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上越といえば千成の釜飯【信越北陸一人旅⑱】

とうとう日本海に接する町、新潟県上越市にやって来た。

時刻はすでに18時を回っており、そろそろ夕ご飯を食べに行こうと考え始めた。この日の夕飯は旅行の出発前にリサーチ済みで、もうここに行くぞ、というお店を決めていた。

そのお店は、上越市内にある「千成」という和食屋さん。出発前に調べた情報によると、なんでもここは上越市ではかなり有名なお店のようで、特に釜飯が名物だという。なんなら「上越といえば千成の釜飯」という言葉も聞くほど有名みたいだ。僕は上越に行った時は必ずこのお店に行くと決めていた。


その千成は、上越市のやや南の方にある。日本海に接した公園にいた僕は上越市内を通る大きめのバイパスに乗って南へと車を走らせた。公園からお店までは、20分ぐらいだったと思う。お店の敷地内に駐車場が設けられていたので、空いているスペースに車を停めた。

千成の建物は白い壁に板が張られた、昔の蔵のような見た目。外観の雰囲気だけで、歴史のありそうなお店だということが伺える。だが意外にもお店がオープンしたのは2009年ということで、ゴリゴリに平成のお店らしい。

お店の外観。ちょっとだけ蔵っぽい。

引き戸を開け、中に入る。予約なんてまったくしていないが果たして入れてもらえるのだろうか、なんてちょっとドキドキしていた。中に入ると年配の女性店員さんがこちらへやって来て、

「いらっしゃませ、ご予約されてますか?」

と言ってきた。その瞬間ああ、やっぱこのお店はみんな予約して行くのが当たり前なんだな、と思った。僕はダメ元で、

「いえ、予約はしてないんですけど、1人って入れますか…?」

と聞いてみた。するとその店員さんは

「あぁー…少々お待ちくださいね」

と言って厨房の方に消えて行った。ここで門前払いをされてしまうかと思ったが、意外と入れてもらえるのか?なんてうっすら期待しながら店員さんが戻って来るのを待った。

その店員さんはしばらく戻って来なかった。よそ者が入り口の前でボーッと立っている光景はほかのお客さんの目には一体どう映っていたのだろう。体感5分ぐらい経過した頃、さっきの店員さんがこちらに戻って来た。

「お時間かかりますがよろしいですか?」

店員さんから発せられたその言葉を聞いて、僕はホッとした。それに時間がかかることに関しては大いに構わない。だって釜飯ですから、待つことは承知の上で来店している。予約もしてない一人客を座敷に案内してくれてありがとう、と心の中でつぶやいた。


案内された席は座敷の個室だった。一人で使うには広すぎてやや手持ち無沙汰な感じがする。個室の外を見るとカウンター席でたくさんのお客さんが食事や会話を楽しんでいる。僕もできればあっちの席が良かったなぁと思ったが、はっきり言ってお店に入れてもらえただけでも十分である。なんなら、ほかのお客さんを気にせずゆっくり食事ができるのは個室のメリットに他ならない。

テーブルに置かれたメニューを眺める。一番最初のページに「釜めし定食」と書かれている。これを見た瞬間きっと僕はこれを頼むのだろうと思った。定食は松と竹と梅があるようで、普通こういう場合は梅が一番安価なメニューで松が一番高価なメニュー、という松竹梅の順になっているのが相場だが、このお店はなぜか梅が一番高価で、竹が一番安価だった。一番高価な梅は3300円で、釜めしにお刺身と天ぷら、茶碗蒸し、小鉢、果物がついた内容になっている。僕はせっかくの旅行だからここは惜しまずに梅を注文することにした。しばらくして女性の店員さんがお茶を持って来てくれたのでそのタイミングで注文をお願いした。釜めし定食の梅を注文すると、

「釜めしはしめじでよろしかったですか?」

と聞かれた。

どうやら定食の釜めしはしめじの釜めしとなっているが、差額を払うことで別の釜めしに変更することも可能なようだ。釜めしのメニューはざっと20種類くらいある。中には時価のものもあった。急にどうしようか迷ってしまった僕は店員さんに

