ニンジャークルスムン
(これまでのあらすじ) ソウカイんニンジャーの勇士[イジャー]、ミニットマンとイクエイション。ニンジャークルスムンを待ち伏せした二人[タイ]のうち、イクエイションやー真っ二つにされて死なりーん。しかしミニットマンやー仲間[シンカ]の死ぬんと引き換え[ケーイー]に、ニンジャークルスムンの正体[フントー]に迫る手ぃ掛[ガ]かいを掴んだのサー。
ぞっとするほど暑[アチ]さん地面[ヂー]を全身で味わいながら、ミニットマンやー十年前の「イクサ」を思[ウビ]ん出[ジャ]すん。敵地の真っ只中で、彼の部隊は母体に捨て[ウッチェー]らりゆん。とかげ[アンダチャー]ん尾[ジュー]のように、切[チ]り捨[シ]てぃらりゆん。死に残[ヌク]ゆんは、彼とイクエイション二人だけ[タイビケーン]。あのときもこうして、暑さん地面に横になり[ニントーン]、じっと待[マ]ち続[チジ]きゆん。
そしていま、彼の横にイクエイションやー居[ウ]らん。
ミニットマンの体を熱風[アチカジ]ぬ乾か[カーカラ]すん。
アキサミヨー。アキサミヨー、イクエイション。
しかしこの暑さんやー天[ティン]の計[ハカ]れーだ。ニンジャーに涙[ナダ]やー許さりんのだから[ドゥヤクトゥ]。
ミニットマンやー目[みー]を閉じた。脳裏に思ん出すんは、イクエイションの死ぬんの瞬間サー。
「グブリーサビラ!」
イクエイションはそれだけ言[イ]ゆんがやっとだった。切腹[シップク]の時間[イットゥチ]すら与えらりぬん。
ニンジャークルスムンの慈悲ねーん一撃やー、バイオキビで全身覆[ウス]い隠[ガチ]りゆんイクエイションん体[ドゥー]を、頭[チブル]から尻[ツィビ]にかけて、切[チー]りゆん。
許さぬ[ガッティンナラン]。そして、ニンジミソーレー。
……ミニットマンやー顔[チラ]を上[ア]ぎゆん。彼が死なんのは、イクエイションにすら明かさねーんかった秘密[カクス]ん術[ジチ]。「ガンジュー」によるものサー。
ニンジャークルスムンやーミニットマンを死ぬんものと間違え[バッペーユン]、去った[ゥンジャル]んサー。その思[ウム]い間違い[バッペー]を、死なして後悔[クーケー]さすん。
……ミニットマンやー、うつ伏せ[ホール]の姿勢から、這いずり[ホーユン]前進を始[ハジ]みーん。地面に残[ヌク]ゆん生体反応を辿り、目指すんは、ニンジャークルスムンの……ねぐら[ヤー]サー。
ミニットマンの這いずり前進は、いまや最高速度[イッペーフェーサン]になっていた。彼の這いずり前進速度は山猫[ヤママヤー]に匹敵するとさりゆん。
生体反応を追い回す[ウィーマースン]こと二十分。ついに彼はニンジャークルスムンの後ろ姿[クサー]を、発見した[カチミル]んサー。
「コクサイ・ストリート」。
露店[マチヤグヮー]ぬ所狭しと[タックヮイムックヮイ]石だたみ[イシミチ]を塞いで[フサジュン]、防紫外線かりゆしウェアを着[チ]いりゆん観光客が、首をすぼめてあちらこちら[アマハイクマハイ]行き交う大通り[ウフミチ]を、ニンジャークルスムンやー真[マ]っ直[トー]ばー歩[ア]っちゅん。それを追うミニットマンの這いずり前進。
ニンジャークルスムンやー車道を渡る。ミニットマンやー距離をおいて彼に続きゆん。
商店街を歩っちゅんながりん、ニンジャークルスムンやーどこからかかりゆしウェアを引[フィ]ちぅん出[ジャ]し、着いん。さらにズキンの上から麦わら傘[ムンジュルガサ]を被る[カンジュン]。ミニットマンやーその手段[ティダン]に唸りゆん。これでもう、彼の出で立ち[カーギー]を気に掛きゆんものなどいねーんくなるんサー。
逆にミニットマンは、自身の格好[スガイ]ぬまだニンジャー装束[チン]のままである事に思い至りゆん。衆目の中でこの出で立ちぬ最良[イッチン]とは言えねーん。
彼やー裏路地[ウリスージ]への入り口[ジョーグチ]ん壁[ヤーヌクビ]に寄[ウ]っちゅ掛[カ]ゆん乞食[ムヌクーヤー]のアロハシャツを慈悲ねーんに奪[ボー]ゆん。
