤のクールダウンしたシーンと続くブレイクを多様した展開などワンコーラスごとに変化を加えた細やかなアレンジが楽想に奥行きを持たせている。

Loxo - OuterLink:テックハウスやリスニング系のテクノフレームを活かしたリバーブとミニマルトランス的なパーカッシブな中音域が心地よい。フレーズはシンプルに1小節づつ組み立てられていてミニマルな手法が心地よい。終盤に向けて徐々に音が削ぎ落とされていく展開とシンセベースフレーズの一瞬の乱調が美しい。

楽曲レビュー:2024年3月追記

Phonon notes - 曇天泣:アコースティックギターと静かなリズムトラックを軸にしたサウンドの組み合わせがオーガニックに響く楽曲前半からブレイクをはさんでミニマルな電子音を織り込みつつリスニング系テクノに通じるキックが牽引する楽曲後半へのブリッジングがとても上品なアプローチだ。タイトルの詩情とフラットな楽曲の質感の組み合わせが面白い。

Sphere within Sphere - Centrifugal Integrator - Streaming Edit:あらゆる要素を飲み込むポストエブリシングと、あらゆる要素を分離する遠心分離(Centrifugal Integrator)の組み合わせが詩的だ。全ての音を詰め込んだ状態がノイズだとして、その一方で純度の高い波形を音階だとすると両者を組み合わせながら一定の和声感を提示する手法が素晴らしい。

Fabrizio Budino, Geert Bekaert - That spark of consciousness:Sun Electricを思わせるミニマルなベースラインとバレアリックなフレーズの組み合わせによる緩急が繰り返される中で徐々に両者が融合していく。両者をつなぐのがボイスパートである事は示唆するところがあるように思う。終盤のリスニング向きに収束していくアプローチが美しい。

5mm - 門の老犬:エレピによるミニマルなフレーズから電子音とゆったりしたリズムに入ると、Mummerの頃のXTCのようなフィーリングをもった楽曲がスタートする。浮遊感を楽曲はフックの最後に抑えきれない変拍子が挿入され、エンディングではそのままプログレッシブなギターソロに突入する。一連のアレンジのバックグラウンドに音楽愛を感じる作品だ。

egoistic mob characters - beast of beautiful mind:アルペジオの断片からはじまるイントロはエレクトロなビートによるトラックに入り一連の連なるフレーズを見せる。この前半部分は見えないフレーズが徐々に見えてくる解決感がある。一方、ブレイクを挟んでビートが複雑化した後半は見えていたものが徐々に隠されていくような感じがある。印象的な構成だ。

ASTRALLABO! - 旅に出ようよ:メンフィスソウルを連想する質感から始まり徐々に複雑化するバンドの演奏がシンプルなメロディーの後ろで多彩なロックンロールを織り込んでいく。中盤の逆回転を組み合わせたサイケデリックな展開やエンディングのノイジーなギターなど、純度の高い音に情景を含む歌詞の組み合わせが印象的だ。

Joshua Okazaki - GENESIS ~Theme~:アブストラクトなfrom Chaos to Light、エレクトロファンクとエレクトロニカをつなぐ1980年代後半の電子音楽を連想するNoah’s Arkを経て本テーマにつながるシングル収録曲一連の作品から、柔らかなイントロの乾いた空間やネオクラシカルなピアノ、エレクトロボイスやパーカッションの背景が見えてくる。美しい。

保岡 真仁 - World end:シンプルなエイトビートを刻むリズムに押されて楽曲が始まる。前半部分ではアコースティックギターのアルペジオがストロークに変わり静寂が訪れるとキックが引き立つ両者のバランスが面白い。後半はシューゲイズアプローチでどこか内向的なリズム感がとても印象的だ。

空白 - 低気圧のせい:重く沈むキックやピアノの低音がタイトルを写実的に表現しているように思う。前半はスロウコアを思わせるタイム感だが一音一音は力強く、中盤以降の盛り上がりが明確にシーンを切り替える。その一方で演奏そのもののテンションは前半部分からすでに中盤以降を予見するアプローチだ。両者を切り分けつつ演奏表現で紡ぐ方法が印象的だ。

N.B.S, kabu, TO-Ka, DJうちそん - FUTURE SHOCK:クラシカルなマイナーコードが美しい。ハードコアの流れを組んだラップとバイレファンキ的なグルーヴの組み合わせが心地よい。中盤、フリーにビートが揺らぎながら展開をフックにつないでいくシーンはとても印象的だ。フーディーの重さとフロウの巧みさが楽想を牽引するスキルが心地よい。

Damage Yakkun - Dramatic:インディーサイケ的なトラックと呪術的なファルセットと節回しを伴ったフロウの組み合わせがとても印象的だ。倍音を含んだ声のポストパンク的なフィーリングとNyege Nyegeに通じるブードゥー感はボイスパフォーマンスの強さを感じた。中毒性を放つメロディーが随所に仕込まれていて惹き込まれた。

Loxo - Remain:リムショットをキーにしたダブテクノ的な展開と909のオープンハイハットを軸にしたミニマルな展開の両方がバランスするマイナーコード基調の前半からアルペジエーター的なフレーズが牽引する後半部分への移り変わりが美しい。フレーズが入ることで和声感が下がるというのはとても面白いアプローチだと思う。

楽曲レビュー:2024年4月20日追記

保岡 真仁 - Brand New World, Brand New Days, Brand New Story:4小節からなるコードのモチーフを基本構成にしつつ、ギターは緩急つけながら、ドラムとベースは全体の質感を統一させながら細かなアレンジでさまざまに展開させていく。中盤のシューゲイズアプローチの中で行われる転調がもたらす感覚の変化がとても面白い。

