コロナ渦不染日記 #76
十一月二十八日(土)
○昨日、書き忘れたのでここに書くが、映画『女の賭場』を見た。
江波杏子さんという女優さんは、出演作をあまり見たことがなかったが、クールな顔だちの美人にふさわしい、こまやかな情感を表情や所作で見せられる女優さんであった。表情の変化が少ないからこそ、別のところで感情表現をすると、そのギャップで感情表現がきわだつのである。
物語は、花札賭博「手本引」の胴師(ゲームマスター)である父が、恩のあるヤクザ親分と、新興のヤクザ親分との対決の場で、新興のヤクザ親分にいかさまを見破られて自殺するところからはじまる。主人公は、父の死後、小料理屋を経営しながら、恋人とかたぎの結婚生活を送ろうとするが、父のいかさまが、新興ヤクザ親分の息のかかった男にそそのかされて行ったことであり、すべては新興ヤクザ親分の罠であったことを知り、恋人との将来と復讐のあいだでゆれ動く、というものである。とうぜん、クライマックスは花札賭博で、親の仇と勝負であるから、主人公の鉄面皮がキーとなる。自分のすることが、ひとりの人間の命を損なうことになるとわかって、「いかさまのふり」という「罠」をしかける主人公の、孤独な無表情が映えるのである。
○夜。大学時代の後輩の「十兵衛」と、新宿で飲む。
かれこれ二年ぶりの再会である。ぼくも、彼も、たばこを好むのであるが、こんなご時世では、そうした場を探すことがむずかしい。しかも、最初に入った店は、人気店なのか、新型コロナウィルスの感染拡大対策なのか、きっかり二時間で追い出されてしまったので、喫煙可能な喫茶店をもとめて、夜の新宿をさまようこととなった。
ひさびさの再会を祝して、また、こころならずも苦境に立たされている彼をねぎらう意味でも、中島敦の作品集をプレゼントした。ぼくが中島敦の作品中で最高傑作と思っている、「悟浄歎異」と「狐憑」、そして「文字禍」、この三作品が、同時に収録されているのは、ちくま文庫から出ているこの作品集だけなのである。
本をプレゼントしたときに、「サインをいただけませんか」と言われたのも、二年ぶりである。理由を聞いたことはないが、彼がぼくにサインを求めるのは、彼が大学を卒業した、十年前からのことである。以来、いろいろな場面で、ぼくにサインを求めてくれるのである。ぼくの書いた小説が収録された本が出版されたときも、おすすめの小説を渡したときも。今回もサインをさせてもらった。
○本日の、全国の新規感染者数は、二六八〇人(前日比+一四九人)。
そのうち、東京は、五六一人(前日比-九人)。
十一月二十九日(日)
○昼に、ラーメン鍋を作り、夜に、チーズ揚げ餃子を作った。
○本日の、全国の新規感染者数は、二〇六九人(前日比-一一一人)。
そのうち、東京は、四一八人(前日比-一四三人)。
引用・参考文献
イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/)
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