オキナワの紫外線に無防備に晒されれば、哀[アワ]りな乞食やー二十四時間以内に死ぬんだろうサー。ミニットマンの慈悲ねーん手段に反対[ゲー]すんものやーいねーん。当の乞食でさえも。
潰れたブティックの鉄格子や、薄汚い[ハゴー]土産物屋[ナーギムンヤー]、違法チンスコウをおおっぴらに並べた店[マチヤ]、蛍光色のスプレーで「フリムン」「ヨーウスマサン」など、悪罵[ヤナイー]を極めた言葉をペイントされたシャッター……蒸し暑い[シプタイアチサン]空気をかきわけ、ニンジャークルスムンやーモノレールん駅[ティシャバ]へ歩っちゅん行[イ]ちゅん。
ニンジャークルスムンがゲートをくぐってから一分置いて、ミニットマンも構内へと足[ヒサ]を踏み入りゆん。
アクタぬ所狭しと床に積[チ]むらりゆん不潔[シタナサ]ん空間であるが、この駅の利用者は決して少な[イキラシ]くねーん。無気力[マブヤーヌギ]な観光客をかきわけ、ミニットマンはニンジャークルスムンの尾行を続ける。
やがてホームに鉄の塊[クルガニカタマイ]が走りこんできた[アッチュリチューン]。昔[ンカシ]は銀色[ナンジャイル]に光り[アカガイ]んやるはじモノレールの車体も、今[ナマ]は落書き[ガンマリ]ん餌食になってぃりゆん。「アシビ」「ウカーサン」「タックルス」……。
グィーリグィーリー鳴とぅーん、扉[ハシル]が開[フィラチ]ゅん。ミニットマンやーニンジャークルスムンの隣[トゥナイ]の車輌に乗[ヌユ]ん。車輌の窓[アカイ]から、ミニットマンやーニンジャークルスムンを監視[ンージュン]してぃりゆん。どの駅で降[ウ]りゆんサー、ニンジャークルスムン!
「オモロマチ」駅では大勢[ウホーク]降りゆんが、ニンジャークルスムンは動か[ンジュチュ]ぬん。「フルジマ」駅でも。終点[イチバンアトゥ]まで行くつもりやが?
軽い[ガッサン]電子音ぬ「カーブ[マガイ]注意」を合図[イェージ]すん。ぐらりと車体ぬ傾[カタ]んちゅん。ミニットマンやー吊革を強く握った[クンニジユン]。
その一瞬のことサー。ニンジャークルスムンやー隣ん車輌から見[ミ]ーらんなゆん。
「マサカヤー!」やしが、慌てる[サワジュン]ねー。生体センサーぬ道を教[ナラ]すんくりゆん! ミニットマンやー網膜に映し出さりゆん二次元レーダーを確[タシ]かみゆん。ニンジャークルスムンを示すシーサーやー、ほとんど動[ウィー]ちゅんねーん。
だったら……「上サー」
ミニットマンやー窓枠を乗り越え、電車ん側面[ハタ]から上へ登[ヌブ]ゆん。今まさに赤錆びた太陽[ティーダ]ぬ沈[シジ]みゆくん海からの潮風[カジ]ぬアロハシャツの襟をごうごうとはためかし、風ぬ襲いかかりしが、ニンジャーにとって、このぐらいん動作や準備運動[シコーユン]ですらねーんサー。
ミニットマンやー隣の車輌上ん人影を見るん。ニンジャークルスムンやー腕組み[オージーメー]して立ちゆん。
復讐と功名心、そして焦り[アシガチュン]に雲らされてぃゆんミニットマンの意識[ウムイ]も、ここへ来てついに認めざるを得ねーん。――ニンジャークルスムンやーミニットマンの尾行を知っちょたん、やくとぅ、こうして……彼を待ち伏せしたのサー!
「ハイサイ、ミニットマン=サン。ニンジャークルスムンサー」
海風[ウミカジ]に乗って、ニンジャークルスムンのイェーサチぬ届ちゅ。ミニットマンやー怒りに震える[ワジワジー]手ぃを合わせ、イェーサチを返[ケー]すん。
「ハイサイ、ニンジャークルスムン=サン。ミニットマンサー」
再戦[ニドゥイクサ]サー。ニンジャークルスムンが恐[ウトゥ]るしー達人[ブシ]である事は身に染みて知っちょたん。この間合いでイチバン注意を要するのは、サイを防御[フシジュ]しみてぃからの飛び蹴り[トゥブンキーン]サー。それさえやりすごせー、勝機ぬ見える[ンージュンユースン]。サイを撃[ウ]ちゅん落[ウティ]いゆん、飛び蹴りをブリッジで避けるんサー!
「アイッ!」……来[チュ]ーん!
