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アイツ、退学するってよ!せっかく入学したのに1年もしないで中退かよ!

この記事は、かおるこさんの「【サポート企画】記事を書いて、先生への応援&感謝を届けよう!」という企画への参加投稿になります。

私(やらぽん)として人生で初めてのnoteイベントは、noteを楽しむ企画として、7月11日(土)から7月22日(水)までの12日間で開催しているサポート企画でした。

その初となるこの企画に参加して下さった「かおるこさん」が、サポートした金額を還元して先生たちの応援にしようと、ご自分でも独自のサポート企画を考えて始められたんですよね。

その企画の案内ページがこちらです。

今回のサポート企画のご縁で、他にもサポートの循環を回そうと動き始めた方もおられます。

こうやってサポートの輪が広がり、和と話が育っていくことをとても嬉しく感じており、私もかおるこさんの企画に参加させてもらい、枯れ木も山の賑わいで少しでも盛り上げることができれば嬉しいなぁと考えての参加です。

さて、そういうことでこの参加記事は、実話を元にした小説の1章であるEpisode6として書いたものです。

Episode5をお読みになる場合はこちらの投稿ですので、こちらの記事から先に読んでいただければストーリーとして分かりやすいかと。

【気がかりなアイツのストーリー】Episode6

アイツ、退学するってよ!せっかく入学したのに1年もしないで中退かよ!

公立高校の生徒として他の生徒たちと同じように
アイツがなんとか停学や退学にもならずにすんでいたのは
アイツがあまり学校に来なかったからなんだよ。

学校に来たときは、必ず遅刻していたし
終業の合図のチャイムが鳴ったときにアイツがいたことは
数えるほどしか無かったからね。

いつもそうやって、学校をサボっていたから
たまに出てきていても授業について行けないのは
当たり前のことだったと思うよ。

そうだ、アイツが彼女に一目惚れする前のことだ。

学校からの帰り道になってる堤防の道を
最寄り駅まで連れだって帰るボクらの前方から
アイツが歩いてくるのが目に入った。

「こんな時間に、なんだアイツ?」
ボクらは怪訝な顔していたと思うけど
近づいてくるアイツと鉢合わせになったのだ。

「よう!部活、サボりか?」
アイツがボクに聞く。

「いや、試験中だから・・・お前は?」
ボクが聞く。

「オレは・・・退学届、出しにな」
そういえば手ぶらだ。

「え?なんて言った?」
聞こえていたけど、また聞いた。

「オレ、学校やめるのよ!」
得意げな顔に見えたけど。

「なんでよ、なんでやめるんよ!」
熱くなってボクは聞く。

「こんな学校、つまんねぇし・・・」
しかめっ面でアイツが言う。

「おい、考え直せよ!」
とりあえず引き留める、ボク。

そんなやりとりを、あっけにとられたように見守っていた
同じ中学出身の電車通学の仲間たち。

「じゃあね!」
さっさと学校に向かって歩き出したアイツを
引き留めるわけにも行かずに見送ったんだよね。

それから駅までの道のりは
アイツの退学話で持ちきりだった。

駅についてみんなは改札を抜けて
ホームへと急いだが、一人だけ残ったボクは
そのまま待合室に向かっていた。

やはり気になっていたのだ。
アイツが本当に退学するのか
それとも担任の引き留めで翻意するのか
気になったから。

やがて駅に姿を現したアイツの顔は
ふてくされたような顔でご機嫌斜めだったが
ボクの姿を見つけると片手を上げて近づいてきた。

それから電車と自宅の最寄り駅に着くまでの
小一時間の間にアイツから聞かされた話はこうだ。

先生
「お前、こんな時間に何しに学校へ来た?」
アイツ
「退学届の用紙をもらいに来ました」
先生
「お前、学校やめるのか?」
アイツ
「はい、そのつもりで手続きに来ました・・・」
先生
「お父さんは、知ってるのか?」
アイツ
「・・・・・・用紙をください」
先生
「いや、お前には渡さない。気が変わると困るからな」
アイツ
「・・・・・・?」
先生
「お前に用紙を渡してみろ、途中で気が変わるかもしれんだろ」
アイツ
「・・・・・・そんなことないです」
先生
「いや、だめだ!問題児のお前がやめてくれるなら、結構なことだ」
アイツ
「・・・・・・だったら、くださいよ」
先生
「後は先生がきちんと処理しておく!お前は帰れ!」

結局、担任の先生は引き留めるどころか
退学届の用紙をアイツに渡すと途中で気が変わり
学校をやめてくれないかもしれないからと
担任自ら退学届け出の処理をする、ということらしかっった。

