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カルマの行方

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サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「あ…
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#タバコ

第七話 布施"嘆き"の壁

第七話 布施"嘆き"の壁

 外に出ると雨はすっかり止み、綺麗な月が人々の罪を照らすかのようにはっきりと見えた。
 「きれいな月やね。余計に酔ってしまいそうやわ」
優華はセミロングの髪を風に靡かせながらそう言った。
「月はいくら綺麗でも、この機械油の臭いで台無しやがな。鼻の穴に556ぶち込まれた気分や」
 丸井はグニャっと曲がったハイライトの煙で綺麗な満月を覆い隠すように夜空に吐き出した。
「ほんま口悪いな丸ちゃん。556鼻

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第六話 そこどけそこどけ生野が通る

第六話 そこどけそこどけ生野が通る

大阪市生野区。
西成区と肩を並べるほど治安悪化が進んでいる。
 大阪市から特別危険区域に指定されて数年が経つが治安は一切回復しないでいた。
生野区の入り口と呼ばれている桃谷駅では「そこどけそこどけ生野が通る〜」から始まる生野わらべ歌がJR環状線の電車到着を知らせるメロディーとして採用されている。
 南巽、北巽、鶴橋という生野区で最も治安の乱れた地区を通る大阪メトロ千日前線は、同3駅を廃駅とした。

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第五話 心の仮性包茎

第五話 心の仮性包茎

 彼女は丸井のすぐ横についた。カウンターに置かれた手が小さく震えている。典型的なアルコール依存症の症状だ。
 チラッと彼女と目があった。1秒にも満たない短い時間だった。
 恐らく20代後半だと思うが、綺麗な瞳の下には大きな"クマ"があり、それはファンデーションでも隠せず、瞳の大きさをより際立たせていた。何か大きな業を背負い、丸井を悲しみの奥底まで引きずり込みそうな瞳だった。
 彼女はエイヒレと瓶ビ

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