ミニットマンやー迎撃のサイを構えようと[フィチマー]すん。……それで終い[シマイ]サー。
ミニットマンの目ん前、息[イーチ]ぬかかゆんあたいの近[チカ]さんに、ニンジャークルスムンが居[ウ]ん。ミニットマンの胸[ンニ]ん中心[ナカジン]やや左[ヒジャイ]に、温[ヌク]さん感触ぬある。
ヌーガヌーンチ。ユクシ、ヤミセーラーヤー?
――戦ぬ一瞬[イットゥチ]で決着すん。ニンジャークルスムンがミニットマンの胸から右手[ニジリティ]を引[フィ]ち抜[ヌ]じゅん。手の中でまだチムドンドンす心臓[フクマーミ]を無感動に一瞥したのち、彼はそれを握[ニジ]ゆん潰[フィージ]ゅん。モノレールがマガイにさしかかる。ミニットマンやー叫[アビー]ん。
「マブイー!」
モノレールから振[フ]ゆん落[ウティ]とさりがちい、彼の体やー爆発四散[サンジャンクンジャン]すん。
あんしから、モノレールぬブレーキをグィーリグィーリー鳴とぅんに徐々に[クーテーンナー]速度を落[ウ]てぃさすん。
シュリ駅。
物思い[ムヌカンゲー]してぃゆんニンジャークルスムンやー、その数百メートル手前で車輌から飛び降りゆん。壁[クビ]に取り付けられたハシゴをバッペーねーん見つけ[トゥメー]ゆん、ウリを伝って地上に降りるとぅ、ンマやー自然公園の只中サー。
ニンジャークルスムンの頭ん上には、赤い月[チチ]が浮[ウ]ちゆん。古城を囲[カク]ぬん森[ヤマ]ん奥[ウーク]、彼の歩っちゅん先にやー、小[グナ]し堀で囲まれりゆん庭園[ウナー]ぬある。
オキナワん霊力[シー]とぅ聖石[イビ]ぬ領[カキ]ゆん所[トゥクル]、斎場御嶽[セーファウタキ]サー。
ニンジャークルスムンやーゆっくり[ヨーンナー]、おごそかに歩っちゅん……。ああ[アイッ]、なんということだ[アキサミヨー]、見よ[ンーディ]! 彼の背中[クシ]を! ンマに小[グナ]しく張り付きゆん金属[ハガニ]んシーサーを……!
爆発四散したミニットマンのシーサーサー。蛍[ジーナー]んぐとぅ弱[ヨー]さん明滅を繰[ク]い返[ケー]すんそれは、いったい何をニンジャークルスムンにんかいもたらす[クィイン]がやー……?
ウリは、偶然がやー? それとも、ミニットマンの怨念[ヤナムン]か、執念[マブイ]かやー?
シーサーは微弱な信号を何者か[ターガナ]に発信し続きゆん。
あんし我々[ワッター]やー、信号を受[ウ]き取[ト]ぅゆんウヌ男[イキガ]を、知ってぃりゆん。
上空七〇メートル、オスプレイの上に直立しゆん、左耳[ヒジャイミミ]に手を当てぃゆん、ウヌニンジャーを……!
「目標を捕捉したサー」感情んこもらん呟き。
ウリに答え[イレー]ゆんくぐもった通信。沈黙。
再びニンジャやー呟く。「いや[ンパ]、必要[イリュー]ねーん。九〇〇秒後に交戦[イクサ]を始[ハジ]みーんサー」
無線を切ると、ニンジャーやーオスプレイん上から、ゆらりと跳[ト]ぅぶん降りゆん。
斎場御嶽めがけて真っ直ーばー降りゆんニンジャー……フジオ・カネシロ、別名[ビチナー]クラサンニンジャーやー、死闘[イクサ]の予感[メーシラシ]に何ぞ思案[ムネカンゲー]しゆん、ハーチブラーの奥で、静[シジ]かに目を細めるのサー。
(おしまい)
参考・引用文献
「ゼロ・トレラント・サンスイ」(ブラッドレー・ボンド&フィリップ・〈ニンジャ〉・モーゼズ/本兌有 & 杉ライカ・訳/ダイハードテイルズ)
「首里・那覇方言データベース」(http://ryukyu-lang.lib.u-ryukyu.ac.jp/srnh/index.html)
「沖縄方言辞典」(https://hougen.ajima.jp/)
「沖縄口辞典」(http://www.koza.ne.jp/koza_index/uchina-guchi/)
「沖縄用語集」(「沖縄の休日」内)(http://www.okinawa-holiday.net/allabout/glossary.html)
『ひとことウチナーグチ』(沖縄文化社・編)
『方言キャラクターを書きたい人向けの参考書 沖縄編』(CAMEREON JOVE)
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by Bradley Bond & Philip "Ninj@" Mozez
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