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おんなの行く末

若いころ、ほんの3カ月ばかり、超高級とされる大阪の会員制クラブでコンパニオンのアルバイトをしたことがある。背が167センチあったので、採用されたようだが、ずいぶんと割の良いバイトであった。

ロングドレスを着てエントランスで待機し、客が来たら席に案内する。指名のホステスが来るまで座りホステスが来たらタッチ。ただそれだけの仕事。

なかには、ホステスではなくコンパニオンに興味を示す客もいて、鼻の下を伸ばした客は、ホステスに気づかれぬようチップをくれる。若い女というだけで、オッサン客がチヤホヤしてくれるのだから、この商売、ハマってしまえば怖いことになる。

幸いにも私は、オッサン族の口車に乗ることなく足を洗ったが、中には美味しい商売とばかり、お水の世界にハマって、にっちもさっちもいかなくなった女たちも多い。

クラブでは、毎夜のようにショーが行われていた。新人歌手、ダンサー、マジシャンなどショータイムの一番人気はやはりヌードショー。それも胴長短足の日本人ではなく金髪碧眼の迫力ボディである。

ある夜。珍しいグループ客が来た。オバハンのてんこ盛りである。十数人はいただろうか。ホステスたちは席に着こうとしなかった。何しろ、女性を指名して指名料を払うことすら知らない一見客。会員制なのに入店できたのは、誰かの旦那の紹介でもあったのだろう。私たちコンパニオンが相手をさせられた。

とはいえ、世間知らずのバカギャルだった私たちと、これまた世間知らずの昭和の専業主婦たちでは、会話など成り立つはずもない。

彼女たちの会話といえば、亭主の悪口、子供の自慢、人のうわさ話。何がおもろいねん、である。同窓会流れの主婦たちが、興味津々、みんなで入れば怖くない、とばかりに勢いで来店したことだけは分かった。そういえば、ビートたけしのギャグが流行っていたっけ。

相槌も打てず、私はただ座っているだけだったが、オバハンたちの席はステージの真ん前。この日は外国人ダンサーのセクシーなヌードショーだった。

色っぽいピンクの照明下、ステージに飛び出してきたダンサーは、私と同じ年頃のムチムチプリンのとても可愛い女の子。金髪でも碧眼でもなかったが陽気なイタリア娘といった感じでショーは底抜けに明るく、日本人ダンサーにまとわりつく隠微さなど、これっぼっちもない。

「や~ね。何を考えて人様の前で裸になれるんでしょ」

「あちらの人ですから」

「でも、スタイルいいわねぇ」

「私だって、若い時はなかなかだったわよ」

私は、可愛いダンサーと、オバハンたちの体型をそっと見比べた。

高価そうなスーツやワンピース。その下に隠れているのはガードルからはみ出した肉まんじゅうか、あるいは萎びて垂れ下がった貧弱な乳房か。

こんなオバハンにはなりたくない! 
固く誓った20歳の秋……。

そしてあれから幾年月、どころか数十年。

亭主の前でも平気であぐら座り。お笑い番組を見てはガハハと大口開けて笑う。あの時のオバハンたちよりパワーアップした私が、ここに居る。