それぁひどい話じゃん!
ボクとアイツは大人のやることに憤慨して
担任の先生の薄情ぶりを罵りながら
久しぶりに肩を並べて町まで帰ってきた。

いつもだったら、駅前で別れるのだが
この日はそういうわけにもいかず
アイツが愚痴や不満を吐き出すことに
仕方なく付き合うことにした。

二人してぶらぶら歩いて行き着いたところが
町はずれの松林を抜けた砂浜の海岸だ。

防風林の松林を抜けた先にある砂浜には
遠浅になった海から吹き寄せられる風で
こんもりと盛り上がった小さな砂丘がある。

その砂浜に腰を下ろしてアイツと二人
風に頬をあおられて時間を潰した。

沖合の漁船や飛び交う海鳥たちを
目で追いながら心の中には、アイツとボクには
違う風が吹いていたように思う。

アイツは、心のどこかで
担任が引き留めてくれることを
願っていたのだと思う。

それなのに
さっさとやめろといわんばかりの
担任の先生の態度に腹を立てながらも
表に出すとみっともないという感情を
押し殺していたんだと思うのだ。

語ることも、そんなに長くは続かないよね。

部活の話でいっとき盛り上がっても
誰それが妊娠しただの、警察に補導されたのと
ボクらとは違う世界の話に落ち着いてしまうのだ。

ボクからは、そろそろ帰ろうか、という言葉が
なかなか切り出せないまま、時間だけが過ぎていく。

ボクは黙ったままでいたけど知っている。
アイツが学校をやめると言い出したわけを。

学校にあまり来なかったアイツだったから
校内では大きな事件も起こさずに
停学や退学は免れていたんだけど
なにしろ付き合う仲間が悪かったんだよね。

別の私立校の悪い奴らとつるむアイツに
地元じゃあまり近づかない方がいいと
評判になっていたくらいなんだよ。

1年の3学期が終わる前に予測がつくのが
2年生への進級ができないってヤツ
いわゆる落第ってヤツね。

アイツは登校日数で落第候補だったんだよ。
規定の授業を受けていないわけだから
進級できなくても仕方がないことだ。

だからアイツは、落第がはっきりする前に
自分から退学することを選択したのだと思う。

かっこ悪い落第という烙印を押される前に
かっこよく学校をやめてやる、というのが
アイツの描いたシナリオだったんじゃないかな。

そのかっこよくやめる、ということに
邪魔をしたのが、担任の先生ということなのだ。

引き留められて、なだめられて、惜しまれて
そんな中できっぱりと自主退学する姿に
ある種の自己陶酔感を重ねていたんだと思うのだ。

結局、アイツの思惑は担任に阻止されて
やめさせられるような流れになってしまい
自らの思惑と違う退学になったのだ。


夕闇が迫り来る海岸に人気も無くなり
沖合の漁船もいつの間にか姿を消して
肌寒さが身にしみるようになってから
やっと、二人で腰を上げた。

アイツの家の前まで帰って来ると
アイツを見つけた近所のおばさん
クリーニング店のオバさんが走ってくる。

「お前は、どこをほっつき歩いていたんだ!」
もの凄い剣幕で怒りまくるオバさんに
何のことか分からずアイツと顔を見合わせる。

「お前の先生が来て、さっきまで父ちゃんと話しとった!」
「それやのに、このバカ息子は・・・・・・」

おばさんはアイツの耳を引っ張ると
自分の店に引きずっていった。

アイツもおとなしく抵抗らしい抵抗もせず
耳を引っ張られながらも付いていったのだ
もちろんボクも、後から。


おばさんの話を聞いてみると
アイツの担任が父親と面会に来たらしい。
それも20㎞の距離を自転車を漕いで
山越えで来たというのだ。

時間的には、アイツを学校から追い返して
その足で自転車漕いで来たらしい。

アイツの目から大粒の涙がこぼれだした。
説教しているオバさんも泣いている。

ボクも思わずもらい泣きした。
そうか、そういうことか・・・・・・。
薄情もんの先生なんかじゃ、なかったんだ。

担任はアイツの父親に約束したらしい。
3学期を学校に来さえすれば
必ず進級させるから、と。

今、学校をやめてしまうと
アイツがとんでもない道に外れそうだから
登校さえすれば絶対に卒業させてみせる、と。

父親も泣いて担任に頭を下げていたという。
その一部始終を居合わせて見ていたオバさんが
アイツに狂ったように怒りだしたのは無理もない。

アイツの父親も
「先生の言うことを聞いて、学校にだけは行け!」
そう言っただけだった。

アイツが彼女に一目惚れする前の出来事だ。

そのことがあった次の日に
アイツは学校に出てきた。

ホームルームの前に
アイツが担任の先生に近づいて
頭を下げようとしたんだけど

「おお、出てきたか、それでいい!」

たったそれだけを言って
アイツを手で追っ払う仕草で着席させた。

無愛想だけど、恩着せがましくもなく
担任教師として真剣に生徒と向き合う人だ
そうボクもアイツもやっと気がついた。

アイツと担任の間の出来事は
クラスメイトでは、ボク以外は誰も知らない。

それから学校に毎日登校するアイツの姿に
一番驚いていたのは、それまでのアイツが
豹変したのを目にしたクラスメイトだった。


アイツが未完成のままで
完成品になることを求めて
最初の一歩を踏み出した瞬間が
あのホームルームだったに違いない。

たった一人の先生との出会いで
アイツは人生を変えることが出来たんだよ。

人は外見では判断できない
言ってることだって真情か偽りかわかりにくい
でも行動だけは嘘がつけない

あの日にS先生が自転車漕いで山越えしたのは
アイツの事を心底思う教師の使命感がなせる
まっすぐな行動だったんだろうと思う。

言葉ではなく態度で、行動で示してくれた
S先生の教えは、アイツとボクの胸に
今もしっかりと、刻まれているのだ。


かおるこさんの「【サポート企画】記事を書いて、先生への応援&感謝を届けよう!」という企画への参加投稿でした。

#先生応援  
#かおるこサポート企画



この記事をわざわざ読んでいただいたご縁に感謝します! これからもクリエーター活動にがんばります!サポートを心の支えとクリエーター活動に活かしますので、よろしかったら応援よろしくお願いします。