藤森かよこ『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください』を読んで
この書籍はタイトルの緩急が凄い。
書籍名に「馬鹿ブス貧乏」(以下 3B)という男性が女性に向かって絶対に口にできないパワーワードを3つも含んでいながら、「あなたに愛をこめて書いた」「読んでください」という頭をなでるようなソフトな言葉で締めている。間違いなくタイトル勝ちできるだろう。
この書籍は自己啓発本だ。一般に自己啓発本は豊かさや成功を求める人に向けて書かれた本がほとんどだが、この本は一味違う。目指すところは幸福感と感謝に満ちて死ねるようになることで、積極的に成功や豊かさを取りにいく攻めの本ではなく、失敗を回避することで幸せになるための守りの本だ。だから読んでいい気持に陶酔できるタイプの自己啓発本ではない。
男性の私が女性向け自己啓発本を読んでみようと思った理由は、まず私自身が女性の一端をこの本を通して知りたいと思ったからだ。私には更年期の妻と高校生の娘がいるので、彼女たちを理解するためになるだろうと期待した。だからこの本の対象読者ではなくても読んでみようと思った。また、この本を妻や娘が読めば何かの役に立つかもしれないと言う期待もある。
この本は面白く、とても役に立った。また今後も役に立ちそうだ。
この本は3部構成になっていて、青春期、中年期、老年期と人生論が展開しているが、私が50代ということもあって中年期と老年期はとても有益だった。青春期は著者の藤森かよこ氏の端的な文体が良いテンポで読みやすく、3B の使い方がうまく面白かった。
この本は本文中に 3B の出現頻度が多いところほど面白い。人生を俯瞰する高度が高いほど 3B を使用する回数が多く、筆致の切れ味が鋭い。現在進行中の老年期を語るところはまさに匍匐前進の趣で、若い人には有益であっても実感がわかず、あまり楽しめないかもしれない。
この本で気になるところもあった。
著者は自分のことを低スペック女子の成れの果てと言っているが、仮に著者が低スペックだとしてもその中の上位2割にはいると思う。
ざっくりと高スペックの 3K(賢い綺麗金持ち)と低スペックの 3B(馬鹿ブス貧乏)の比を 2:8 と仮定してみる。3K が一つでもあれば上位2割に入れるだろう。すると、彼女は全体の上位36%以内に入っていることになるので世間的には高スペックだ。もっとも私から見ると著者は上位2割以上の高スペックの人にしか見えないが。
この本では馬鹿とは一を聞いて一を知るのが精いっぱいの人、ブスとは顔やスタイルで食えない人、貧乏とは社会的経済的大変動があればすぐに食い詰める人としている。
これは 3B ではなく普通の人だと思う。普通の上位だ。普通は一を聞いて一を知るなんて高度なことは無理だし、外見で食えるどころか見た目を褒められるのは悪いことの前兆くらいしかないし、もうすでに食い詰めている。3B の底は深い。
リアルガチの 3B は本を買わないので書籍の段階で選り分けられ、本の厚さでもふるいにかけられ、最終的にはまえがきの段階で振り落とされるだろうなと思った。もっともそれは著者の意図的なふるい落としなのかなって気がしないでもない。
私が読んで特に勉強になったのは中年期の章の更年期についてだ。女性の更年期について私はほとんど知らなかったし、妻も更年期に入りつつある状況なのでとても参考になった。妻も参考にするだろう。
あと、本書で通して語られている学ぶこと、学び続けること、学び直すことの大切さは肝に銘じておかなければならないと思った。人が一生かけて学び続けたところでこの世は手に負えるものではない。それでも人は学び続けなければならないのはなぜか。
著者は学び続けることによって現在と未来に関心を持ち続け、次世代に対して無関心にならず無責任にならないように説いている。これは著者の美学だ。私は藤森氏のこの考えに触れられただけでもこの本を買ってよかったと思えた。
最後に。私の勝手な印象だが、著者の藤森氏は同性にモテそうな気がした。動画で見た印象ではカリスマ性があると感じた。
あと個人的なことだが、私の母の師匠にちょっと似ているような気がした。私の母は田舎の芸妓だったが、その師匠の姐さんの語り口に本書は似ていた。私の子どもの頃に姐さんはいろいろ世の中のことを話してくれた。この本を読んでいてそんな懐かしさを感じた。本当に個人的な感想で、読者にはなんの参考にもならないですね。