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標本作製に挑戦する、後押しをしてくれた本 8選+α

少し前から、博物館の標本作製のお手伝いを始めました。(...といってもまだ始めたばかりで、まったく役には立っていないのですが)
実は、学術的な標本の価値とか重要性とか、そういったことに最初に(ちょこっと)関心を持ったのは東日本大震災のあと。つまり、今から10年以上も前なのですが、その時は自分が標本づくりに関わる…という発想にすら至りませんでした。

またクオリティはさておき、標本はどんな人でもつくることができると知ってからも、それを行うことは『死んだ動物と対峙する』ことになるので、ずっとへっぴり腰だったのです。動物の死体を扱うなんて、ましてや解剖するなんて、私には絶対無理…!と本気で思っていました。

※博物館の標本(哺乳類)は基本的にロードキルとか、罠にかかって死んでしまった個体をいただいて作っている。

でも、最近は私のような一般向け、これまでそういった世界に関わりのなかった人でも読みやすい標本や解剖に関する書籍がたくさん出版されています。そういった本をいくつか読んでいくうちに、やっぱり私も標本を未来に残すお手伝いに参加したいなぁとかなり前向きな気持ちに変わっていき、最終的にワクワクが7割、不安が3割くらいになったところで博物館の門を叩きました。

そんなわけで、今回は私が標本作製に挑戦するにあたって、後押しをしてくれた本をいくつかご紹介します。

※私が読んだ順番で紹介します。また、あくまでもお手伝いを始める前に読んだ本です。

①キリン解剖記

キリン研究者として有名な郡司芽久先生の著書。標本についてではなく、キリンの解剖について書かれている本ですが、私の解剖への恐怖心(?)を3段階飛ばしくらいで弱めてくれた本です。動物のからだの構造については以前からずっと関心がありましたが、解剖の写真を見るのも怖いというビビり性分のため、本を読むことさえも二の足を踏んでいました。でも、本書はかわいいイラストで解剖シーンも描かれていて、これなら読めそう!ということで読むことに。

メインテーマはキリンの首の骨に関する新発見の話ですが、子供のころ~学生時代、キリンを研究するに至ったきっかけや、研究室にどうやって動物の死体がやってくるのかなどからわかりやすく書かれており、解剖学に縁遠い私が読んでも非常に面白かったです。

イラストだから…と言って読み始めた本書でしたが、読了後に参加した郡司先生のオンライン講座に参加したときに、実際の解剖の写真や動画も見ることができました。これは私にとって大きな前進でした。

②標本バカ

上野にある国立科学博物館の川田伸一郎先生の著書。モグラ研究者として有名な川田先生のもう一つの顔、標本作製と(動物の)死体集めのエッセイです。雑誌『ソトコト』に連載されていたものだそうですが、川田先生の才筆もさることながら、このテーマを連載にしよう思ったソトコト編集部さんもすごい...!

本書は動物の死体とのふれあい?!をコミカルに表現していますが、博物館や標本の意義、価値、必要性など大事なことはきっちり教えてくれます。標本作製や動物の死体にネガティブなイメージを持っている人でも、読み終わるころにはきっとポジティブに変換されてしまうであろう、楽しいエッセイです。

中学生に標本作製をやってもらうくだりでは、そんな残酷なことを子どもにさせるなんて!的なクレームをいれる大人に対し、それは子どもたちをバカにしているとピシャリ。この部分を読んだとき、あ~、もしかしたら、私は自分で自分をバカにしてきたのかも、できないと思い込んでいるだけかもしれないと思いました。

なお、余談ですがシカ科の動物『キョン』が登場する回が私のお気に入りなのですが、実は本書読了後に我が家に迎えたフェレットの名前はここから取ってキョンになりました。(母からは「イタチなのになんでシカ?!」とツッコミが入りました。)

③大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件 なぜ美しい羽は狙われたのか

前述の『標本バカ』の中で紹介されていたので…ということで読んでみたのがこちら。犯罪そのものだけでなく、博物館、標本の意義について教えてくれるルポルタージュです。標本バカでは著者が、一般向けに平易な言葉で、ストレートに教えてくれたのに対し、こちらは実際にあった標本の盗難事件を通して、自分で感じ取る本とでもいいましょうか。

東日本大震災のあと、被災した博物館の状況などの展示をたまたま目にする機会がありました。そのとき、直観的に、本当に微々たる額の募金をしたのですが、当時はなんで募金しようという気持ちになったのか、うまく人に説明ができませんでしたが、この本にはその理由が詰まっていました。

④新装版 標本の本 京都大学総合博物館の収蔵庫から 

京都大学総合博物館の地下収蔵庫にある、普段は展示されていない標本たちをビジュアルでみせてくれる本です。ひとつひとつの標本にはコメントが添えられています。私の興味の中心にあるのは哺乳類、鳥類なので、なかなか他の生物の標本に注目する機会がありませんでしたが、植物、魚、昆虫など普段じっくり見ることがなかった標本にも、目を向けさせてくれる一冊です。活字が苦手な方にもおすすめ。

⑤アラン・オーストンの標本ラベル

イギリスで見つけたモグラの古い標本と、不可解な日本語のラベル。
そこから、100年の時を超える研究の旅が始まった――。
『標本バカ』の川田伸一郎が放つ、標本謎解きミステリー!

