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コロナ渦不染日記 #44

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八月二十四日(月)

 ○朝からうだるように暑い。一日、汗みずくになって動き回る。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、四九三人。
 そのうち、東京は、九五人。
 新規感染者数が、かなり減少しているように見えるが、また明日から増え始めるであろう。

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八月二十五日(火)

 ○仕事がにわかに忙しくなる。どこも夏休みが終わり、本格的に業務を再開したということか。

 ○最近めっきり読書量が減っているので、どこかで読書をする時間を取りたい。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、七一八人。
 そのうち、東京は、一八二人。


八月二十六日(水)

 ○仕事の難所を、うさぎらしく、脱兎のごとく駆け抜けた。

 ○本日の、全国の新規感染者数は、七一八人。
 そのうち、東京は、二三六人。

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八月二十七日(木)

 ○ここ数日、別の現場で、それぞれ無茶ぶりというか、丸投げされる。業務を外部委託するというのはそういうことではあるが、それにしても意識が低すぎると思わざるを得ない。

 ○唯一の癒やしは、現場近くのラーメン屋である。ねぎチャーシューメンを頼んだら、こんなすごいものがやってきた。

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 ぼくは、焼き豚より、煮豚のチャーシューのほうが、ほろりと崩れる食感があって、好みである。その好みに、ここまで合うチャーシューが出る店もめずらしい。しかも、辛味ねぎにはショウガでも味つけされていて、肉厚のチャーシューにいいアクセントになっている。麺はもちろん細麺、硬めにゆでてある。魚介だしのスープは絶品だ。
 そして、写真上部の、そっけないゆでたまごをご覧あれ。運動会の昼食時に、友人の家の弁当箱からごちそうになるたぐいの、きどらないゆでたまごである。うれしくなってくる。
 おなかいっぱいになって店を出たとたん、汗がぶわっと噴き出した。あわてて日陰に入り、ペットボトルの麦茶をごくごくと飲んだ。

 ○仕事終わりに、現場近くの団地に、灰皿のついたベンチを見つける。あきらかに昭和の風情残る団地で、そのベンチも、団地の一部である商店街の一角にあった。うす汚れ、さびのういた、スタンド式の灰皿だ。
 ベンチに座り、タバコに火をつけた。夕日がちりちりと耳の裏をつついてくる。少年時代、こういう団地が怖くてしょうがなかった。ぼくたちうさぎのすみかは穴のなかであり、つまりは地下にある。人間のすみかは、家やマンションであり、つまりは地上に伸びていく。なかでも、団地は、まるで巨大なアリ塚のようで、そのくせ夕暮れになると、中庭にも外に面した通路にも、人っ子一人いなくなって、まるでカタコンベが裏返って地上に出てきたような、穴だらけの巨大なサンゴが死んでかたまったような、不気味な印象を受けたものだ。
 その印象を元に、小説を書いたことがある。そのあとで、小松左京氏が、そういう印象の小説を書いていたことを知って驚いた。——そんなことを思い出したところで、タバコが燃え尽きた。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、八六四人。
 そのうち、東京は、二五〇人。


八月二十八日(金)

 ○朝の電車で、マスクをしていない、人間の女性を見た。イヌやネコや馬やクマはもちろん、他の人間もマスクをしているので、その人だけよく目立つ。
 とはいえ、そのことを、おもてだって気にするようすを見せるものはいない。みんな飽きているのだろう。ぼくはもともと気にしない。が、飽きていないわけでもない。

 ○今日の現場はうまくいった。ほくほくして帰る。

 ○夜、動物マッサージを受けていると、あやうく眠りそうになる。この一週間の、慣れない現場と暑さで、疲れがたまっているようだ。

 ○さいとう・たかを『影狩り』十巻を読む。

「諸藩のうちで、勢力を強めている、あるいはふところ豊かな、将来脅威となりそうな藩を取り潰すための口実を探り、なければ作り出すために、幕府が送り出す忍者『影』。この脅威から各藩を守るべく雇われる、凄腕の浪人三人を、余人は『影狩り』と呼ぶ」
 ……という設定の短編連作形式のシリーズは、この巻をもって完結とあいなるが、最後の二話で、いささか強引な「どんでん返し」が開示されるのは、続けようと思えばどこまでも続けられる話を、強制的に区切ったからであろう。しかし、その「どんでん返し」が、うまく話を区切れていたかというと、そうはいかなかったように思う。これまで少しも臭わされることのなかった「真相」が明らかになるのもさることながら、二転三転する「真実」の行方が「どうでもいい」に落ち着くのは、さすがにテキトー過ぎるように思われる。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、八七六人。
 そのうち、東京は、二二六人。



→「#45 うさぎたち、西へ」



引用・参考文献



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/


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