ANACHRONISM - LOVE ZOMBIE:畳み掛けるように繰り返されるフレーズから始まり、シンガロング的なフレーズに流れていく。美しいメロディーとシンプルなアプローチを繰り返すサウンドに身を任せるような心地よさがある。最後は楽曲の余韻が残る中、ポストパンク期のレジデンツのような不思議なサウンドが挿入されていて多幸感とのバランスが印象的だ。

House Of Tapes - I was You:重層的にノイズと和声と音響が組み合わさり、その渦の中からリズムが生み出される冒頭のアプローチが素晴らしい。電子音を軸にしつつジャンル未分化の世界に音楽を回帰させるようなエクスペリメンタルな力強さを感じる。例えば音楽と非音楽というような二元的な見方に止まらない表現に中毒性がある。

KOJI The Planet Stoned Plus - Summer Siesta:やわらかで浮遊感のあるアルペジオとグルーヴを湛えたベースに支えられたサイケデリックなボーカルとエレクトロニカ的なリズムアプローチが素晴らしい。中盤のボーカルの存在感や終盤のインプロビゼーションなど静かに覚醒した表現がとても映像的で美しい。

にゃんでぃーぬ - アイムアステイン:エレポップ的なエイトビートのシンプルなイントロからはじまる。流麗なメロディーが時折大きく音階を上下させるアプローチが印象的だ。タイトルに使われている「ステイン」から連想するのは表面付着だが、メロディーの乖離の深さに表象されるように本作のそれは表面に留まらないように受け止めた。

5mm - チミを知りたいのさ:強めのビートの英国気質あるグルーヴとピアノが牽引する変拍子で5mmらしいプログレッシブポップが展開する。コーラスに覆われたサビの転調とその後の不穏なピアノとギターフレーズによる間奏のつながりがとても印象的だ。淡々と進行する様子と相反する割り切れない小節数のギャップが素晴らしい。

Phonon notes, 知声 - 心透:インストから歌ものに進出したPhonon notesが選んだのはChis-Aという中性的ボイスであるところが非常に興味深い。歌メロを出していくことで作風が具象化したように感じる一方で従来と変わらない淡さも感じる。タイトルに込めた詩情がそのまま歌詞に流れ込むアプローチが心地よい。

ASTRALLBO! - 010 (パンクス、月へ行く):1990年代のインディーダンスシーンを思わせるベースとリズムトラック、オルタナティブなギターと東海岸のハードコアヒップホップ、プリミティブなパーカッション、サイケデリックなコード、日本の黎明期ヒップホップや野外フェス仕様の邦ロック、ASTRALLBO!のあらゆるルーツが有機的に埋め込まれた名作だと思う。

楽曲レビュー:2024年5月6日追記

東京ガロンヌ - イントロダクション〜ワルプルギスの夜より〜:ワルプルギスの夜とは一般的には五月祭前夜のプリミティブなfêteを指す。ギターのフィードバックノイズと変調されたサウンドラージュが入り混じるアプローチがアルバム導入部分の役割を果たし、アルバム上では本トラックの次に配置された楽曲の冒頭のドラムフレーズへの橋渡しになっている。

Burma Roadhouse - Night Walker:スモーキーな感触を含んだスウィングのリズムが心地よい。メカニカルなピアノのバッキングとペンタトニックを自在に操るギターソロとクールなトランペットによるテーマの組み合わせが素晴らしい。ストレートなジャズではなくどこかルーズなロック色があるところがとても印象的だ。

S.虚無 - メロン色の時代:メジャーコードのシンプルなアルペジオに合わせて歌われるメロディーは抑制とエモーショナルな感情が入れ替わり現れるような雰囲気がある。中盤からのリズムトラックでこの曲のギターポップ的な骨格が見えてくる。1980年代のUKインディーバンド的な緩急を伴ったアレンジが素晴らしい。

Phonon notes, 可不 - 或いは憂い:粗いノイズを伴った和声が支えるイントロから、トラック数を落としたボカロパートへの繋ぎは邦ロックの流れを感じてとても面白い。1コーラス目のベースラインの躍動は2コーラス目では削ぎ落とされている。一方音数は徐々に増えていく。主題を設けずインプロビゼーションのようにラインを辿るメロディーは中毒性がある。

保岡 真仁 - 刹那 - Ver.Naruko:性急なエイトビートとシューゲイズは従来通りだが、エレクトロアプローチの代わりにボーカルが入る事で見え方が変わってくる。ブレイクを経て伸びやかな歌が終盤につないでいくアレンジが心地よい。橋渡しされた硬質なベースとギターはボーカルとは対照的にミニマルだが温度感は歌を引き継いでいてそのバランスが印象的だ。

Damage Yakkun - Atarimae:オートチューンとアヴァンヒップホップトラックにストリングスの組み合わせで最初から最後までフックが続く。テンションの高いラップがハードコアパンクのようにメッセージを打ち出し続ける。埋め込まれたメジャーコードがメッセージに溶け込み、トラックとラップの親和性が高い楽曲に仕上がっている。


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プレイリストを作ってみました

全日本プレイリスト協会にファイルされているアーティストの皆さんの他の作品も拝聴してその中から可能な限りバレアリック寄りなサウンドを選曲してみました。


全日本プレイリスト協会に関連するnoteご紹介

全日本プレイリスト協会 "Indie Waves Ride on!"

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