「どれが人気ですか?」

と聞いてみた。僕は観光客なのでどうせならその土地の人が一番よく食べる料理を食べてみたいと思ったからだ。店員さんは

「そうですねー。五目は色々具材が入っているので人気ですよ。あとは貝柱も人気です」

と答えた。色々具材が入っているということで五目釜めしを注文した。店員さんは

「お時間本当にかかりますのでしばらくお待ちください」

と僕に念押しして部屋を後にした。

待っている間は障子の向こうで繰り広げられる会話をBGMにしながら、今日車中泊する場所について調べたりしていた。あらかじめこの日は「道の駅 うみてらす名立」で泊まるとメモっていた。この道の駅にはお風呂があるという情報を事前に得ていた僕は、この場所で車中泊をするついでにお風呂にも入れてもらおうと考えていた。改めて道の駅のホームページを見てみると、お風呂の営業は午後9時まで。今の時刻は午後6時半。このお店から道の駅までの時間を調べた。およそ30分。それを知って、あまり時間に余裕がないんだなと悟った。釜めしはいつ出てくるのだろうか。今日はよく待つなぁとか思いながらたった一人の個室で待ち続けた。


注文してから30分後くらいに、たくさんのお皿を持った店員さんが部屋にやって来た。

「一気に持って来ちゃってすみません。いつもは少しずつお出しするんですけど」

店員さんはそう言いながら、続々とテーブルに料理を並べていく。たしかに、こういうお店の料理ってちょっとずつ出てくるもんだとこちらも思っていた。

「そういう日もあるんですね」

僕がそう店員さんに言うと、

「ええ。今日は一気に出て来てしまったもので」

と言って少し笑っていた。

やって来たのは小鉢と漬物とお刺身。これだけでも結構な量だが、その後すぐに天ぷらもやって来た。とりあえず小鉢と漬物から食べ始めた。美味い。

小鉢3種盛り。良いお店は小鉢にも手を抜かない。

続いて刺身。この刺身もとても美味しい。日本海に近いだけあって鮮度の良さを感じる。醤油が結構濃いめなのも特徴で、魚の旨みを楽しむためにも醤油をつけるのは少しだけで良いと思った。

一人にしては豪華な刺身盛り。上越の刺身はレベルが高い。

天ぷらも衣がサクサクで美味しい。もう刺身と天ぷらだけでもすでに満足度がだいぶ高い。

なす、かぼちゃ、エビなどの天ぷら。サクサクで美味い。

そしてその後まもなく釜飯も登場。お待ちかねのメイン料理である。蓋を開けると、しめじや筍、カニなどで彩られたご飯が白く輝いている。これを食べるために自分は上越に来たのだ、と思わせられるほどのビジュアルだった。

メインの五目釜飯。30分ぐらい待った。

改めてテーブルの上に並んだ料理を引きで見ると、なんだかとても豪華だ。旅館の飯かよってぐらい品数が多いし、釜飯、天ぷら、刺身など定食のメインになれるような面々が一つの定食の中で共存し合っている。こんな料理を本当に一人で食べてしまってよいのだろうかとも思った。

旅館の飯かよ。

釜飯は食べてみると思っていた以上に優しめの味付け。粘り気が少し強く、あとからほんのりと優しい出汁の風味が追いかけてくる。パンチは弱いけど美味しい釜飯だと思った。

あと茶碗蒸しが付いてくるのも嬉しい。釜飯同様、こちらも優しめな味わいだった。

若干ピンボケしている茶碗蒸し

最後にはフルーツも付いてきた。この日のフルーツはメロンだった。関係ないが僕の母はメロンが嫌いだ。

デザートのメロン。

一人でこんなに食べて、お腹いっぱいだし大満足である。なかなかこういう感じのお店に一人で行くこともないし、良い体験ができた。これが3000円ちょっとで食べられるのはコストパフォーマンスが良い気もする。


お店を後にし、今日の宿へ向かった。宿、といっても道の駅のことである。さっき通ってきたバイパスを北上し、日本海の沿岸に沿って車を走らせる。もう20時を回っているのであたりは真っ暗。右側には常に海があるが暗くてその景色は全然分からなかった。

30分ほど車を走らせてたどり着いたのは、「道の駅 うみてらす名立」だ。文字通り、日本海沿いに立っている道の駅で、駐車スペースはかなり広い。そして止まっている車もかなり多いようだった。お風呂もあるし、人気の道の駅なのだろう。僕はこの道の駅でひとっ風呂いただき、公園での汗を流すことができた。

「道の駅 海てらす名立」のお風呂。21時閉館前に間に合って良かった。

今日は本当によく歩いた一日だった。体中が疲れていたか車内ですぐに眠りに落ちたらしい。道の駅での夜のことは、あまり覚えていない。

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