本書の帯より引用

...というコピーの本書。(全部ではないけれど)ここまで紹介した本たちが、これからも標本を集めて未来に残していく意味などを教えてくれる本だとしたら、こちらは標本の過去や歴史をに目を向けるきっかけになる本です。歴史はロマンとよく言いますが、読み終わった後は「標本はロマン!」という気持ちになります。

また、標本とは直接関係ないのですが、著者の川田先生はモグラの研究をされている方で、本来、こういった歴史の調査的なことをする人ではないそうです。本書の中にも、自分の研究を引退してからやるような調査だと言われたりしたというくだりがあるのですが、川田先生はおかまいなし(笑)。この調査のために何度も海外に足を運びます。そんな飽くなき探求心と行動力に勇気づけられる一冊でもありました。

⑥ある葬儀屋の告白

標本の本でもなければ動物の本でもない本書は、たくさんの『死』に、真面目に、真摯に、そして謙虚に向き合ってきた、葬儀屋の6代目の男性のエッセイです。昔は、家族や自分の手で弔ってきた人の死。それを人々はいつからか他人(葬儀屋さん)に任せるようになり、死に触れなくなることで、ますますネガティブな物語に囚われている。現代人は死から離れすぎてしまっているから、余計に死を怖がる。…という著者の言葉にはっとしました。そして、それは人間だけではなくて、動物たちの死においても同じような気がしました。

⑦海獣学者、クジラを解剖する

先日の大阪湾のクジラ(淀ちゃん)の一件で、生き物クラスタ以外にも有名になった国立科学博物館の田島木綿子先生の著書。ときには「死体が好きなんですか?」と聞かれることもあるという田島先生。巨大なクジラの解剖の大変さもさることながら、研究者の方がどのようなことを考えながら仕事をされているのかを知ることができます。田島先生の明るさが文章からにじみ出ており、カラッとしていて爽快な本書は、タイトル通り解剖がメインの本ですが、標本づくりについても触れられています。骨格標本を作るときの除肉については、煮るまたは埋める、虫に食べさせるなどの方法を知っていましたが、馬糞を使って馬の腸内にいた細菌叢に分解してもらう方法もあるというのは初めて知りました。

結構分厚いので、通勤電車で読むことを想定するとKindle版を購入したほうがいいと思ったのですが、表紙のイラストが好き過ぎてソフトカバー版を購入しました。

⑧骨の学校 ぼくらの骨格標本のつくり方

骨の怪しい魅力にとりつかれた生徒達と2人の生物教師、ゲッチョ先生こと盛口先生と安田先生が、骨取り、骨継ぎ、骨拾いに明け暮れ、ついに理科準備室が骨部屋と化す15年間の騒動記。

「BOOK」データベースより引用

今回紹介した本の中では一番細かく標本作製の手順が記載してあって、全身骨格のスケッチから各骨の名称まで記載してあります。豚足骨継ぎマニュアルなんてものまで載っています。表紙を見ても"THE標本づくりの本”といった感じの本書。読んでいるときは、まだ実際に標本作製の現場を見たことがなかったので、細かい手順の部分や骨の名称のページなどはいまいちピンときていませんでした。(今読んだら、またその部分も楽しめそう)。では本書のどんな部分に背中を押されたかたというと、生徒たちの姿勢や取り組み方です。彼ら、彼女らの言動には私のような大人の先入観が見られず、刺激を受けました。

また生徒と著者の先生方のやりとりを見ていると、実はコレ、標本づくりの本と見せかけて教育の本なんじゃないの?という気もしました。こういう先生が学校にいたら、生徒たちの進路の幅もグッと広がるんじゃないでしょうか。理系女子を増やそうなんていう流れのある昨今ですが、男子とか女子とか関係なくて、(生物に限らずですが)こういう教育が小学校~高校までにできていたら理系の人ってもっと増えるんじゃないのかなと思ったりなんかもしています。
※当方はバリバリの文系です。

さて、これで後押ししてくれた本8選の紹介は終了です。最後の+αは、最近の私のバイブルとなっている漫画を一冊紹介して締めたいと思います。

【+α】アヤメくんののんびり肉食日記

町麻衣先生が描く本作。骨が大好きな女子大生が主人公、某大学の生物学科の研究室を舞台としたラブコメディ。標本が主題のストーリーではありませんが、骨も死んだ動物もたくさん出てきてくる漫画です。研究室のシステム(?)や進路についてなど、文系街道を歩んできた私からすると知らないことばかりで、毎回新鮮な気持ちで読んでいます。なので、理系の道を歩んできた人よりも、もしかしたら私のような文系でずっとやってきた人にとくにオススメかもしれません。ほぼ全ての巻、読み終わったあとに中学生くらいのときにこの漫画に出合っていたら私の人生は違っていたかも…と思わずにはいられません。(実際は、学力的な問題で人生が違うことはほぼないと思いますが・笑)

◆◆◆

今回ご紹介した本はどれもかなり一般向けに書かれており、難しい本はすぐ眠たくなってしまう私でも最後まで読み切れた本たちです。その中でも、とくに楽しくやさしく書かれているのは『標本バカ』『海獣学者、クジラを解剖する』『キリン解剖記』かなと思います。

また歴史やミステリーなどが好きな方は『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件』『アラン・オーストンの標本ラベル』が面白いかもしれません。『アヤメくんののんびり肉食日記』はラブコメディと言いつつも、恋愛要素があんまり多くない女性向けの漫画が好きな人におすすめです。

以上です!


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